IoTとは
IoTの例
IoT(Internet of Things、モノのインターネット)とは、情報・通信機器だけでなく、産業機械から消費材まであらゆる「モノ」に通信機能を持たせ、インターネットを介して通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うことです。
例えば、次のような利用があります。
- スマートフォンで遠隔操作して、エアコンのスイッチを入れたり、テレビの録画予約をする。
- スマートフォンを自動車に接続してカーナビ機能だけでなく、混雑状況の把握、付近の情報入手をする。
- 自動車のセンサー機能を発展させて自動運転を行う。
- ウェアラブルデバイスを着用して健康管理を行う。医師との共有により医療に役立てる。
- 家庭や事務所、工場などの電気メーターのデータを集中して管理し、都市全体の配電最適化を図る(スマートグリッド)
- さらに発展させて、電気・ガス・水道などのライフライン、交通信号などの交通管理など多様な都市機能を行う(スマートシティ)
IoTという用語は、P&G社のケビン・アシュトン(Kevin Ashton)が、1999年にRFIDによる商品管理システムについてRFIDジャーナル誌に載せた記事で用いたのが最初だそうです。2005年にITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)の文書のなかで用いられ、広まったといわれています。
ビジネスで一般に話題になったのは、スマートフォンやクラウドコンピューティングが普及した2010年代になってからです。IBMやシスコシステムズなどのIT企業が、次世代分野としてIoTを唱えました。
IoTと似た概念
IoTの概念は以前からありました。また、IoTと似た用語も多く、これらの概念と重複することもあります。そのため、IoTの定義はあいまいです。
- ユビキタスコンピューティング
1980年代末から「いつでもどこでも利用者が意識しなくてもコンピュータやネットワークにつながり利用できる」といわれ、2000年代当初には、そのような利用形態をユビキタスコンピューティング、そのような社会をユビキタス社会といわれるようになりました。
- M2M(Machine-to-Machine)
自動販売機自身が在庫を監視して補充が必要になった時に在庫管理のサーバに発注依頼を送信するなど、人間の介在なしに、機械間で通信することにより最適化を実現する概念です。すでに広く活用されています。
- IoE(Internet of Everything)
M2M、P2P(people-to-people)、P2M(people-to-machine)などを総合した概念です。IoEはIoTも含むといえます。
- 組込みシステム
自動販売機、炊飯器、自動車などには、それらを制御するシステムが組み込まれています。具体的にはセンサから受けた信号をマイクロコンピュータで処理して信号を制御部品に渡します。それを組込みシステムといいます。厳密ではありませんが、IoTとは概念で具体的に実現する情報システムが組込みシステムだといえます。→参照:組込みシステム
インダストリー4.0
ドイツ政府が2011年に策定し推進している、IoTを駆使した次世代産業の構築・確立を目指す戦略です。第4次産業革命と位置付けられています。
第1次:18世紀、蒸気機関による機械化
第2次:20世紀初頭、電気による大量生産
第3次:1980年代、コンピュータによる自動化
産業機械や物流・生産設備のネットワーク化、機器同士の通信による生産調整の自動化、センシング技術による製造管理など、自動化された工場が業種を越えてネットワーク化することにより統合化する概念です。
日本企業も大きな関心を持ち、その実現推進を目指しています。2015年の日独首脳会談でインダストリー4.0の推進協力に関する合意をしました。欧米も同様であり、世界的な潮流になってきました。
スマートファクトリー (Smart Factory)
インダストリー4.0を具現化した形の先進的な工場のことです。
工場内のあらゆる機器や設備、工場内で行う人の作業などのデータを、IoTなどを活用して取得・収集し、このデータを分析・活用することで、業務プロセスの改革、品質・生産性の向上、フレキシブル生産、人手不足への対応などの付加価値を継続発展的に実現することを目的としています。
