情報化社会、産業革命、高度情報化社会、IT革命、ユビキタス社会、顧客志向マーケティング、生活者志向マーケティング、環境志向マーケティング、収益逓増の法則、ネットワーク外部性、メットカーフの法則、第4次産業革命、ビッグデータ、オープンデータ、AI、IoT、ロボット、GPS、自動車自動走行システム、スマートグリッド、スマートシティ、インダストリー4.0、Society 5.0、人間中心のAI社会原則、フェイクニュース、コロナ禍とニューノーマル社会、シェアリング・エコノミー、フィンテック、FinTech、ニューノーマル社会、グリーンIT、Green Of IT、Green By IT、グリーン調達、グリーン購入法、3R、HEMS、環境アセスメント、ゼロ・エミッション、ISO14020,エコマーク制度、グリーン会計、環境格付融資、PUE、ホワイトデータセンター、エコファーム、IT基本法、IT総合戦略本部、電子政府、e-Govポータル、e-Stat、LGWAN、住民基本台帳ネットワーク、マイナンバー法、Society 5.0(超スマート社会)
社会・産業とIT
工業化社会から情報化社会へ
産業革命(第1次~第3次)
18世紀の蒸気機関の発明を発端とした機械工業技術の進歩は,それまでの農業を中心としていた社会から工業化社会に移行させました。現在は、ICT(情報通信技術)の発展が社会全般に大きな影響を与え高度情報化社会といわれています。
産業や社会など広範囲に急激に深刻な影響を与える変化を産業革命といいますが、現在は第四次産業革命のさなかにあると認識されています。
- 第一次産業革命
- 18世紀末~19世紀初。蒸気機関の発展
農耕社会から工業化社会へ。
- 第二次産業革命
- 19世紀末~20世紀初。電気の実用化、内燃機関
鋼鉄、石油、電気などのエネルギ革命による、工業化社会の確立
20世紀後半にコンピュータの普及
- 第三次産業革命
- 1980年代から、ICTの発展と普及が社会に与える影響が大きく、工業化社会から情報化社会へと変化していることが認識されるようになり、2000年前後には高度情報化社会への移行が現実的なものになりIT革命といわれるようになりました。
マーケティング理念の変化
工業化社会から情報化社会への変化を,企業でのマーケティング戦略を例にして説明します。
- 販売志向マーケティング
- 工業化社会での基本的なマーケティング戦略です。
モノが不足している時代では作れば売れるのですから,大量生産が企業発展の基本でした。それを生産志向マーケティングといいます。生産が進み需要と供給がほぼ均衡するようになると,いかに売るかという販売志向マーケティングになりますが,それでもよい製品を安く提供することが競争に勝つことになりますので,大量生産して大量販売することが重要な戦略です。すなわち,規模の経済を基本としたマーケティングであり,工業化社会はそれに適した社会でした。
- 顧客志向マーケティング
- ところが1970年代頃になると,モノが潤沢な時代になりました。そうなると,価格を重視する人,品質を重視する人,デザインやブランドを重視する人など消費者のニーズも多様になりますし,そのニーズが時と場合により異なり,しかもその変化が激しくなります。このように消費経済が成熟化した環境では,大量生産・大量消費の経済は限界に達しました。顧客ニーズしかも「個客」のニーズに合致した新製品・新サービスを迅速に提供することが必要になります。このような顧客のニーズを重視するマーケティングを顧客志向マーケティングといいます。
顧客志向マーケティングでは,顧客の消費動向をすばやく入手して分析すること,それに合致する製品開発のために社内外の知識を結集すること,製品の部品入手から納入にわたる供給に関係する企業間で情報の共有化を図ることなど,「情報」がマーケティングでの大きな要素になってきます。しかも,これらは一企業では限界がありますので,企業間での情報の共有や業務連携が重視されます。すなわち,規模の経済から連結の経済へと変化することになります。
- 生活者志向マーケティング、環境志向マーケティング
- 顧客は単に消費者ではなく商品やサービスに囲まれて生活をする生活者です。その観点から,リサイクルが容易で地球にやさしい商品を環境を配慮した手段で提供することも提供者の任務であり社会的責任です。それを実現することが顧客満足につながります。そのようなマーケティングを生活者志向マーケティング,環境志向マーケティングといいます。
情報化経済の特徴
工業化社会はモノが中心の経済でしたが,情報化社会では情報や知識が付加価値の源泉となる経済になります。両者の経済原則には大きな相違があります。
- 収益逓増の法則
- モノは他人に渡せば自分の持分は減ってしまいます。また,みんなが同じモノを持つようになれば,そのモノとしての価値は低下してしまいます。それを収益逓減の法則といいます。ところが情報(知識)は,他人に渡しても減るものではありませんから,1個だけ作れば無限の需要に応えることができますし,普及するに伴い価値が上昇するのです。
例えば、アドビシステムズはPDFという文書形式を考案しました。PDF文書を読むためのPDFリーダを無料提供したり、PDFの仕様を公開したりして、利用者を増やしました。その結果、PDFは文書形式の標準になり、アドビシステムズの有料製品であるPhotoshopやIllustratorの優位性はさらに高くなりました。
- ネットワーク外部性
- 経済外部性(外部効果)とは、ある経済主体が、第三者の経済主体の行動により影響を受けることです。
ネットワーク外部性とは、収益逓増の法則を、消費者が同種の財の消費者に与える外部経済という意味で用います。
例えばスマートフォンは、加入者が多いから、ますます便利になるし通話料金も下がるなどの価値が増大するといった関係です。
- メットカーフ(メトカルフェ)の法則
- 「情報の価値は利用者数の2乗に比例する」という収益逓増の法則やネットワーク外部性を端的に示したものです。
第四次産業革命・高度情報化社会
2010年代後半になると、ロボット工学、人工知能(AI)、ビッグデータ、モノのインターネット(IoT)、自動車の自動運転などが実用化してきました。この影響は2000年当時とは質的に異なることが認識されるようになり、第四次産業革命といわれるようになりました。このような社会を高度情報化社会といいます。
第4次産業革命
内閣府『日本経済2016-2017』第2章第1節「第4次産業革命のインパクト」
