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会社法と株式会社組織
学習のポイント
会社法(http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=417AC0000000086)は、会社の設立、組織、運営及び管理について定めた法律です。
本章は、会社法の解説をするのではなく、会社法に準じて、企業の代表的な形態である株式会社の組織(株主総会、取締役会、監査役会など)について学習します。
キーワード
株式会社, 所有と経営の分離, 合同会社, 上場, 株式公開, 公開会社, 株主総会, 取締役, 監査役, 執行役, 委員会設置会社, コンプライアンス、コーポレートガバナンス
会社の区分と株式会社
会社の形態区分
構成員から会社を区分すると、次の4つになります。
会社
├ 株式会社・・・後述
└ 持分会社
├ 合同会社:間接有限責任社員のみで構成
├ 合名会社:無限責任社員のみで構成
└ 合資会社:無限責任社員と直接有限責任社員で構成
- 持分会社とは、株式会社以外の会社の総称です。株式会社の特徴は、有限責任の出資者(株主)から委任を受けた取締役会による経営(所有と経営の分離)にあります。持分会社は、特定の人たちで出資して、一般的に会社の所有者と経営者が一致します。
(「オーナー社長」の株式会社もありますが、それは経営者がたまたま株の大部分を所有していることによる実態的な現象にすぎません。)
- 間接有限責任社員は、出資額の範囲内での責任しかもたないので、株式会社の株主と似ていますが、株のように売買はできません。共同出資者というような意味合いです。
- 無限責任社員は、会社の負債をすべて弁済する義務を負います。直接有限責任社員は、出資した資金だけでなく、一定の要件を満たす債権には、出資金を超えて弁済する義務があり、実質的には無限責任とあまり変わらないことになります。
- 合名会社・合資会社は、無限責任を保証するので、取引先や銀行にとってはリスクが少ないのですが、経営者としては厳しいことになります。個人経営よりも法人格を得たほうが有利な場合に、簡便な方法としてこの形態をとることもあります。
- 合同会社は、米国のLLC(Limited Liability Company)にならった形態です。リスクを株式会社並にして、出資者を限定して経営権を確立するのに適しています。株式会社と比較して、起業するのに手続きが簡単だし、決算公示の必要がなく、定款の変更も容易だという特徴があります。2006年の改正会社法で新設されました。
- 改正会社法により、最低資本金規制が撤廃され、1円の資本金で株式会社を設立できることになりました。それに伴い、従来の有限会社がなくなりました(既存の有限会社はそのまま存続できます)
株式会社の特徴:所有と経営の分離
株式会社は、不特定多数の人に株式という有価証券を売ることにより資金(資本金)を得て運営する会社です。その株式を購入し所有している人を株主といいます。その株式は他人に転売する(株式譲渡)ことができるので、株主のメンバーは一定していません。
株式会社の所有者である株主は、多人数で流動的であり会社経営実務に疎い人もいます。それで経営実務に優れた人を取締役として雇い入れ、経営を委任するのです。すなわち、株式会社では、株主総会が会社経営の意思決定機関で、株主総会で選出された取締役が実際の会社経営にあたります。
社長も取締役の一人ですから、社長ですら形式的には雇用者にすぎません(「会社を創立したのは社長なのに・・・」と思うかもしれませんが、株式会社として創立するときは、創立者(複数のこともある)が最初の株主になるので、自分が自分を雇うことで創立者が取締役になるのです。
また、取締役の経営成績である財務書類の監査や取締役の任務遂行を監視するための監査役も株主総会で選出し委任します。
このように、「所有と経営の分離」をしているのが株式会社の特徴です。巨額な資金を得て大規模な経営活動を行うには株式会社が適しています。
- 「所有と経営の分離」が単なる形式上にすぎないことがあります。社長あるいはその親族などが株式のほとんどを独占しているオーナー社長で、経営でもワンマン社長であるなど実質的には分離が不明確なこともあります。
- 会社法には「社長」「経営者」という規定はありません。両者とも取締役です。株主総会や取締役会の決議に基づき、個人で会社を代表して契約等の行為を行う権限を代表権といい、代表権を持つ取締役を代表取締役といいます。代表取締役は取締役会の決議により選定されます。
