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IT投資の評価に関するガイドライン

キーワード

投資評価、Val-IT、IT投資マネジメントガイドライン、IT投資価値評価ガイドライン


IT投資の費用対効果評価は、最も重要なITガバナンス対象です。それに関するガイドラインを列挙します。
 IT投資の目的が経営戦略の実現への寄与が重視されるようになり、ITガバナンス確立のために可視化が求められているようになりました。それで、投資評価を単なる採算計算の手法としてではなく、マネジメントシステムとして運営することが必要になってきました。以下のガイドラインはこの観点で策定されています。

「評価」をマネジメントシステムとしてとらえると、PDCAサイクルによる成熟度の向上が重要になります。
 GAO(the U.S. Government Accountability Office:米国会計検査院)の「IT投資マネジメントの成熟度評価のフレームワーク」(英文)では、成熟度を個別プロジェクト志向から企業/戦略志向へと進む発展段階であるとして、次のように定義しています(JIPDEC「IT投資マネジメントガイドライン」より)。

ITGI、日本ITガバナンス協会 「IT投資の企業価値ガバナンス ― Val-ITフレームワーク」2006年

企業がIT投資により企業価値・事業価値の最大化を図るのに必要なマネジメントのベストプラクティスを示したものです。COBITのうち、対象をIT投資の分野に特化して、投資の決定が適切であるか、利益を得ているかを重視したものです。評価の具体的な方法を示すというよりも、経営者やCIOが、IT投資にガバナンスを発揮するための仕組みや手順を整理したものだとえいます。
 次の3つのプロセスについて、さらに詳細なプロセスにわけ、キー管理プラクティス(目標達成のための実践例)を示しています。

JIPDEC(日本情報処理開発協会) 「IT投資マネジメントガイドライン」2007年

本ガイドラインの目次を示します。
ガイダンス編
 第1章 IT投資マネジメントガイドラインについて (展開)

  1.1 目的
  1.2 本ガイドラインの構成と読み方
  1.3 読者対象
  1.4 IT統制における本ガイドラインの位置付け
    1.4.1 システム管理基準との対比
    1.4.2 CobiT4.0との対比
  1.5 本ガイドラインの特徴
  1.6 本ガイドラインの作成体制

理論編
 第2章 IT投資マネジメントの考え方 (展開)
  2.1 IT投資マネジメントの概要
    2.1.1 IT投資マネジメントの必要性
    2.1.2 IT投資マネジメントの概要
    2.1.3 IT投資マネジメントの基本となる考え方
  2.2 IT投資の定義
    2.2.1 情報資本に基づくIT投資の定義
    2.2.2 IT投資と戦略の関係
    2.2.3 IT投資テーマの設定
    2.2.4 維持管理への適用
  2.3 IT投資の評価
    2.3.1 IT投資の評価単位
    2.3.2 IT投資評価方法の決定方法
  2.4 IT投資マネジメントの体系とプロセス
    2.4.1 IT投資マネジメントの体系
    2.4.2 期間管理マネジメントとライフサイクルマネジメント
    2.4.3 戦略マネジメントのプロセス
    2.4.4 個別プロジェクトマネジメントのプロセス
    2.4.5 IT投資マネジメントの体制

実践編
 第3章 戦略マネジメントの進め方 (展開)
  3.1 プロセスの流れと各タスク
  3.2 計画フェーズ
    3.2.1 事業戦略と戦略マップの作成
    3.2.2 情報資本ポートフォリオの評価
    3.2.3 IT投資テーマ案の設定
    3.2.4 全社情報資本ポートフォリオの評価とプロジェクトの選択
    3.2.5 全社IT投資計画の作成
    3.2.6 SBU-IT投資計画の作成
    3.2.7 実施の可否の判定
  3.3 モニタリングフェーズ
    3.3.1 個別プロジェクトの実行状況のフォロー
  3.4 コントロールフェーズ
    3.4.1 全社IT投資計画の見直し
    3.4.2 全社情報資本ポートフォリオの更新
    3.4.3 SBU-IT投資計画の見直し
    3.4.4 SBU情報投資ポートフォリオの更新

 第4章 個別プロジェクトマネジメントの進め方 (展開)
  4.1 プロセスの流れと各タスク
  4.2 計画フェーズ
    4.2.1 実施計画の策定
    4.2.2 IT投資額の見積り
    4.2.3 評価方法の決定
    4.2.4 目標の設定
    4.2.5 データ収集/分析機能の構築
    4.2.6 事前評価の実施
  4.3 中間評価フェーズ
    4.3.1 中間評価の実施
    4.3.2 実施計画の修正
  4.4 事後評価フェーズ
    4.4.1事後評価の実施