(https://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/n16_2_1.html)では、第4次産業革命について、次のように述べています。
「第4次産業革命とは(中略)次のようないくつかのコアとなる技術革新を指す。
一つ目はIoT及びビッグデータである。工場の機械の稼働状況から、交通、気象、個人の健康状況まで様々な情報がデータ化され、それらをネットワークでつなげてまとめ、これを解析・利用することで、新たな付加価値が生まれている
。
二つ目はAIである。人間がコンピューターに対してあらかじめ分析上注目すべき要素を全て与えなくとも、コンピューター自らが学習し、一定の判断を行うことが可能となっている。加えて、従来のロボット技術も、更に複雑な作業が可能となっているほか、3Dプリンターの発展により、省スペースで複雑な工作物の製造も可能となっている。
こうした技術革新により、
・大量生産・画一的サービス提供から個々にカスタマイズされた生産・サービスの提供、
・既に存在している資源・資産の効率的な活用、
・AIやロボットによる、従来人間によって行われていた労働の補助・代替
などが可能となる。
企業などの生産者側からみれば、これまでの財・サービスの生産・提供の在り方が大きく変化し、生産の効率性が飛躍的に向上する可能性があるほか、消費者側からみれば、既存の財・サービスを今までよりも低価格で好きな時に適量購入できるだけでなく、潜在的に欲していた新しい財・サービスをも享受できることが期待される。」
社会の概念変化
ユビキタス社会
2000年代には、高度情報化社会をユビキタス社会という表現が普及しました。
ユビキタス(ubiquitous)とは「(神のごとく)遍在する」という意味です。ユビキタス社会とは,モバイルコンピューティング,ホームネットワークなど、ICTを活用した機器やシステムが、社会全般にあまねく存在し、どこでも,いつでも,情報機器の存在を意識せずに利用できるほど日常生活に溶け込んだ状態のことをいいます。
しかし、携帯電話や情報家電などの製品でもなく,コンピュータやネットワークなどの個別技術でもなく,それらをインフラとした社会を構築する環境であると認識するのが適切です。人間と情報機器(ネットワークも含む)との共生社会であり,IT革命の目指す高度情報化社会とは,ユビキタス社会の実現であるともいえます。
インダストリー4.0(スマートファクトリー)
ドイツ政府が進めている国家プロジェクトで第4次産業革命そのものともいえますが、特に製造業分野での構造改革を指しています。
- ダイナミックセル生産:ライン生産とセル生産の長所をミックスして、ロボットと工程間通信の活用により、進化させた生産方式
- マスカスタマイゼーション:マスプロダクション(大量生産)とカスタマイゼーション(受注生産)のミックス。企業間のダイナミックセル生産を組み合わせて、仕様の異なる製品の生産をグループ化します。
- サイバーフィジカルシステム:フィジカル世界(実世界)にある多様なデータを、サイバー空間(ネットワークやコンピュータシステム)で処理し、利用状況や消費者ニーズに即応したものづくりを実現します。
Society 5.0(超スマート社会)
- Society 5.0の定義
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会を指すもので、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会だとしています。第5期科学技術基本計画(2016年)において、我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されました。
- Society 5.0のイメージ
必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会のさまざまなニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といったさまざまな違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会だとしています。
- ITとの関係
これまでの情報社会(Society 4.0)では、人がサイバー空間に存在するクラウドサービス(データベース)にインターネットを経由してアクセスして、情報やデータを入手し、分析を行ってきました。人間が情報を解析することで価値が生まれたのです。
Society 5.0では、IoTによろフィジカル空間のセンサーからの膨大な情報がサイバー空間に集積されます。このビッグデータを人工知能が解析し、その解析結果がフィジカル空間の人間に様々な形でフィードバックされます。すなわち、社会システムそのものが価値を生じるのです。
- SoS(System of Systems)
Society 5.0 での「つながる社会」を実現するためには、行政や社会のシステムが個々のシステムでは達成できないタスクを実現するために複数のシステムが統合しての相互関連を強化する必要があります。以下の5つの特徴をもったシステムをSystem of Systems (SoS)としています。
1. 運用の独立性︓SoSの構成システムは、個別に運用。
2. 管理の独立性︓構成システムは別々に調達され、インテグレート。しかし、運用中の構成システムはそのまま運用。
3. 進化的開発︓機能や目的が追加/削除されたり、途中で変更されるなど、開発とシステムが進化的。
4. 創発的振舞い︓構成システム単独では実現できない目的を、SoSとして実現。
5. 地理的な分散︓構成システムが離れており、構成システム間では、質量やエネルギーの物理量ではなく、情報を交換。
- 経済発展と社会的課題の同時解決
ビッグデータを踏まえたAIやロボットが今まで人間が行っていた作業や調整を代行・支援するため、日々の煩雑で不得手な作業などから解放され、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができるようになると期待されています。反面、従来の情報活用は、経済や組織などが重視され、情報格差が拡大することが指摘されています。
Society 5.0では、先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、イノベーションから新たな価値が創造されることにより、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる人間中心の社会の実現を目標としています。これは、国連の「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals:SDGs)の達成にも通じるものです。