- 一般に、会長、社長、副社長、専務等の肩書きの取締役は代表権をもつことが多いのですが、これらの役職名は法律上に規定されたものではなく、代表権の付与も企業によりまちまちです。
- 経営者とは、さらに漠然としており、常務クラスまで含む場合もあれば、ワンマン社長といわれるように経営者は社長だけという場合もあります。なかには大株主が実質的な経営者の場合すらあります。
- 「役員」とは、会社法では、取締役・会計参与・監査役だけですが、会社法施行規則では、執行役・理事・監事などを含めています。また「執行役員」という言葉があります。これは会社法の執行役ではなく、取締役ではない役員待遇の幹部従業員も含むことがあります。
株式会社の設立と上場
- 株式会社の設立
- ・定款の作成:会社の組織や運営についての規則を定めたもの
・株式払込:資本金を金融機関に払い込む。資本金は1円でもよい
・登記:法務局に申請して受理されること
- 上場・株式公開
- 証券の売買は、通常は証券会社が窓口になり、証券会社や大口の取引は証券市場(日本証券取引所、ジャスダック、マザーズなど)で行われます。証券市場で取引される銘柄に登録されることを上場といい、未上場会社が上場して自社株式を証券市場で売買可能にすることを株式公開といいます。
上場には証券取引所の審査があります。それで、上場できたことは会社が健全な経営をしていることが認められたことになり信用が向上します。特に大手証券取引所の一部上場には厳しい条件があり、それができたのは優良会社だとみなされます。
- IPO(Initial Public Offering、新規上場株式)
- 未上場企業の株式上場に際して、株を投資家に売り出して、証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすることです。
株式会社の組織
株主総会
株主総会は全株主が集まる会合です。定時株主総会は決算時期に決算承認に合わせて開催するのが通常ですが、経営に重大な状況が発生したときには臨時株主総会を開催します。
株主総会は株式会社の最高意思決定機関です。株主総会の決議を必要とする事項は多くありますが、主なものを掲げます。
・役員(取締役・会計参与・監査役)の選任/解任、報酬等決定
・決算計算書類の承認、損失の処理、剰余金の処分
・定款の変更(注)
・合併・会社分割、株式交換に関する事項
所有と経営の分離により、次のような事項は、取締役が専行で決定できます。
・経営戦略の策定、実施
・それに伴う経営資源の取得・配分
(資金の借入、設備投資、組織改革、従業員の雇用・解雇など)
(注)定款とは
定款とは、会社の憲法のようなもので、組織活動の根本規則です。会社を設立するときには、定款を作成して提出する必要があります。必ず記載すべき事項を絶対的記載事項といい、株式会社の場合は、目的(業務分野)、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価格又はその最低額、発起人の氏名又は名称及び住所、発行可能株式総数が挙げられています。
大会社、公開会社
- 大会社
- 資本金5億円以上、あるいは、負債総額が200億円以上の株式会社です。いわゆる大企業とは異なる概念です。
- 公開会社
- 自由に売買できる(譲渡制限がない)株式があることを定款に定めている株式会社です(譲渡制限規定株式:会社の承認がないと譲渡できない株式)。
上場/非上場には無関係で「公開会社=上場会社」ではありません。上場会社は公開会社ですが、上場していない公開会社もあります。
全ての株式会社に財務諸表の公開が義務付けられているので、財務諸表公開義務の有無による区分でもありません。
取締役会、監査役会
大会社あるいは公開会社は、株主が多人数であり、社会的な影響も大きいので、「取締役会」と「監査役会」を設置しなければなりません(後述の委員会設置会社を除く)。
- 取締役会
- 取締役で構成する業務執行の決定等を行う合議体です。経営戦略の策定、実施やそれに伴う経営資源の取得・配分などの決定を行うだけでなく、通常の経営活動における株式に関する事項や計算書類(会社の利益を算出し確定するための書類)の承認(決算の承認は株主総会)を行います。
取締役会は決議は取締役の過半数の出席により成立し,出席取締役の過半数により決議が採択されます。取締役会の議事録を作成して株主の請求により閲覧・謄写できるようにすることが義務付けられています。
取締役が多数だと機動的な決定ができません。それで業務執行取締役に日常的な業務執行を委ねて、少数の取締役だけで全社的な経営問題を討議する形態にすることもあります。
