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情報システム部門の戦略部門化とアウトソーシング
経営からの戦略部門化/アウトソーシングの要請
情報システム部門の戦略部門化/アウトソーシングが重要視されるようになった理由を経営面から検討します。
戦略部門化の必要性
EDPS,MISからIT革命にいたる情報システムへの期待の変化に関しては,Web教材「情報システムへの期待の変化」を参照してください。それをまとめた表は,☆をクリックしてください。
情報システムへの期待の発展とキーワード
年代 |
コンセプト |
特徴 |
関連事項 |
1960年代
前半 |
EDPS
データ処理
システム |
定例的・定型的業務処理の機械化による
省力化目的。給与計算,請求書発行,
会計処理など→基幹業務系システム |
汎用メインフレームでのバッチ処理
アセンブラからCOBOLへ |
1960年代
中頃 |
MIS
経営管理
システム |
経営者・管理者への報告・統制管理を目的
データの有効活用の観点が重視
当時のコンピュータ能力による限界。 |
ファイル転送等オンラインシステム
データベースの出現
中間管理者不要論 |
1970年代
後半 |
DSS
意思決定支援
システム |
意思決定支援の対話型システム
非定例的・非定型的な検索加工
半構造的,支援,有効性を重視 |
TSSの普及→EUCへの発展
1980年代の情報検索系システムへ |
1980年代 前半 |
OA オフィス オートメーション |
オフィス業務の生産性向上
パソコンの活用,TSSへの接続 |
個人の情報技術知識の向上
1990年代のCSSへ
|
1980年代 中頃 |
SIS 戦略的情報 システム |
競争優位の確立を目的
情報システム自体が経営戦略の武器
経営戦略と情報技術の統合 |
「DP部門からIT部門へ」
CIO:情報担当役員
企業間ネットワークの発展
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1990年代
前半 |
BPR
リエンジニア
リング |
業務改革のインフラ
コスト,品質,サービス,スピード
組織そのものの抜本的改革 |
ダウンサイジング,CSSの普及。
グループウェアの普及。
情報の伝達,情報の共有化 |
1990年代
後半 |
IT革命 インターネット のインパクト |
グローバル化,規制緩和
産業秩序の崩壊と再編成
顧客満足・アジャイル経営
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イントラネット,エクストラネット
サプライチェーン・マネジメント
モバイル・コンピューティング
|
情報システム部門は戦略部門であるべきだという議論は目新しいものではありません。企業にコンピュータが導入されるようになった1960年代でも,手作業のコンピュータによる機械化が目的ではなく,それを機会に業務を全面的に改革することが重要なのだといわれており,情報システム部門は変革のためのチェンジ・エージェンシーであるべきだといわれていました(ちなみに私が当時属していた企業では,情報システム部門を「合理化推進室」と称していました)。
情報システムの発展段階論として有名なのがノーランの発展段階説(1979年)です。情報資源の管理は,(1)初期(2)普及(3)統制(4)統合(5)データ管理(6)成熟の6段階があり,各段階は、適用業務ポートフォリオ,資源(技術・人),マネジメント(組織化・計画・統制),ユーザの意識の4つの成長変数で説明できるとしました。
当時は,パソコンも企業間ネットワークも普及していない時期でしたが,統制期と統合期に間で,DP業務からIT業務へのパラダイムシフトが起こることを指摘しています。
戦略部門化の重要性が広く認識されるようになったのは1980年代のSIS(Strategic Information System:戦略的情報システム)の普及です。それまでの情報化は定例的・定型的な業務のシステム化(基幹業務系システム)による効率化,MISでの経営者や管理者への報告や分析,DSSでの意思決定への支援など,人間の業務を支援することが目的でしたが,SISでは小売店への受注端末配布による受注の増大,顧客情報入手によるマーケティング戦略など,情報技術の活用そのものが,経営戦略実現の武器であり,競争優位を確立するインフラとなったのです。
それを推進するには,情報システム部門はDP部門からIT部門へと変化する必要があります。それで,情報システム部門を「情報企画部」のような戦略部門としてIT業務に専心させ,DP業務をアウトソーシングすることが重要であると指摘されました。また,経営の視点から情報技術をマネジメントするためにCIO(Chief Information Officer)の職制が重視されるようになりました。
1990年代ではBPR(Business Process Reengineering)の概念が普及しました。そこでは情報技術は業務改革のイネーブラーであるといわれました。これはさらに企業間でのBPRであるSCMへと発展しますが,その実現には情報技術が必須になります。
1990年代後半からインターネットの急激な発展により,情報技術は経済,産業,社会全般に急激に変化させ,IT革命といわれるまでになりました。情報活用技術は経営戦略と同義語となってきたのです。
このような動きに対応して,情報技術を経営戦略に効果的に融合させるために,情報技術をよく知っている情報システム部門を,戦略部門として経営の中枢に位置づけることが求められています。
アウトソーシングへの要請
情報システム部門のアウトソーシングは広く行われていますが,その理由に,情報システム部門および情報システムが企業での通常の業務とくらべて特殊な面があることも考えられます。
- 業務に必要な技術の特殊性
- 情報システムの開発や運営には,ハードウェアやソフトウェアなどの情報技術の知識が必要です。情報技術の発展は急速ですので,それに適した要員の確保や育成が重要です。そのような分野に興味を持つ人は,一般企業よりも情報関連企業に就職するでしょうし,そのほうが育成に適した環境です。このような技術は,多くの企業で応用ができますが,逆に自社に限定されたものではありません。ですから,あえて自社要員で行う必要はありません。この分野ではコア・コンピタンスにはならないのです。
- 勤務形態や評価基準の違い
- 自社でコンピュータを設置して運用するには,365日24時間の勤務体制が必要になりますが,これは一般的なオフィス業務としては例外です。また,プログラム作成の生産性や出来上がったプログラムの効率性などは,能力により数倍あるいは数十倍の違いがありますし,その能力は年功序列にはあまり関係がありません。それで通常の業務遂行での評価基準で評価するのが難しい面があります。
- 費用の増大と効果把握の困難性
- 不況のなかで情報化のための費用が増大しています。しかもシステム化の対象が省力的なものから戦略的なものに変化してきたことから,その効果把握がわかりにくくなってきました。それで,費用対効果を明確にすること,費用を抑制することが求められます。社内の一部門にしておくよりもアウトソーシングにしたほうが,費用の把握が容易になりますし,社内の部門では固定費であったものを変動費にすることができます。しかも,情報処理の専門企業に任せることにより,合理化が進み費用削減が期待できます。
- 最近の状況
- 特に最近の動向として,アウトソーシングの必要性が高まってきました。
インターネットによる資材調達や販売などのWebビジネスが発展してきました。これは開発方法も運用体制も従来の情報システムとは異なります。自社で開発運営するよりも,それを専門とするベンダにアウトソーシングするほうが適切になってきました。
情報セキュリティ対策が情報システムだけでなく企業全体の課題になってきました。それを回避するために,インターネットに接続する機器を自社に設置しないで専門のベンダに管理させるほうが安全でもあり,コスト面でも安価であり,要員の確保や待遇の面でも適切だといわれるようになりました。
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