内閣府「人間中心のAI社会原則」2019年
https://www8.cao.go.jp/cstp/aigensoku.pdf
Society 5.0 がより良いものとなるためには、AIの活用が必要になります。
AIは、SDGs(Sustainable Development Goals)の目標を達成し、持続可能な世界の構築するための鍵となる技術であり、社会に多大なる便益をもたらす一方で、その社会への影響力が大きいので、適切な開発と社会実装が求められます。
本原則は、AIが発展し身近に利用されている社会をAI-readyとし、人間中心であるらめの原則を示したものです。
- 基本理念
人間の尊厳が尊重される社会(Dignity)
多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会(Diversity & Inclusion)
持続性ある社会(Sustainability)
- Society 5.0 実現に必要な社会変革「AI-Ready な社会」
人
社会システム
産業構造
イノベーションシステム(イノベーションを支援する環境)
ガバナンス
- 人間中心のAI社会原則
AI社会原則
人間中心の原則
教育・リテラシーの原則
プライバシー確保の原則
セキュリティ確保の原則
公正競争確保の原則
公平性、説明責任及び透明性の原則
イノベーションの原則
AI開発利用原則
総務省 AI戦略会議「AIに関する暫定的な論点整理」2023年
https://www.soumu.go.jp/main_content/000889475.pdf
2022年から生成AIの利用者が急増し、その影響は2013年広島サミットでの重要課題の一つになりました。
この活用は、安全保障、災害対策、温暖化対策等の地球規模の課題においても重要なツールであり、積極的に取り組む必要があります。反面、生成AIには、従来のAI利用とは異なる大きなリスクが懸念されています。
本報告書は、いま考えられるリスクとAIの開発・提供・利用に当たっての必要な環境整備を中心に、基本的な考え方や進め方などを可能な限り提案しており、政府関係者や幅広い各界各層におけるさらなる議論に資することを目的としたものです。
懸念されるリスク
機密情報の漏洩や個人情報の不適正な利用のリスク
犯罪の巧妙化・容易化につながるリスク
偽情報等が社会を不安定化・混乱させるリスク
サイバー攻撃が巧妙化するリスク
教育現場における生成AIの扱い
著作権侵害のリスク
AIによる失業者増大のリスク
フェイクニュース
フェイクニュースとは、デマ情報で、虚偽であるにも関わらず、そのセンセーショナル性をもって広く拡散される情報のことです。真実のニュースと比較してフェイクニュースは、短時間に多数の人に伝播すること、かなりの人が信じてしまうこと、善意から他人に伝えてしまうことなどの特徴があります。
以前からフェイクニュースによる風評被害や中傷誹謗が大きな社会問題になっていましたが、2016年・2020年の米国大統領選挙などで、フェイクニュースが民主主義社会の基本構造に影響を与えることが指摘されるようになりました。
- ポストツルース
客観的事実よりも感情的な訴えかけの方が世論形成に大きく影響します。フェイクニュースが広まると、それが「事実」ではなくても「真実」だと思われるようになります。「火のない所に煙は立たぬ」のだから「それに近い事実があるのだろう」と思う人もいるでしょう。その結果、フェイクニュースが「事実」だと多くの人が信じてしまうことがあります。このような風潮をpost-truth(ポスト真実、脱真実)といいます。
政治でA陣営が対立するB陣営の政策や候補者を誹謗し、Aを支持するフェイクニュースを流布すれば、国民・有権者は次第にAに傾くでしょう。また、現状に不満を持っている人には、その不満を解決する迎合主義が受け入れられます。その解決策が虚偽であってもです。そのため、選挙では迎合主義のフェイクニュース戦略が選挙で勝つ大きな要因にまでなるのです。
- フィルターバブル
一般に人間は、自分に心地よい情報に接したがり、そうでない情報を避けたがる傾向があります。この性向と極端な迎合主義が合致すると、「マスコミは信用できないので読まない。真実を伝えるA陣営が運営するSNSだけを見る」となり、alternative factsこそが唯一の真実だとする層が発生します。
検索エンジンは過去の検索履歴を分析して、利用者が見たいだろうと思われる情報を優先して上位に表示して、見たくないだろうと思われる情報を遮断する(フィルタリングする)パーソナライズをしています。
そのうちに意識せずにそのようなサイトだけになり、まるで「泡」(バブル)の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見えなくなります。しかも、それが正論だと信じるようになります。
大統領選挙のように国論がAとBに二分したような場合、A支持者はA礼賛・B否定のフィルターバブルに落ち込み、B支持者も同様な状態になります。互いに自分たちが正義であり他者は悪者だとして先鋭化し、深刻な分裂社会になる危険性があります。
民主主義は構成員が、多様な意見を聴き、健全な判断基準により評価し、それに基づいて意見を発表したり行動することにより成立します。フェイクニュースは、他の意見を遮断するので民主主義の基本を崩す危険があります。
参照:フェイクニュース
コロナ禍とニューノーマル社会
2020年から爆発的に拡大した新型コロナウイルス感染症は、多くの分野に深刻な影響を及ぼしました。新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)が策定され、国の緊急事態宣言、都道府県のまん延防止等重点措置が発出されました。
緊急事態宣言・まん延防止等重点措置では、コロナ感染を減らすには人と人との接触機会を減らすこと、三密(密閉・密集・密接)を避けることが肝要だと指摘されました。
(ソーシャルディスタンス:密集を避ける。飛沫感染を防ぐために、他人との距離(2m以上)を保つこと)
三密環境をつくらないために、飲食店等の営業時間短縮や酒提供の禁止、スポーツ観戦の観客制限や無観客試合、イベントの中止や入場制限などの要請が行われました。また、海外観光客の激変により、観光地・名所、旅行・宿泊業は大きな打撃を受けました。