- 監査役会
- 監査役は株主総会で選任され、取締役の職務の執行を監査する任務です。 監査には、会計監査以外に、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守していることを監査する業務監査(適法性監査)があります。
監査役会とは、監査役全員で構成される適切な監査意見を形成するための機関です。監査役の中から常勤監査役を選定します。監査役会を構成する監査役は3名以上であり、その半数以上は社外監査役でなければなりません。
- 委員会設置会社
- 取締役会の中に次の3つの委員会を置く会社です。取締役会や監査役会の機能を委員会等に置くことになりので、それらを設置する必要はありません。
・指名委員会:株主総会に提出する取締役の選任および解任に関する議案内容を決定
・監査委員会:取締役・執行役の職務監査、会計監査人選任等に関して株主総会に報告
・報酬委員会:取締役・執行役の個人別の報酬内容
委員会設置会社は、取締役以外に業務執行を担当する役員として執行役(いわゆる「執行役員」とは異なります)が置かれ、経営の監督機能と業務執行機能とを分離することを目的にしています。
すべての株式会社が委員会設置会社になることができますが、現実には委員会設置会社はかなり少数です。なお、取締役会を設置する会社を取締役会設置会社、監査役会を設置する会社を監査役会設置会社といいます。大多数の株式会社は、取締役会設置会社であり監査役会設置会社です。
コンプライアンスとコーポレートガバナンス
- ディスクロージャ
- 企業が経営内容に関する情報を公開することをディスクロージャ(企業内容開示)といいます。
その典型的な制度が財務報告です。株式会社は株主からの出資を運用しているのですから、経営状況を株主に報告する必要があります、決められた方法で財務諸表を作成し、その信頼性を保証するために会計監査制度があります。会社法や金融商品取引法の内部統制制度もその延長上にあります。
会社は社会の一員であることから、株主以外の従業員、顧客、取引先、金融機関、所轄官庁、地域社会といった利害関係者(ステークホルダー)すべてに責任をもつべきだという社会的責任が重視されています(参照:「コンプライアンスとCSR」)。そのために、経営活動全般に関して透明化を図ることが求められています。
ところが現実には、偽装食品や粉飾決算など会社ぐるみの不祥事が多発しています。そのため、改正会社法では、コンプライアンスとコーポレートガバナンスの強化措置がなされました。
- IR(インベスター・リレーションズ)
- 企業が株主や投資家向けに経営状態や財務状況、業績の実績・今後の見通しなどを広報するための活動です。日常的にディスクロージャー資料の送付、工場や施設などの見学会、各種説明会を開催、Webサイト開設などがあります。
IR活動を積極的に行っている企業は、投資家に対して信用できる企業だという印象を植え付ける効果があり、株価が高く安定しているといわれています。
- コンプライアンス
- 法令順守と訳されますが、社会規範や企業倫理、社内規定なども含む広い概念です。
コンプライアンスを徹底するのは利益追求をする経営活動を制約します。それで会社の利害に無関係な社外取締役を選出するのが適切です。監査役設置会社では、監査役の過半数が社外監査役でなければならず、取締役で社外取締役を置いていない場合には、株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明を義務付けています。
- コーポレートガバナンス
- 企業統治と訳されます。企業経営のありかた、取締役会の枠組みなどに関する概念です。会社の所有者は株主ですから、株主がコーポレートガバナンスを発揮できる環境にする必要があります。
- 株主代表訴訟制度
少数の株主が会社に対して訴訟できます。しかも、取締役に対して故意の不正だけでなく過失や任務懈怠によって生じた損害の賠償責任を追及できます。
- 会計監査人の役割増大
大会社あるいは公開会社では会計監査人の設置が義務付けられています。そして、会計監査人と会社との関係は委任契約であり、取締役や監査役と同等の立場になりました。
財務諸表などが不正あるいは不正確なのは大きな問題です。それらが正しいことを証明すること、そのための内部統制を強化することが求められます。これに関しては「金融商品取引法」で取り扱います。
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