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ソフトウェアの輸入超過とオフショア開発

キーワード

国際比較、ソフトウェア輸入超過、オフショア開発


ソフトウェアは次の3つに分類できますが。ここでは、ベーシックソフトとアプリケーションソフトを「ソフトウェア製品」とし、カスタムソフトウェアは「オフショア開発」の対象とします。

ソフトウェア製品の輸入・輸出額

みなさんはパソコンでWindowsやOfficeソフトを使っている人が多いでしょう。これらは米国のマイクロソフトの製品です。スマートフォンのAndroidやiOSも米国製品です。企業でも高額なERPパッケージやデータベース管理システムなど多様なソフトウェアを購入して利用していますが、それらも海外(主に米国)の製品が多いのです。
 ソフトウェア製品の輸入・輸出額に関する統計は不備な状況ですが、2007年でのソフトウェア輸入額は900億円になるのに対して輸出額は23億円だったという調査があります。ソフトウェアに関しては、日本は完全な輸入国なのです。輸入元はほとんどが米国です(説明)

実は、ソフトウェアの輸出入に関する統計は不備で、直近のものは情報処理推進機構「ソフトウェアの海外取引動向に関する調査」2007年調査です。
                  輸 入  輸 出 輸入/輸出 米国からの輸入
                  百万円  百万円   倍    百万円(%)
   ベーシックソフトウェア    73,862  1,242   59.5   72,651(98.4)
   アプリケーションソフトウェア 17,311  1,019   17.0   15,432(89.1)
   合 計            91,173  2,261   40.3   88,083(96.6)

 しかも、IT関連4協会の会員企業回答企業218社(回答率20%)だけの集計値なので、外資系ベンダが少なく個人向けが明確に把握できないという制約があります。実際の輸入額は、これよりかなり高くなりましょう。

OSではWindowsシリーズが、検索エンジンではグーグル検索がほぼ独占的な世界シェアをもっています。多数の人が利用しているから価値があがることを「ネットワーク効果」、長期間継続して利用していると他に乗り換えるのが困難になることを「ロックイン効果」といいますが、このようなソフトウェアは、それらの典型的な例だといえます。
 日本の国際収支や企業の競争力からみると、毎年1千億円のハンディを背負わされていることになります。また、これらのソフトウェアはIT利用の根幹になるので、それを海外(しかも一企業)に頼っているのは、国家として不安定な状況です。
 日本版のマイクロソフトやグーグルを出現させてソフトウェア輸出を増大させるため、特定の外国や企業の影響を少なくするオープンソースソフトウェアの利用を活発化するため、海外ソフトウェアを使うにしても、企業や社会のニーズに合致した利用方法を追求して付加価値の高い製品を開発するためには、優秀なIT技術者を育成することが必要です。
 また、それらの製品をビジネスとして成功させる人材も必要です。

IT企業でのオフショア開発

オフショア開発の規模

システム開発を海外に委託することを、オフショア開発といいます。大規模ベンダ企業では、大多数がオフショア開発を行っています。 (図表)
 オフショア開発は年間1千億円にもなり、将来さらに増加すると予測されています(この分野も輸出額はわずか5億円程度です)。
 委託先は圧倒的に中国が多く、それにインドが続いています。未だ相対的に小さいのですが、ベトナムへの委託が急増しています。 (図表)

オフショア開発の目的と委託分野

IT企業がオフショアを行う最大の理由は、人件費の削減です。それに、国内では人材不足で緊急の大規模開発に対応できない理由もあります。そのため、委託業務は労働集約型の詳細設計、プログラミング、単体テストなど下流工程が高い割合になっています。 (図表)

インドのIT技術は高く、米国ではインドでのオフショア開発が主流です。インドが英語圏であり、欧米への留学生が多いこともありましょう。それで、日本でもインドへの委託理由として、「高い技術力の活用」が高くなっています。委託分野も中国と比較して、研究分野での委託比率が高く、上流工程の比率がやや高い状況です。
 しかし、中国の人件費は向上していますし、付加価値の高い分野への進出を進めているので、次第にインド型に移行するでしょう。中国型のオフショア開発ではベトナム(最近ではミャンマーも)が注目されています。

ユーザ企業の海外拠点システム

ユーザ企業では海外に生産拠点や販売拠点を展開するグローバル化が進んでいます。大企業では既に大部分が海外進出していますし、中小企業でも増加しています。 (図表)
 各国で法律や慣習が異なるので、日本本社のシステムをそのまま流用することはできません。それで、拠点個別のシステムを開発しています。 (図表)
 また、グローバル戦略を展開するには、全地域を統合した情報システムにする必要があり、大企業では統合化が進められています。 (図表) (事例)

大企業が基幹業務系システムの再構築をする理由の一つに、海外拠点システムとの統合があります。
例えば自動車企業では、世界中に生産工場をもっていますが、歴史的事情により、部品や中間製品のコード体系がシステムごとに異なっていました。それでは、効果的な部品調達ができません。数百億円の費用をかけて、部品の統一、コード体系の統一を行いました。
ERPパッケージ 普及の初期には、国による言語、通貨、会計制度などの違いを吸収できることが大きな効果だとして、海外に拠点展開をしている大企業が先行して導入しました。

海外拠点システム開発の委託先選定では、日本国内・現地の日系ベンダが多いのですが、大企業では日系ベンダも海外ベンダも特に区別しないようになってきました。 (図表)
 大企業では、海外拠点システムだけでなく、一般のシステム開発をコスト削減の観点から直接に海外ベンダに発注することもあります。年商1,000億円以上の大企業では、海外ベンダへ発注したことのある割合は約20%で、全システム開発の4%程度だという調査(注) があります。

ガートナー ジャパン「日本企業のグローバル・ソーシング利用、2011年は大手企業を中心に回復」2011年
ロケーション別には、中国の利用が全体の88%、インドが12% (複数選択可)
従来、委託方法も国内ベンダを経由した間接的なものが主流だったが、オフショア・ベンダーとの直接取引を希望する日本企業が増えている。

システムの運用は、日本に集中、海外拠点地域で分散して行う割合が多いのですが、日本や海外拠点地域に限定せずに、データセンターで集中処理をする動きもあります。データ活用の面では統合するのが便利だし、日本ではデータセンターの運営費用が高いのが理由です。クラウドコンピューティングの普及に伴い、その傾向は進むでしょう。 理解度チェック: 正誤問題選択問題記述問題