代表的なIoT対象
●身の回りのIoT
- 情報家電
情報家電とは、通信機能を備えた家電製品のことです。テレビやパソコンなどですが、近年は他の家電も情報家電になってきました。
エアコンや冷蔵庫などは、組込みシステムで制御されています。その意味でもIoT対象機器ですが、通信機能を付加することにより、スマートフォンなどから遠隔操作をするとか、冷蔵庫では保管物の在庫把握やそれを用いたレシピの提案など多様な付加価値化が進んでいます。
さらに、ドアの鍵の操作、戸外・室内の監視カメラの操作をスマートフォンから確認・監視する利用もあります。
- スマートフォン
スマートフォンは常時身に着けておりインターネットに接続できる環境にあるので、IoT機器の遠隔操作に適しています。スマートフォンの普及が個人向けのIoTを推進する要因になっています。
- ウェアラブル端末
さらに、腕時計型やメガネ型など、普段身に着けているモノにRFIDやセンサーを内蔵したものが出現してきました。
腕時計型のものでは通信機能を持つものが多いし、子供や老人の位置情報発信などにも使われるでしょう。メガネ型ではホログラム光学技術を用いて目の前のモノに関する情報を表示するとか、AR(拡張現実)を体験できるものもあります。
歩数や運動時間、睡眠時間などを、搭載された各種センサによって計測するウェアブル機器をアクティビティトラッカー(Activity Tracker:活動量計)といいます。着用することにより、意識しなくても健康管理などの情報を取得・蓄積できます。
- スマートスピーカ(AIスピーカ)
対話型の音声操作に対応したAIアシスタント機能を持つスピーカー。内蔵されているマイクで音声を認識し、質問への応答や情報家電の操作を行ないます。
スピーカーはWi-Fi、Bluetooth等の無線通信を経由してメーカのサーバとネットワークを形成します。サーバはAIを用いた音声認識や自然言語処理機能をもち、情報検索やAIの活用により応答の最適解を常に機械学習しており、利用者の問いかけに最適解をたスピーカから応答します。また、スピーカから情報家電に制御信号を発信します。
- スマートメータ
電気・ガス・水道などのメータの検針の自動化が進んでいます。単に月間使用量のだけでなく、短い時間ごとの使用量を把握して異常値の監視も行うとか、節電に役立つ情報を提供するサービスも検討されています。
- 自動販売機
スマートフォンでの支払い、外気温度による制御、時間帯での販売状況の送信など、多様な機能が組み込まれるようになりました。さらには、LEDパネルを取り付け災害情報を表示するとか、災害時に非常用飲料水備蓄などの機能をもつものも検討されています。
- コネクテッドカー
インターネットへの常時接続機能を具備した自動車です。自動運転、安全性向上、走行管理など快適な運転をするのに不可欠な環境です。自動緊急通報システムにおいても通信機能が不可欠であり、搭載義務化はされていないが推奨されていますし、従来の車体にも後付で付加できます。
- IVI(In-Vehicle Infotainment、車載インフォテインメント)
Infotainment=情報(information)+娯楽(entertainment)。車内で、ナビゲーション、位置情報サービス、音声通信、インターネット接続のほか、音楽や動画などのマルチメディア再生、ニュース、電子メールなどへのアクセス・検索機能などをもつシステムで、車内と家庭/オフィスといった車外環境とのシームレスな接続や、ほかの外部機器との連携といった、統合運用・利用が想定されています。
コネクテッドカーの目的の一つです。
IoTを発展させる技術や環境
- RFID(Radio Frequency Identification、無線タグ)
モノをインターネットと接続するときには、RFIDを用いるのが一般的です。すでにRFIDは広い分野で用いられており、その価格も急速に低下しています。
- センサー
モノが内部や外部の情報を取得するのがセンサーです。その価格が急速に低下しているだけでなく、匂い、味、触感など多様な情報を得るセンサーが出現してきました。画像分析などセンサーが得た情報を解析する技術も発展してきました。
→参照:センサー
- 組み込み技術
