下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、大企業の元請(親事業者)が中小企業の下請(下請事業者)に対して、優越的な立場から不当な取引を強いる濫用行為を禁止する法律です。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S31/S31HO120.html
- (目的)第一条
この法律は、下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護し、もつて国民経済の健全な発達に寄与することを目的とする。
親事業者と下請事業者の受注発注に関する取引が日々活発に行われれる中で、両者の間で様々なトラブルが生じることがあります。
そこで、親事業者と下請事業者の公正な取引を目指し、立場の弱い下請事業者の利益保護を図っているのが、独占禁止法の特別法として制定された下請代金支払遅延等防止法(下請法)なのです。
具体的には、親事業者による優越的地位の濫用等の排除されるべき行為の内容を、同法の中で具体的に法定し、迅速かつ効果的に下請事業者の保護を図ろうとするものです。
下請法の概要
- 規制対象となる取引
- 製造委託
修理委託
情報成果物作成委託
役務提供委託-
- 親事業者・下請事業者の定義(資本金による)
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委託内容1 委託内容2
親事業者 3億円超 1千万円~3億円 5千万円超 1千万円~5千万円
下請事業者 3億円以下 1千万円以下 5千万円以下 1千万円以下
- 委託内容1
物品の製造・修理委託及び情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に係るもの)の場合
- 委託内容2
情報成果物作成・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に係るものを除く)の場合
- 親事業者の義務
-
書面の交付の義務(支払金額、支払期日など)
(成果物の検査を行う場合は、発注時の交付書面に具体的内容と検査実施が親事業者の義務であることを記載する。)
書類の作成・保存の義務(2年間保存)
支払期日を定める義務(受領後60日以内)
遅延利息の支払いの義務(年率14.6%)
- 親事業者の禁止事項
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受領拒否の禁止
下請代金の支払遅延の禁止(受領日から60日以内の支払期日までに支払)
下請代金の減額の禁止
返品の禁止(明らかに下請事業者に責任がある場合などを除く)
買いたたきの禁止
購入・利用強制の禁止(親事業者の製品など)
報復措置の禁止
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
割引困難な手形の交付の禁止
不当な経済上の利益の提供要請の禁止(リベートなど)
不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(発注取消や変更など)
- 罰則規定
- 以下の行為に対しては、行為者(担当者)個人が罰せられる他、会社も罰せられます
(50万円以下の罰金)。
書面の交付義務違反
書類の作成及び保存義務違反
報告徴収に対する報告拒否、虚偽報告
立入検査の拒否、妨害、忌避
その他の違反行為に対しても、公正取引委員会からの勧告、中小企業庁からの行政指導が行われます。
情報サービス・ソフトウェア業界と下請法
情報サービス・ソフトウェア業界では、中小企業が多く、多重かつ複雑な下請関係が一般化しており(参照:「情報サービス業の特徴」)、下請取引の適正化が重要な課題になっています。
平成16年の下請法改正により、プログラム作成等に係る下請取引も下請法の対象に含まれることになりました。それに伴い、経済産業省は、具体的な解説と対処方法を示した「情報サービス・ソフトウェア産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」(
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/guideline/ITSS.pdf)
を策定して、徹底を図っています。
例えば、システム開発を請け負ったベンダが、その一部を下請業者に委託したとき、開発する内容は決まっているが、ユーザ側との契約代金が未定なので、下請代金の取決めはユーザとの契約決定後としたいというのは、この法律の対象となり禁じられています。
ユーザ企業での外部委託と下請法
下請法は、元請と下請の取引に関する法律ですから、ユーザ企業が自社利用の情報システムを外部委託する場合には適用されないのですが、次のような場合には対象になります。
- 他社への販売目的
例えば、電機メーカーが製品に内蔵したソフトウェアを外部委託する場合は対象になります。会計システムなども、自社利用するだけでなく、他社への販売も目的にしている場合には対象になります。
- 優越的地位の濫用
ユーザとベンダの間の取引は、下請法の適用対象外ですが、委託者が受託者に対し取引上優越した地位にある場合、優越的地位の濫用には独占禁止法が適用されることがあります。
また、ユーザが低い単価を元請企業に押しつけた場合、元請企業が下請企業に転嫁することがありますが、このような取引を行わないようにするために、「情報システム・モデル取引・契約書」に基づいた契約慣行を行うことが望ましいとされています。
- IT子会社
大企業の多くはIT部門を子会社化しています。親会社とIT子会社での取引は、実質的にに同一会社内での取引とみなされ、下請法の対象にはなりません。
IT子会社は情報サービス業ですから、IT子会社が外部委託をする場合は下請法の対象になります。IT子会社の資本金が小さくても、親会社の影響が大きい場合には、下請先への濫用行為について親会社が当事者とみなされることもあります。