情報システムが高度な情報を扱うようになったこと,インターネットなどのネットワークが急激に普及したことなどにより,営業秘密の不正入手が問題になっています。不正競争防止法はトレードシークレット法ともいわれ,営業秘密の不正入手を防止することを定めています。
不正競争防止法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H05/H05HO047.html
経済産業省の関連サイト
経済産業省「不正競争防止法の概要(平成21年度版)」
「営業秘密管理指針」
「この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。(第1条)」としています。
経済の発展には自由競争が必要ですが、それには適正な市場が確保されることが前提になります。適正な競争を破壊するような違法行為を取り締まるのがこの法律の目的です。
「不正競争」
- 類似商品や表示の禁止など(第2条1項1~3,13,15号)
- 他人と同一又は類似の商品・商標等の使用などの行為
- 信用毀損行為(第2条1項14号)
- 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為
- 営業秘密不正取得・利用の禁止(第2条1項4~9号)
- 不正手段で営業秘密(トレードシークレット)を取得・使用・開示すること、また、営業秘密を示された場合に使用し、又は開示することが禁じられています。
外部から不正アクセスをして秘密の情報を取り出すこと、内部から故意に情報漏洩をすること、それらの手段で得たことを知って購入し利用することなどがこれにあたります。
- コンテンツ保護の無効化機能の防止(第2条1項10~11号)
- 複製できないようにプロテクトのかけてあるCD-ROMなどのプロテクトを外す装置などの譲渡が禁止されています。
- ドメイン名の不正登録等(第2条1項12号)
- 不正利益目的、損害を加える目的で同一・類似のドメイン名の取得、保有、使用することは禁じられています。
「営業秘密」
営業秘密であるとするには、次の3要件を満たすことが必要です。
- 秘密管理性
- 秘密として管理されていること。文書ならば鍵がかかった保管場所に入れてあること、コンピュータデータならば、パスワードや暗号化などにより、適切な保護がされている必要があります。
- 有効性
- 事業活動に有効なもの。客観的にみて価値のないものは営業秘密とはいえません。
- 非公然性
- 公然と知られていないもの。新聞記事になったとか、講演会で発表したもの、Webサイトに掲げたようなものは営業秘密ではありません。
- 社内規程との関係
就業規則や服務規程などで、企業の不利になる情報漏洩を禁止している場合があります。社内のネットワークで取り出した情報を電子メールで送るような内部犯行がありますが、その情報が社内の誰でも容易に取り出せる状態になっていたり、営業報告書に記載されているような情報の場合は、社内規程違反にはなるとしても、この法律の対象にはならないのです。また、過度に厳しい規程は、それ自体が不当な労働協約だとみなされ無効であるとされることもあります。
- 内部告発との関係
公益のために、企業内部での不正行為を内部告発するのは奨励されべきですが、それを営業秘密漏洩だとされたのでは困ります。そもそも不正行為は、法が保護すべき正当な事業活動ではないため、有用性があるとはいえないので、営業秘密に該当しません。なお、内部告発した人が、不利益処分を受けないように保護する必要があり、公益通報者保護法(平成16年成立、平成18年4月施行)が定められています。
民法との違い
民法にも不正行為を禁止する条項がありますが、不正競争防止法では次の特徴があり、民法の特別法だと位置づけることができます。
- 緊急の排除
- 類似の製品が販売されている、あるいは販売されそうになっているとき、裁判などで時間がかかると、損害が大きくなってしまいます。営業秘密が漏洩してからでは間に合わない場合もあります。それで、差止請求権(害されるおそれがあるだけで、予防請求する)や廃棄除去請求権(拡大を防止する)が認められています。
- 損害の推定
- 損害賠償を請求するには、正確な損害額を立証しなければなりませんが、それには時間と労力がかかります。それで、損害額は推定でよいとされています。
また、金銭的な請求だけでなく、謝罪広告などの信用回復措置を請求することができます。