モノにセンサーを取りつけ機器を制御するマイクロコンピュータを設計し実装する技術です。IoT実現の中核となる技術です。IoT対象機器が増大するのに伴い発展が進んでいます。標準化も進んでいます。
- デジタルツイン
twinとは「双子」のこと。工場や製品などに関わる現実世界の出来事を、様々なセンサで収集したデータを用いてままデジタル上にリアルタイムに再現します。デジタルモデルを用いて、現実世界では実施できないようなシミュレーションを行うなどにより、現実の工場の制御や管理の方法を検討する手法です。
次世代のものづくりにおける重要なコンセプトであり、IoTやインダストリアル4.0を支える重要な技術とされています。
- ビッグデータ分析技術
サーバ側では、IoT機器から送られてきた膨大なデータ(ビッグデータ)を分析することにより、大衆の行動パターンを得たり、スマートシティ実現の資料としたりできます。
- クラウドサービス
スマートフォンやウェアラブル端末をクラウドのサーバに接続して、蓄積したデータを送ることにより、サーバから有用なメッセージを送り返すことができます。そのような多様なアプリが提供されるようになってきました。
- エッジコンピューティング
ここでのエッジ(edge)とは「そばに」の意味で、「端末の近くにサーバを分散配置する」ネットワーク環境です。クラウドが広範囲・多機能を対象にしているのに対して、その一部に近傍での特定機能を提供します。
組込みシステムやIoTシステムの利用環境ではクラウドサービスが必要ですが、それらのシステムの開発製造では、工場内に多数設置されたセンサや測定器から得られる大容量のデータに対し、高速またはリアルタイムな処理をする必要があります。そのためには、工場内にサーバを設置するのが適切です。また、装置とサーバの中間にPCなどを配置してデータの一次処理を行ない、サーバの負担増やフィードバックの遅延を改善することを指すこともあります。
- IoTエリアネットワーク
家庭や工場など、狭い範囲でのIoTデバイス同士やWANを繋ぐIoTゲートウェイ間のネットワークです。
通常は、接続デバイスの多さや自由度から、無線PAN(Personal Area Network)や無線LAN(Local Area Network)が多く使われますが、周辺の雑音が多い環境や、電波の飛び方が複雑な際は、Ethernetのような有線LANが使われることもあります。
家庭内では、せいぜい数台のデバイスの接続であり、既敷の電線をPLC(Power Line Communication、電力線搬送)として使うことも考えられます。
会社や工場では数10台、100台のデバイスを取り扱うので
・それに耐えうる性能
・移動しながら使うことを想定して、APを切り替えつつ通信する、ローミング機能
・セキュリティ確保のため、外部認証サーバと連携した認証機能
・高い対環境性能や信頼性、耐久性
・デバイスの電源が電池なことから省エネ通信
が必要になります。
コンピュータビジョンとマシンビジョン
IoTやAIを活用して現場の作業を支援する技術に、コンピュータビジョンとマシンビジョンがあります。
ここでのビジョンとは画像のことです。
両者ともビデオカメラなどで画像を取り込み、パターン認識などにより、画像を分析しますが、
コンピュータビジョンはそれを作業者に伝えるだけなのに対して、
マシンビジョンでは、結果によって他の機器を制御する
違いがあります。
コンピュータビジョンはAIを用いて正確な画像認識をすることが目的です。顔認識、医療画像診断、車の自動走行に使われています。
マシンビジョンは、人間が行ってきた目視検査を自動化するものです。人間の目では判別できない小さな傷を見分けたり、見た目で分からない違いを見分けたりすることができるのが特徴で、食品や医療の評価・分析の自動化をサポートします。
IoTの4段階
IoTの機能や役割には、その特性に応じ「監視」「制御」「最適化」「自律化」の4段階に区分されます。また、この順序で技術が進化しますが、用途によっては必ずしも自律化を目標とせず、監視や制御の段階で十分なものもあります。
- 監視(monitoring)
センサ等による機器や状況の検出、ネットワークによる遠隔地での監視です。例えば、機械に取り付けたセンサで振動、温度、音などを常時計測し、機械劣化状態を分析して、適切なタイミングで部品を交換する予知保全、河川などの水位データを遠隔地で監視し、異常があれば直ちに警報を発する災害警報システムなどがあります。