それによる営業の低下をカバーするために、ITを利用した新しいビジネスモデルが出現しました。
- ネット販売の多様化
スーパやコンビニだけでなく個人事業者など、新規にネット販売を始める形態が増加しました。
生鮮食品や食材などが取扱商品になりました。飲食店も参加し、流通業者と連携して、従来の出前サービスを行うことも増えました。
- イベントのオンライン配信
来客を失ったコンサートや劇場などのイベントでは、有料のオンライン配信サービスに切替えることも行われました。単にオンライン化しただけでなく、双方向に視聴者の参加を可能にしたり、CGやVRなども取り入れて、従来よりも魅力のある新分野も出現しました。観光地のオンラインツアーでは、各国語版を強化して日本文化の発信と連携したり、地域名産品のオンライン販売とタイアップするなど、業種間協力も緊密になりました。
- テレワークの普及
ビジネスの分野では、テレワーク推進の要請が出されました。在宅勤務などの労働環境の変化、オフィスの地方移転など大きな変化が起こりましたが、これに関しては「情報と労働」で取り上げます。
このように、コロナ禍は社会全般に深刻な打撃を与え、その対策として多様な変化を生み出しました。しかも、コロナ禍は長期間続くし、収束した後も、コロナ以前の社会には戻らず、新しい社会像を認識すべきだとして、Withコロナ、Postコロナと呼ばれるようになりました。しかも、そのような社会が平素の状態なのだとして、ニューノーマル社会といわれるようになりました。
社会変化と技術
ビッグデータ
オンラインショッピングサイトで蓄積される購入履歴、スマートフォンの発信履歴による災害時の行動分析、改札口での乗車・降車データ分析による交通状況の把握などには、数十テラバイトに及ぶ巨大なデータになります。このような巨大サイズのデータをビッグデータといいます。
近年は、IT能力の向上により、このようなビッグデータを扱えるようになってきました。また、AI(人工知能)などの分析技術が発展して、ビッグデータから有用な情報を得ることが盛んになってきました。
ビッグデータの活用効果を上げるには、多くのショッピングサイトが参加してビッグデータを構築したり、災害状況のデータと行動データを組み合わせるなど、多くのビッグデータを公開が求められます。
オープンデータ
行政や民間企業がもつデジタルデータを公開して、誰もが多様な分析が行えるようにすることです。従来から電子政府推進の一分野として、行政データの公開が行われてきましたが、さらに対象の拡大、原始データに近い詳細データの提供が求められています。さらに民間企業によるオープンデータの提供も求められています。
参照:官民データ活用推進基本法
AI(Artificial Intelligence、人工知能)
2010年代末になると、AIという用語は日常用語になりました。ビッグデータを分析することにより、特定の分野では、人間の思考能力を超えるようになり、急速にその分野を拡大しています。
さらに、その技術をロボットや自動車などの機器に取り込むことにより、機器や設備の自律化が実現してきました。
詳細:人工知能(AI)とニューロコンピュータ
IoT:全てのモノがネットでつながる
IoT
「モノのインターネット」ですが、情報・通信機器だけでなく、産業機械から消費材まであらゆる「モノ」に通信機能を持たせ、インターネットを介して通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うことです。
さらに、AIを組み合わせることにより、自動で認識・判断・動作する機能が可能になってきました。
詳細:IoT(Internet of Things)
ロボット
以前から産業用ロボットによる無人工場が普及していますが、2000年代になると、ヒューマノイド型ロボット(人間の形をした2足歩行ロボット)が実用化され、介護や危険作業への利用が進んできました。
CPS(Cyber-Physical System)
フィジカルシステム=現実世界で、センサシステムが収集した情報をサイバ空間でコンピューター技術を活用し解析。経験や勘ではなく、定量的な分析で、「あらゆる社会システムの効率化」「新産業の創出」「知的生産性の向上」などを目指すサービスおよびシステムの総称です。
自動運転を例にすれば、
自動車のセンサが位置や周辺の様々な情報を収集する(フィジカル)
その情報をAIなどの情報技術が分析する(サイバー)
自動車のハンドルやブレーキなどの駆動系を制御する(フィジカル)
というような組合せになります。スマートシティやビッグデータなどもCPSの例だといえます。
また、地域情報をコンピュータ内に再現し、地震や水害などの発生時における人の動きやライフラインの被害などをシミュレーションして、対策を検討するような、必ずしもセンサとの直接接続を伴わない分野までもCPSに含めることもあります。
GPS(Global Positioning System, 全地球測位網)
位置情報システムとは、現在自分のいる場所を知るシステムです。
人工衛星からの電波を受けて、さらに、GPS基地局により補正され、受信者の位置を算出します。
GPSは、広い分野で利用されています。代表的なのが携帯電話やカーナビ(カーナビゲーション)です。
自動車自動走行システム
地図情報の整備、カーナビの精度向上、レーダ技術や解析技術の発展などにより、自動車の自動運転が実用化されてきました。それにもAIの活用が注目されています。
ハンドル操作と加速・減速などの運転操作をを自動化するレベルはすでに実用化されており、限られた条件での無人運転が実験され一部実現されるようになってきました。
5Gは「超高速」「低遅延性」「多数同時接続」の特徴を持つ無線通信のシステムです。スマートフォンなどのモバイル通信は、これまで4Gでしたが、それに比べて10倍(最大10Gbps)の高速通信が可能になり、単にスマートフォンが高度になるだけでなく、社会全般に大きな影響を与える通信インフラとして期待されています。
- 超高速
4k/8kなどの高精細映像や大容量コンテンツをモバイル環境で送受信できます。精緻な画像が必要な医療分野、動きの速いスポーツ分野などでの利用も期待されます。
- 低遅延性
自動車の無人運転やロボットの遠隔操作の安全性に重要な特性です。
- 多数同時接続
スマートフォンなどの接続が容易になるがけでなく、IoTなど多くのセンサや機器が接続するシステムが容易に実現できます。及しつつある現在では、これまでの100倍程度の同時接続が必要になっています。