手法編
 第5章 IT投資プロジェクトの評価方法 (展開)
  5.1 評価のスキーム
  5.2 プロジェクト視点による評価
    5.2.1 評価のステップ
    5.2.2 IT投資の効果目標と評価方法
    5.2.3 IT投資の評価方法の決定
  5.3 評価手法各論
    5.3.1 合意形成手法(戦略評価)
    5.3.2 定量的評価
    5.3.3 定性的評価
    5.3.4 妥当性評価
    5.3.5 リスク評価
    5.3.6 中間評価
  5.4 プログラム視点による選別
    5.4.1 IT資産ポートフォリオ
    5.4.2 ITヒートマップ
    5.4.3 ROIマップ

リファレンス編

中心となるのは、「実践編」で、第3章「戦略マネジメントの進め方」はIT戦略、IT全体計画立案を対象としており、第4章「個別プロジェクトマネジメントの進め方」は、個別システムの評価を対象にしています。
 「手法編」はIT投資の評価方法を示したもので、実践編により概要を理解した後、実際に適用しようとする際に参照することを想定している。理論編は、実践編や手法編に書かれていることの理論的な裏付けを記述しています。なお、各タスクにおいて用いる書式や、投資評価に用いる評価指標等は「リファレンス編」にまとめてあります。

戦略マネジメントと個別プロジェクトマネジメントで行うべきプロセスと、プロセス間の関係は下図のようになります。

(拡大図)

プロセスを計画フェーズ、モニタリングフェーズ、コントロールフェーズにわけています。これはPDCAサイクルでマネジメントすることを意味します。そして、各プロセスの「目的」と、それを実現するための「タスク」を示し、留意事項を掲げるという記述形式にしています。

本ガイドラインでは、戦略マネジメントの範囲を全社戦略とSBU(Strategic Business Unit:戦略を策定する事業単位)に区分しています。事業部制や独立性の高いプロジェクトではSBUで戦略を策定することが多いのですが、全社的戦略との整合性が重要になります。

評価には、投資を行うべきかどうかを評価する「事前評価」と、稼働後に予定した効果が実現できたかどうかを評価する「事後評価」の2つがありますが、本ガイドラインでは「中間評価」が重要だとしています。
 中間評価は「事前評価で定めた投資内容通りに投資が実行されているか」、「投資実行における調達などが適切にものであるか」などの視点で監視します。早期に問題を発見して継続・中断・中止といった判断を行い、必要に応じて是正勧告を行うのに重要であり、プロジェクトマネジメントの一部だともいえます。

このように、本ガイドラインは、IT投資の評価に関して多角的な観点から解説をしているのが特徴です。また、システム管理基準の基準項目、CobiT4.0 における情報テクノロジ(IT)プロセスの一部との整合性を考慮しています。

経済産業省、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会) 「IT投資価値評価ガイドライン(試行版)」2007年

前掲のJIPDECのガイドラインは、経営戦略からIT投資にいたるまでの範囲を多角的に解説しているが、反面、あまりにも膨大なので、実務で利用するには、使いずらい面もあります。それに対して本ガイドラインは、「必ずしもITのプロでない経営者が、IT投資をいかに捉えるか」という観点で、自社の成熟度を自己評価するチェックリストと改善のヒントを提供しており、実務に活用しやすいという特徴があります。

チェックリストは、   構想・企画段階におけるIT投資評価(事前評価1)
  開発実行段階におけるIT投資評価(事前評価2)
  事後評価段階における経営戦略との適合性
の3つの分野で、
  経営戦略との適合
  投資費用
  投資効果
  プロジェクトマネジメント
の4つの観点からなるチェック項目に0~4の5段階で自己評価する形式です。 (チェック項目)

構想・企画段階におけるIT投資評価(事前評価1)