- 制御(control)
監視に加えて、自動制御するとか、遠隔地から機器を操作(制御)することです。水位が上昇したら自動的にバルブの開閉をするとか、遠隔地の制御室から制御するなどです。帰宅前にエアコンのスイッチを入れるなどもこれに相当します。
- 最適化(optimization)
監視と制御を組合わせて機械の状態や動きを自動的に最適な状態にすることです。監視で得たデータを蓄積して、ソフトウェアで解析し最適状態を算出して、機械に命令を送り制御します。送電システムでは、蓄積された電力消費データを解析して、最適な発電や送電の状況に制御します。その実現には、大量のデータ蓄積と分析技術が必要になります。
- 自律化(autonomy)
人間が関与せず、機械自身が周囲の状況を認識したり、機械と機械の間での情報交換に協調制御したりすることによって、原則的には人間の介入をせずに、自律的に最適化を行うことです。自動車が歩行者を発見してブレーキをかけたり、他の自動車からの信号によりスピードを調整することなどがこれに相当します。
自動車の自動運転レベル
国は、自動運転レベルを次の5段階に定義しています。
- レベル1:ドライバー支援
自動ブレーキなど、運転支援システムが搭載されている
- レベル2:部分的自動運転
同一車線上の自動運転、高速道路に限定など特定の条件下で自動運転が可能
- レベル3:条件付自動運転
条件付きでの自動運転。緊急事態を除いては、運転を車に任せることができる
- レベル4:高度自動運転
制限はあるものの、原則として運転手の対応を必要としない
- レベル5:完全自動運転
運転手不要。行先を指示するだけで安全に目的地まで運んでくれる?
ADAS(Advanced driver-assistance systems)
自動車の先進運転支援システムの総称です。自動車に搭載したセンサや外部のセンサにより、周囲の情報を把握して、運転者への情報伝達や運転操作の制御を行い、事故の防止や運転の快適性を支援します。
代表的な機能を列挙します。
- 駐車支援システム:周囲の状況をモニタ表示、自動駐車機能
- 衝突被害軽減ブレーキ:人や障害物を検知してドライバーへ注意喚起をしたり、ブレーキ制御を行う
- カーナビゲーション
- クルーズコントロール:走行速度の維持機能、車両間隔保持機能など
ADASは、自動運転のコンポーネントな技術であり、これらを装備することによりレベル1~2を実現できます。
IoTが持つリスク
IoTが普及すると、これまでにない大きなトラブルが発生するリスクが増大します。IoTは、単なる技術の問題ではなく、社会全体の問題として捉えることが必要なのです。
- IoT機器の誤動作など
IoT付きのエアコンが、誤った信号を受け取って不意に動作を開始するかもしれません。あるいは、悪意のある第三者が本人になりすまして操作をするかもしれません。
自動車の自動運転は、運転制御システムの不備や誤作動による事故が発生することが考えられます。自動運転は、運転者の不注意による事故を減らすことができますが、反面、運転者の不注意を増大するリスクがあります。
- 個人情報の漏洩
無線通信が多く用いられるので、不正傍受のリスクがあります。個人生活に密着したデータを盗聴されれば、重要な個人情報の漏洩につながります。
個人情報に関するデータがクラウドサーバに送られます。サーバ側の過失や不正により、それらが漏洩する機会が増大します。
- トラブルの大規模化
IoT機器の制御プログラムに不備があったり、不正に改ざんされT利すると、多くのIoT機器にダウンロードされてしまいます。その被害は大きいし、復旧も大変です。
スマートシティなど広域にわたる集中管理でトラブルが発生すると、その被害は非常に大きいものになります。このようなシステムへのサイバーテロが大きな問題になっています。都市全体の活動がストップすることも考えられるし、原発の事故誘発などの事態になるかもしれません。
- 監視社会の危険
ビッグデータの活用は、省資源化や安全確保に役立ちますし、多様な領域で新ビジネスが生まれる機会を生じます。しかし、それを時の権力に握られると、常に「コンピュータに管理されている」という監視社会へと進む危険性もはらんでいます。