電子契約法と準則
電子契約法(電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO095.html
経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」
http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140808003/20140808003-3.pdf
実店舗以外での商取引契約全般に関しては、「特定商取引法」による規定があります。電子契約法は、そのうち電子商取引の契約に関して従来の民法を一部改正したものです。また、この準則は、電子商取引等に関する様々な法的問題点について、電子契約法や民法などの関係法律をどう適用するかに関して、経済産業省が法律解釈について考え方を提示したものです。
ここでは、この準則の「電子商取引に関する論点 オンライン契約の申込みと承諾」を参考にして、Web取引での契約について
・どの時点で契約が成立するのか
・申込者(消費者)の操作ミスは救済されるのか
・事業者はどのようなWeb表示設定をする必要があるのか
などの概要を、主に事業者側の立場から学習します。
契約成立時期は承諾通知の到達時点
売買契約は、申込者が事業者に注文の申込みをして、事業者が承諾することにより契約が成立します。その契約成立時期を受諾通知発信時点だとすると、ネットワークの状況により申込者に届かないことがあり、申込者は契約が成立したかどうかわかりません。また、申込者が受諾通知を見た時点だとすると、実際に見たかどうかを事業者にはわかりません。
それで、承諾通知が申込者に到着した(見たかどうかは無関係に)時点で契約が成立したとしています。
承諾通知には、申込をしたWeb画面に表示する場合と電子メールで通知する場合があります。
Web画面の場合
申込者のWeb画面上に承諾通知が表示された時点で契約が成立します。申込者がそれを現認したか否かは問題にしません。
Web画面が、「ご注文ありがとうございます。電子メールでご確認ください」というような表示の場合は、この画面は承諾通知ではないので、電子メールの場合と同じことになります。
電子メールの場合
原則として、承諾通知の受信者(申込者)が指定した又は通常使用するメールサーバー中のメールボックスに読み取り可能な状態で記録された時点で契約が成立します。
- 申込者のメールサーバの故障や事業者とサーバ間の障害により、承諾の通知が記録されなかった場合は契約不成立です。
- 承諾通知がメールボックスに記録された後に
・申込者が読まずに放置していた、あるいは、廃棄してしまった
・迷惑メールと誤認されて、廃棄された
・メールサーバあるいはサーバとパソコン間の障害等により消失した
場合は契約成立になります。
- 送信された承諾通知が文字化けにより解読できなかった場合、通常の「文字コード変換」の設定を行っても解読できないときは契約不成立になります。添付ファイルによって通知がなされた場合、申込者がもっていないアプリケーションソフトで作成したので読めない場合も契約不成立になります
申込者は通常の知識があるとみなされ、その知識で解読できるならば、それを行ったかどうかに関係なく契約が成立します。
申込者(消費者)の保護
「商品の説明画面を見ようとクリックしたら、そのまま注文確定になってしまった」とか「入力ミスに気付いたのだが、訂正する方法が見つからず、注文させられてしまった」というのでは困ります。このような「意思に反した契約」に関して、それが申込者のミスであっても救済される(契約不成立になる)措置が講じられています。
申込画面での事業者の義務
「顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為」は、特定商取引法により行政処分の対象になります。
- あるボタンをクリックすれば、それが有料の申込み(注文確定)となることを申込者が容易に認識できるように表示していない場合
- 申込みをする際に、申込者が申込みの内容を容易に確認し、かつ、訂正できるように措置していない場合
申込者の操作ミスの救済
悪質ではなくても、次の措置が講じられていない場合は、申込者の操作ミスであっても(重過失でなければ)契約不成立になります。
- 事業者が、申込者が申込みを行う前に、申込内容の「確認を求める措置」が講じてある場合は契約成立になります(確認画面を表示したのに申込者がミスに気付かず確定ボタンをクリックしたのは申込者の重過失とみなされ契約成立になります)。
「確認を求める措置」として、入力画面とは別に「最終確認画面」を表示して、その画面に確定ボタンを設けて、「確認ボタンをクリックすることで最終的な意思表示となること」を明瞭に表示する必要があります。このとき、確認ボタン以外に訂正ボタンやキャンセルボタンも並設するべきです。
入力画面と同一画面の別の箇所に確認画面が表示されていても、「送信ボタン」が入力画面の側にあると、このボタンが最終確認ではなく単なる入力操作だと思ってクリックすることがあるので、「確認を求める措置」としては不十分だとみなされます。
- 申込者自らが確認措置が不要であると意思表明をした場合は契約成立になります。
例えば、確認表示のための「はい」「いいえ」ボタンがあり、「はい」がデフォルトになっているのに、あえて「いいえ」をクリックしたなどがそれにあたります。しかし、「いいえ」にすると申込が確定することを正しく理解できるように説明してあることが必要です。
なお、これらの確認措置が十分にとられており申込が正当であることを証明するのは事業者の責任だとされています。
その他のトピックス
ワンクリック請求には支払義務はない
ワンクリック請求とは、Webページや電子メールに記載されているリンク先を一度クリックしただけで、有料サービス登録がされたという画面表示があり、代金を請求されるという詐欺の手口です。
- 有料契約の申込であることが明記されていないならば、そもそも申込みの意思表示がないので、契約は成立しません。それで、代金請求の根拠がなく、請求に応じる法的義務はありません。
- 契約の申込みであっても、申込者に契約の要素につき錯誤がある場合には、申込者に重過失があるときを除き、申込者は錯誤による契約の無効を主張することができます。
- 申込者が内容を理解していても、契約の内容が公序良俗に反する場合、契約そのもが無効なので、代金請求の根拠がなく、請求に応じる法的義務はありません。しかし、申込者も公序良俗に反するので有罪になることがあります。
幼年者等の意思無能力者の申込みは無効
未成年者によるオンラインゲームでの高額利用などが問題になっています。
- 幼年者等の意思無能力者である未成年者が申込みを行った場合には、意思無能力者は取引行為自体を有効に行うことができないため、契約は無効になります。その旨を表示する必要があります。
- 申込者が成人であるかのように年齢を偽わる場合があります。「詐術を用いた」といえるかについては、年齢や生年月日の入力以外に、当該未成年者の年齢、商品や役務の性質、商品の対象者、事業者が設定する年齢入力のための画面の構成等の個別具体的な事情を考慮した上で実質的な観点から判断されるものと解されるとしています。
デジタルコンテンツでの利用期限がある場合の問題点
これに関しては多様なケースがあるので、ここでは数例の問題点を列挙するだけにします。
- インターネットに接続して利用するコンテンツならば、期限がきたら事業者が利用者のアクセスを遮断することで解決します。
- 利用期間内に事業者がサービスを終了した場合、事後処理に関する規定がないと、事業者はサービス提供義務が消滅したので債務不履行にならないとされます。しかし、いわゆる売り逃げ詐欺が問題になります。
- ダウンロードしてパソコン単体で利用できるコンテンツで利用期限が設定されている場合、事業者がサービスを停止しても期間内は利用できるので問題はありません。バージョンアップなどの契約があると問題が起こりますが。
- 期間を過ぎたとき、事業者は返還や消去を求めることはできますが、コピーを返還したり消去をしないままのことがあります。ダウンロードしてインストールする時点で期限日になると動作しなくなる仕組みを組み込んでおくような方法がとられることもあります。
トラブルが発生しないように、契約申込のWebページで具体的な規定を明確に示し、利用者の「確認を求める措置」を講じておくことが重要になります。単に文書を表示するだけでなく、重要条項には個別に確認のラジオボタンを設けるなどの工夫も考えられます。