高度情報化社会への国の戦略
2001年のIT基本法の施行以来、国はデジタル化推進戦略を展開してきましたが、2021年にはデジタル庁の設置など、抜本的な高度な戦略を進めることになりました。国のIT政策に関しては、別章「国のIT戦略」を参照してきださい。ここでは「身の回りの変化」に関する事項の概略を掲げるだけにします。
電子政府・電子自治体とは、ITの利活用による、申請手続きなど行政と民間の接点のオンライン化、行政データのオープンデータ化、行政内部の合理化などを行うことです。
- 申請・手続きの基本原則(デジタル手続法)
デジタルファースト:原則として、個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する。
ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする。
コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスがどこからでも/一か所で実現する。
- オンライン化のための法律
電子署名法:電子書類で、電子署名が実印と同じ法的効力をもつ。その認証は民間機関だけでなく地方自治体でも行う。
公金受取口座登録法等:公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等
- オープンデータ化(官民データ活用推進基本法)
行政の持つデータは、原則としてオープンデータ化し、二次加工が容易な形式で提供すること。民間にもオープンデータ化を働きかけること。
- マイナンバーの利用範囲(マイナンバー法、個人情報保護法の改正)
行政内部での各部門の連携やワンスオンリーのためには多数のシステムの連携が必要です。連携には個人番号で紐づけるので、統一した個人番号にするのが便利です。そのためにマイナンバーが設定されましたが、個人情報の漏洩、行政の個人監視などのリスクもあり、現在では利用範囲が限定されています。リスクを回避しながら利用範囲を拡大するための方法・手段が検討されています。
その他関連事項
個人台帳と行政ネットワーク
行政で扱うデータの多くは住民個人に関するものですから、行政業務のIT化では、住民個人に番号を付けてコード化して、部署間で共通して利用するのが適切です。反面、行政データではプライバシに関する事項が多いので、正規の担当者以外にアクセスされるのは困りますので、多目的利用に関しては厳しい規制が必要です。
- LGWAN(Local Government Wide Area Network:総合行政ネットワーク)
- 地方自治体のコンピュータネットワークを相互接続した広域ネットワークです。中央省庁間の政府共通ネットワーク(霞ヶ関WAN)と相互接続されています。これらは、インターネットからは切り離された閉域ネットワークです。
官民接点のIT活用では、行政の部署からインターネットへの接続が必要です。LGWANとインターネットに接続できるパソコンを峻別し、そのパソコン間のアクセスには厳重な規制が行われています。
- 住民基本台帳ネットワーク
- 住民基本台帳とは,住民票の原本のことで、住所・氏名などが記載されています。
住基ネットとは,中央官庁と地方公共団体の間で住民基本台帳情報を共有・利用することを目的としたネットワークシステムです。
住民基本台帳法では,「住民の居住関係の公証,選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り,あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため,住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め,もつて住民の利便を増進するとともに,国及び地方公共団体の行政の合理化に資すること」を目的としています。
シェアリング・エコノミー
インターネットを通じて、サービスの利用者と提供者を素早くマッチングさせる仕組みです。
住宅の空き部屋等を活用した民泊サービス、自動車の貸借や自家用車での移動サービス、衣服等の貸借、専門的なスキルの提供サービスなど多様なマッチングをするWebサイトが出現しています。
フィンテック(FinTech)
ファイナンス(金融)+テクノロジー(技術)の造語で、銀行での預金者の資産運用や証券会社での投資相談などに、ITを活用した革新的な金融サービス事業のことです。
インターネットやスマートフォン、AI、ビッグデータなどを活用したサービスを提供する新しい金融ベンチャが登場しました。例えば、資金の貸し手と借り手を直接つないだり、Eコマースと結びついた決済サービスを提供する企業があるほか、ベンチャ企業が決済などの金融サービスに参入する動きも増えています。
個人対象サービスの面では、預金やクレジットカードの利用履歴をスマートフォンで集約し、個人間の送金・貸借の仲介サービスなどを、従来の金融機関からのサービスを受けられない個人や中小企業に提供する仕組みがあります。
これらの実現には、顧客からの要望に人間の専門家が対応するのが一般的でしたが、非常にコストがかかります。近年では、人間に代わって、AIやコミュニケーション技術を用いた自動応答システムが普及してきました。それをロボアドバイザ(Robo-advisor)といいます。
環境とIT
環境マネジメントシステム
企業が環境保全及び汚染予防に努力するのは社会的責任です。そのためには、マネジメントシステムとして、経営者がリーダーシップを持ち、継続的な改善活動として実践することが求められます。環境マネジメントシステムを構築し、実施することを規定した国際規格(ISO 14000)、それを日本規格とした JIS Q 14000 があります。これに関しては、別章ISO 14000(JIS Q 14000)環境マネジメントシステムで扱い、ここでは省略します。
エネルギーマネジメントシステム(Energy Management System、EMS、EnMS)
エネルギーマネジメントとは、情報通信技術を用いて、家庭、ビル・工場、地域などのエネルギー(電気・ガス等)の使用状況を把握、管理、分析、制御して最適化する「省エネ」を行うシステムです。
略称のEMSは、環境マネジメントシステム(Environmental Management System、EMS)との混同を避けるために、EnMSと表記することもあります。
HEMS(Home Energy Management System)