  1. 経営戦略との適合
    1. 投資目的・目標が明確であり、経営戦略との適合はあるか(経営戦略と主要プロジェクトの関係、システム構造、プロジェクトの優先順位は保たれているか)
    2. プロジェクトの優先度は妥当か、今実施すべき案件は他にないか
  2. 投資費用
    1. 対象案件を加えた場合の新規投資と保守運用費用のバランスは妥当か
    2. 対象案件を加えた場合の目的別IT投資の比率(IT投資ポートフォリオ)は妥当か
    3. 投資回収年数は妥当か
    4. 超概算予算は妥当か
    5. 対象プロジェクトは「小さく生んで大きく育てる」ことが徹底されているか
    6. コスト配賦の方法は明確か、方法は妥当か
  3. 投資効果
    1. BPR(業務改革)を実施する案になっているか、システム化以前の準備は十分か
    2. 一次効果に加え、余剰時間の使い方を検討する計画になっているか(一次効果、二次効果の切り出し)
    3. KPI、ユーザー満足度、他社比較(ベンチマーク)、実施しないリスクの見極めなど、効果検討の方針は明確か、検討結果は妥当か
    4. 開発実績評価の時期、撤退条件などを明確にしているか、内容は妥当か
  4. プロジェクトマネジメント
    1. 品質、工期、費用など守るべき優先順位を定めているか、定めた優先順位は妥当か
    2. プロジェクト責任者(開発、運用、利用責任者)は明確か、選定結果は妥当か
    3. ベンダーの選定基準は明確か、選定結果は妥当か

開発実行段階におけるIT投資評価(事前評価2)

  1. 経営戦略との適合
    1. 計画は企業戦略と適合しているか
    2. 改革案に自社の総智が盛り込まれているか(利用者と開発者の間に意識のずれはないか)
    3. 実行承認にあたっての条件は何か
  2. 投資費用
    1. 機能の絞り込みは十分か
    2. システムライフサイクルコストを分析しているか、分析結果は妥当か
    3. 投資費用の細分化、客観的評価との対比を実施しているか(税制の活用等費用低減への取り組みを実施したか)、結果は妥当か
    4. リスク分析を実施したか、分析結果は妥当か
    5. SaaS(Softwar as a Service) ASP(Application Service Provider)の活用、パッケージの活用、自社システムの横展開について検討したか
  3. 投資効果
    1. 業務フローを見直し、BPR(業務改革)、組織改革を実施しているか、何が変わるのかを確認できたか
    2. 一次効果、二次効果、三次効果を見極めたか、結果は妥当か
    3. KPI、ユーザー満足度、他社比較(ベンチマーク)、実施しないリスクが数値化されているか、結果は妥当か
    4. 実施結果の評価時期を決めているか、決定した時期は妥当か
    5. 撤退条件は明確か、内容は妥当か
    6. 効果データの収集方法は明確か
  4. プロジェクトマネジメント
    1. 推進体制図、リーダーの職階、資質は十分か、社内の協力体制は十分か
    2. 十分なレベルの要求仕様書(RFP)を作成しているか
    3. 工期は妥当であるか
    4. 品質目標は提示されているか、妥当であるか
    5. 予算額は妥当であるか
    6. 社内体制、ベンダーの確保はできているか
    7. 稼動条件、移行方針が決まっているか、内容は妥当か
    8. 進捗報告のサイクルを決めているか、頻度は妥当か
    9. プロジェクトマネジメントに抜けがないか

事後評価段階における経営戦略との適合性

  1. 経営戦略との適合
    1. プロジェクトの結果は企業戦略と適合しているか、補完すべき要素は必要十分か
    2. 成功要因、失敗要因が整理され、企業のノウハウとして蓄積される仕組みができているか
    3. 運用、利活用の体制は十分か
  2. 投資費用
    1. 当初の開発で取り残した機能のフォローの仕方は明確か
    2. 総合効果表による確認(稼動工期、稼動後の品質、投資費用の対計画比など)ができているか、結果は妥当か
    3. システムライフサイクルコストは計画通りか
    4. リスク計画は妥当であったか、どのようにフォローしたのか
  3. 投資効果
    1. 一次効果、二次効果、三次効果(ROI)と、フォローの仕方を確認しているか(さらに追跡評価すべき項目は何か、追加予算の必要性はあるか)
    2. KPI、ユーザー満足度、他社比較(ベンチマーク)、実施しないリスクの計画対比は確認したか、問題はなかったか
  4. プロジェクトマネジメント
    1. 運用目標値(含むSLA)が設定されているか、その内容は妥当か
    2. 運用・利活用のリスクは何か、関係者の配慮事項は明確か
    3. 顧客迷惑度指数を設定しフォローしているか

これらの項目は、JUASが実施した。「企業IT動向調査2007」のアンケート調査から、問題点を抽出してチェック項目にしたものです。そのため、他社の状況と比較することができます。
 また、この項目の重要性、自己評価のための評価基準、実現するためのベストプラクティスなどについて解説をしていますので、単に自社成熟度を評価するだけでなく、改善に結び付けることができます。