太陽光発電装置などのエネルギー機器、家電機器、センサ類などを家庭内通信ネットワークに接続して、エネルギーの可視化と消費の最適制御を行うための管理システムです。
新築住宅のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)化には各自治体から補助金が交付されますが、HEMSの設置が条件になっています。また、政府は2030年までに全世帯へHEMSを設置することを目標としています。
- エコキュート
ヒートポンプを利用して,より少ないエネルギーで大きな熱量を発生させる電気給湯システムです。ヒートポンプとは、空気の熱を熱交換器で冷媒に集め、その冷媒を圧縮機で圧縮してさらに高温にし、高温になった冷媒の熱を水に伝えてお湯を沸かすしくみです。
- エネファーム
家庭で使う電気とお湯を一緒に作り出す家庭用燃料電池コ・ジェネレーションシステムです。
燃料電池は、天然ガスから採取した水素と空気中の酸素を反応させて電気を作ります。コ・ジェネレーションとは、発電時の発生熱で湯を沸かすことです。
BEMS(Building and Energy Management System)
オフィス・商業ビルなどを対象としたEMSです。空調や照明などの設備機器によるエネルギー使用状況を各種センサや監視装置で把握して、制御装置などにより設備機器を自動制御します。
- ZEB(Net Zero Energy Building)
省エネ技術・創エネ技術(太陽光発電など)・BEMS技術などを組み合わせて、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。
- BAS(Building Automation System、ビル総合管理システム)
エネルギー機器だけでなく、防犯、防災などの設備など、ビル内の状況をすべて管理するシステムです。
FEMS(Factory Energy Management System)
工場を対象とするEMSで、受配電設備・生産設備のエネルギー管理、使用状況の把握、機器の制御などを総合的に管理するシステムです。
日本電機工業会「FEMS導入の手引き」では次のような着眼点を挙げています。
・その設備が必要な理由を考え、本当に必要でなければ廃止する
・稼働させる必要がない時間帯に設備を停止する
・エネルギーやゴミの回収・再利用を検討する
・省エネ設備やエネルギー効率の良い設備に変更する
・負荷がかかっている設備の運転条件を見直す
CEMS(Community Energy Management System)
HEMS、BEMS、FEMSなどを包含し、地域全体でのエネルギー管理を行います。スマートグリッド・スマートシティなどがあります。
スマート化
ビッグデータを分析することにより、社会システムの最適化を図ることです。近年はAIを活用することにより高度化が進んでいます。
- スマートグリッド(Smart Grid)
狭義には、ICT技術を活用して、発電と電力消費を総合的に制御し,再生可能エネルギーの活用,安定的な電力供給,最適な需給調整を図るシステムですが、より一般的には、社会インフラ、特にライフラインの電力、水道、ガスなどについて、供給網を最適に制御するシステムです。地域の供給量や需要量をリアルタイムに測定して、省エネ対策に大きな効果があると期待されています。
電力消費をリアルタイムで把握するには、家庭での電力メータや水道メータに発信機能を付けて事業者に送信するスマートメータ化が重要になります。検針員の人手不足対策とあわせて、急速に切り替わってきました。
- スマートシティ
スマートコミュニティともいいます。スマートグリッドをより広域化・高度化して、都市全体を、対象に再生可能エネルギーの効率的利用による省資源化を徹底した環境配慮型都市です。
また、公共交通情報や道路渋滞情報などの把握・解析による交通システムの制御や整備、医療や介護などの福祉システム、災害での各種センサ情報や避難経路などもスマートシティの大きな要素です。
すなわち、ICTの高度活用、特にビッグデータの活用による都市機能全般の合理化を図る概念で、国や自治体、デベロッパなども大きな関心をもっています。
省エネのトピックス
エネルギーハーベスティング
harvestとは「収穫」の意味です。エネルギーハーベスティングとは「環境発電技術」ともいいます。身の回りにある熱や振動などさまざまな形態の密度の低いエネルギーを「収穫」して電気エネルギーに変換する技術です。
以前から太陽光で充電する腕時計や電卓などがありましたが、エネルギーハーベスティングでは体温とか床踏みなど、従来は見捨てられていたナノワット、ピコワット単位での電力までも利用できるようになりました。
エネルギーハーベスティング技術の特徴は、微弱電力で動作するデバイスによりセンサーネットワークを用い、電源への配線や一次電池(使い切り電池)が不要ことです。
ノーマリーオフコンピューティング
以前からパソコンの電力削減のために、スリープなど使わない構成要素の電源をオフする方法が行われていました。ノーマリーオフコンピューティングとは、動作中(ノーマリー)であっても真に動作すべき構成要素の電源をオフする方法です。
従来の演算装置やメモリなど高速素子は揮発性の素子が使われており、そのため、この電源をオフにするのは困難でした。近年、それらの揮発性素子に劣らぬ性能を持つ不揮発性素子の開発が進められています。これが実用化されれば、「真に動作すべき要素」だけを残して、多くの要素をオフにしておき、処理が必要とするときだけオンにすればよく、大幅な省電力化が可能になります。
ISO 50001(エネルギーマネジメントシステム)
組織がエネルギー利用に関する要改善点を自ら発見し、計画、実行、確認という段階を通して継続的に改善するPCDAサイクルの確立に重点を置いた国際規格です。
ISO 50001は、取り組むべき個別具体的な対策(例: 太陽光発電装置や電力モニターの導入 など)については規定していません。エネルギーパフォーマンスの改善に焦点が当てられており、「エネルギーパフォーマンスの把握」と「エネルギーパフォーマンスの改善」に関する具体的な要求事項が盛り込まれています。
- エネルギーパフォーマンスの把握
- エネルギーレビュー実施
自組織のエネルギー使用を過去・現在・未来に分けて測定分析し、著しいエネルギー使用の設備や装置、システムを特定すること
- エネルギーベースライン設定
エネルギーパフォーマンスの変化を計測するために、適切なデータ期間をとってエネルギー量を測定し作成した基準値のこと
- エネルギーパフォーマンス指標設定
エネルギーパフォーマンスの監視測定をするために定めた評価指標のこと
例えば前年度からの活動で実質的に削減した量(kL/t、kWh/kL、km/L、L/GJ)や、販売高あたりのエネルギー消費量(kL/万円)、従業員あたりのCO2排出量(kg-CO2/人)、生産ラインあたりのエネルギーコスト(TJ/億円)など
- エネルギーパフォーマンスの改善
エネルギーパフォーマンスの監視、測定、分析を通して、
・企画・設計における改善
・運用・保守による改善
・調達における改善
を実現するための継続的マネジメントとしての取組み
組織のEnMSが ISO 50001 が示す要求事項に適合していることを認証する制度があります。
組織内のエネルギー管理規程を作成させ、その規程が業種・業態、置かれた環境や事情、組織の能力に鑑みて不十分ではないか、実現不可能なものはないか、継続性を担保する仕組みが備わっているか等、ISO 50001の要件適合性を審査機関が個別に審査し、合格した組織に認証を付与します。
日本での認証機関は(公益財団法人)日本適合性認定協会(JAB) と(一般財団法人)日本情報経済社会推進協会(JIPDEC) の2社です。
グリーンIT
環境志向の高まりのうち、特にIT関連分野ではグリーンITといわれるようになりました。
グリーンITには二つの側面があります。
・Green Of IT:IT機器の生産や使用でのグリーン化
・Green By IT:ITの活用による他産業や社会のグリーン化
Green Of IT:IT機器のグリーン化
米国の環境保護庁は、グリーンITとは「環境配慮の原則をITにも適用したものであり、温暖化防止への配慮はもちろんのこと、IT製品製造時の有害物質含有量の最小化、データセンターのエネルギーや環境面での影響への配慮、さらには、リサイクルへの配慮等も含めた包括的な考え方である」と定義しています。
- IT機器の低電力化
CPUや周辺機器の設計により、消費電力を少なくする努力が行われています。
パソコンを使わないときには電力を最小限に抑えたスリープ状態にするなどの工夫が行われています。
IT機器を再利用しやすくするために、解体を容易にする設計をしたり、再利用しやすい材料を使用することが行われています。
- 機器の仮想化
利用面では、サーバの仮想化などにより、サーバの個数を減らしたり、稼働台数を自動的に調整したりする技術が発展してきました。
Green By IT:ITの活用によるグリーン化
グリーンITをIT機器のグリーン化と定義するだけでは不十分であり、ITを活用して、企業活動で消費するエネルギーを削減することも考慮する必要があります。
上述のスマートグリッドやスマートシティもGreen By ITを意識したものだとえます。
- 生産の合理化
ITを活用することにより、製品の最適設計や生産工程の最適化(エネルギー削減)を行うことができます。
- 流通の合理化
ITを活用することにより、トラックの配送経路を最適化して走行距離を短縮するとか、中間基地を廃止することにより、荷物の積み下ろしにかかる作業を削減することができます。
- 人の移動の削減
テレワークにより会社への通勤回数を減らしたり、電子会議により出張の回数を減らすことができます。
- ペーパーレス
グループウェアの活用により、紙への印刷や配布などを少なくすることができます。
グリーンIT推進制度
グリーン調達
IT機器に限定しません。品質や価格の要件を満たすだけでなく,環境負荷の小さな製品やサービスを,環境負荷の低減に努める事業者から優先して購入することです。
グリーン購入法
循環型社会の形成のためには、「再生品等の供給面の取組」に加え、「需要面からの取組が重要である」という観点から、平成12年5月に循環型社会形成推進基本法の個別法のひとつとして「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12HO100.html)が制定されました。
環境への負荷低減のための原材料や部品を利用、使用による温室効果ガス等の低減、廃棄時の再生利用による廃棄物の発生抑制などの努力義務を定めています。IT機器もこれに含まれます。パソコン等を勝手に廃棄してはならないのはこの法律があるからです。
3R
3Rとは、Reduce(廃棄物の発生抑制)、Reuse(再使用)、Recycle(再資源化)を推進することです。
「資源有効利用促進法」に基づき、パソコン等には自主回収及び再資源化が義務付けられています。パソコン3R推進センターが推進しています。
- 個人の場合:製造したメーカが回収義務があります。回収料金はPCリサイクルマークがあるものは無償、ないものは有料になります。自作パソコンなどは、自治体による回収ができますが、有料になります。
- 法人の場合:産業廃棄物として、廃棄処分記録が義務付けられています。通常はパソコンメーカ、システムベンダ、産業廃棄物事業者などに委託しますが有料です。自治体回収はできません。
JEITAによる推進
国は、電子情報技術産業協会(JEITA)を中核推進機関として、グリーンIT推進を行っています。JEITAは2013年に「ITソリューションによる社会全体の省エネ貢献量~グリーン by IT 貢献量評価の考え方~ 解説書」(http://home.jeita.or.jp/greenit-pc/activity/reporting/110628/pdf/survey02.pdf)を公表しました。グリーン by IT 効果の基本的な計算方法 などが示されています。
環境改善推進関連
国際動向
- EuP(Energy-using Product)
- 環境配慮設計に関する,EU(欧州連合)指令です。
- SDGs
- SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)とは、2015年国連サミットで採択された「2030年までに「誰一人取り残さない」持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」です。先進国と発展途上国が協力して取り組むユニバーサル(普遍的)な目標です。日本も「SDGs経営推進イニシアティブ」を策定するなど積極的に取り組んでいます。
- パリ協定(COP21)
- COP(Conference of Parties:気候変動枠組条約締約国会議)の第21回会合が2015年にパリで開催され、同会議で採択された内容が国連気候変動枠組条約の下での気候変動への取り組みに関する国際条約になりました。これをパリ条約といいます。2016年に発効しましたが、2019年に米国は離脱しました。
1. 世界全体の温室効果ガス排出量削減のための方針と長期目標の設定
2. 各国の温室効果ガス排出量削減目標の設定
3. 途上国・気候変動の影響を受けやすい国々への援助
(SDGsは持続可能な開発を目指す広範囲な目標で拘束力がないのに対して、パリ協定は対象を気候変動への取組みに限定した国際条約です。)
社会全般
- 環境アセスメント
- 環境影響評価ともいいます。大規模開発事業等の計画時に,環境への影響を事前調査すること。事業実施の各段階において環境への影響を測定して公表しモニタリングすること。
- ゼロ・エミッション(zero emission)
- 自然界への汚染排出をゼロにすること。単に生産段階での排出を減らすだけでなく,消費や廃棄の段階での影響にも配慮して原材料や生産工程を見直すことが重要。
- ISO14020,エコマーク制度
- 第三者が一定の基準に基づいて環境保全に資する製品を認定する国際規格のことです。こに基準に適合していることを第三者が認証し、合格するとエコマークの表示ができます。
詳細;ISO 14000(JIS Q 14000)環境マネジメントシステム
- グリーン会計の導入
- 正式には環境会計といいます。環境省は「事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的(貨幣単位又は物量単位)に測定し伝達する仕組み」と定義しています。
カネをベースにした原価計算と同様に、企業活動で要したエネルギーをCO2排出量に換算して集計することをグリーン会計といいます。排出量規制のための報告義務として作成されることもありますが、エコに積極的な企業では、原単位あたりの排出量を分析して、改善の方法を見出したり、経年変化を記録して実績評価に用いています。これを行うことは、コスト削減にもつながる効果も大きいといわれています。
- 環境格付融資
- 金融機関が融資をする際に、融資先の企業の環境配慮活動を評価し、その評価を考慮して、金利など融資条件の設定や、融資可否を判断することです。
高い環境格付を得ることにより、環境格付融資に係る利子補給事業を実施しています。また、企業が環境保全活動を実施していることをアピールして,投資家から環境保全のための資金を募ることができます。
個別業界での対応
新エネルギー関連
- RPS法(Renewables Portfolio Standard;新エネルギー利用特別措置法)
- 原子力発電や火力発電から、太陽光発電や風力発電など環境負荷の低いエネルギーへのシフトを推進するための法律です。
電力会社に対して、定められた目標年までに一定割合以上の再生可能エネルギー発電の導入を義務付けるものです。その後、全量性の固定価格買取制度が始まり廃止へと移行しています
- グリーン電力証書。TGC(Tradable Green Certificates)
- 自然エネルギーによって発電されたグリーン電力を,市場で取引可能にする証書のことです。
消費者が電力会社との際、グリーン電力証書を購入すると、その購入分が再生可能エネルギー発電事業者に助成金として渡ります。一種の寄付のようですが、グリーン電力証書は、金融商品として金融市場で取引できます。
データセンターのグリーン化
電力消費が大きい施設の一つにデータセンターがあります。需要が増大し大規模データセンターが急速に増加しています。そのため、データセンターのグリーン化対策が注目されています。
- PUE(Power Usage Effectiveness)
- データセンターなどのIT関連施設のエネルギー効率を表す指標の一つで、施設の全消費電力をIT機器の消費電力で割ったものです。PUE値が小さいほど、省電力対策が進んでいるといえます。
- 冷却方法の進化
- 情報機器は多くの熱を発生します。従来の空調機は空冷で室内全体を冷却していましたが、近年では水冷にして熱発生源に近い熱だまり場所に集中して冷却する方式が増加しています。そこにAI技術やIoT、ビッグデータも活用し、全体最適化を図る取り組みもはじまっています。さらに、データセンタの排熱を他ビルの暖房や温室栽培に活用する試みも行われています。
- 直流給電
- データセンタなどでは大量の情報機器を用いています。従来は、電力会社などからの系統電力は交流→無停電電源装置 (USP) で直流変換して蓄電池を充電→各機器までの電力線は交流→各機器は直流で動作というように交流⇔直流の変換(AD変換)が3段階で行われていました。
(中間の電力線が交流なのは、各機器では動作電圧が異なるからです。交流での電圧変換にはトランス(変圧器)があり、単純な機能で動作します。それに対して直流での電圧変換にはDC/DCコンバータを使いますが、複雑な回路で高価でした。)
AD変換では多大な電力ロスを生じます。その解決として直流給電が注目されています。
- OCP:データセンター内部での直流給電
USP以降をすべて直流にすることです。各機器や電力線などの対応のために、標準化が求められます。世界的なプロジェクトとしてOCP(Open Compute Project)が、最高効率の仕様を策定し、それを公開・共有する活動を行っています。
- HVDC:系統電力の直流給電
HVLC(High Voltage Direct Current)とは、高電圧直流のことです。HVLC技術の発展により、データセンタなどへの系統電力を直流にすることができるようになりました。
高電圧にすることにより発電効率が高まり、送電ロスが低くなります。電流を一方向にだけ流す機器を整流器といいますが、近年、高電圧直流用の整流器が開発され、それが高電圧直流送電を進めた要因でもあります。
データセンターにも照明や空調など交流で動作する機器があります。これらも直流給電で動作させる技術もあります。
- ホワイトデータセンター
- 話題を呼んだ省電力対策に、大電力消費の原因となる冷却を、雪氷熱の利用で行おうというのがあります。通常の都市型データセンターのPUE値が1.8~1.5なのに対して、雪冷房を使用した場合1.1になるといわれています。
エコファーム(農業のグリーン化)
環境配慮型農業。無農薬栽培,廃棄物の堆肥等へのリサイクル,里山の保護,流通の省エネ化など総合的な対策を講じる。(エネファームは、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム)