利用権と著作権
通常のソフトウェアを有料・無料で購入したとき、特別の契約がない限り使用許諾契約であり、購入者の権利は、自分がソフトウェアを使用する利用権だけで、著作権は著作者にそのまま残っています。
そのため、購入者が第三者に利用権を譲渡したり、ソフトウェアを加工したりすることはできません。OSS(オープンソースソフトウェア)では、この制約を緩和してていますが、厳格なルールがあります。
購入ソフトウェア
一般的にはCD-ROMなどの媒体で購入するソフトウェアです。近年ではWebサイトからダウンロードして購入することも普及してきました。また、比較的安価で一定の無料試用期間を設定したシェアウェアもありますが、基本的には購入ソフトウェアです。
通常の購入ソフトウェアは、ソフトウェアの使用や改変、複製などを法的あるいは技術的な方法で制限しています。それをプロプライエタリソフトウェアといいます。プロプライエタリ(proprietary)とは「所有権・占有権のある」、「非公開の」といった意味です。プロプライエタリソフトウェアの対義語がオープンソフトウェアです。
違法コピーのなかでソフトウェアの違法コピーは大きな割合になっています。購入ソフトウェアで留意すべきことを列挙します。
- 不正複製ソフトの禁止
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- 取得時に、不正に作成された複製だと知っていて使用することは著作権の侵害になります(第113条)。
- ライセンス契約の意味
- ソフトウェアを購入するということは,そのソフトウェアの利用権を購入しただけで,著作権を購入したことではありません。そのため,バックアップ用などの必要な複製はできますが,それ以外の複製は著作権侵害になります。また,使用許諾契約書には「購入者は,1台のパソコンにインストールして使用することができる」と指定されていることが多く,その指定に従う義務があります。
CD-ROMなどで提供されるパソコンソフトの場合は,それ自体がバックアップですので,インストールすることと,ディスクトラブルのためのバックアップを行うことが認められていると考えるのが妥当でしょう。
- アクティベーション(ライセンス認証)
- 購入したソフトウェアをインストールしただけでは動作せず、正規ライセンス保持を確認するために、製品番号などを入力してはじめて動作する(アクティブな状態にする)ような仕組みのことです。
- 使用許諾契約書とシュリンクラップ契約
- 市販パソコンソフトには「使用許諾契約書」が印刷されています。通常は,ソフトウェアをインストールするときに使用許諾契約書が表示され,同意のボタンをクリックすることにより契約が成立します。また,パソコンソフトのパッケージに使用許諾契約が印刷されており,「開封した場合は同意したものとみなされます」と表示されていることもあります。それをシュリンクラップ契約といいます。
- 不要ソフトウェアの転売
- 不要になったソフトウェアを転売することは,利用権の転売になるため,認められていると考えられます。しかし,使用許諾契約書で第三者への譲渡や転貸を禁止している場合があります。この場合は,そのソフトウェアが不要になり,自分のパソコンから削除したとしても,他人に売ったり譲渡したりしてはいけません。
デュアルライセンス/マルチライセンス
一つのソフトウェアに複数のライセンスのオプションがあり、使用者が選択できる形態です。
通常の商用ソフトウェアでは、「フリーウェア版」と「商用版」、「スタンダード版版」と「プロフェッショナル版」などがあります。OSSでは、OSDやGPLなどが示され、使用者が選択できるようにした場合です。
フリーソフトウェア
「フリー」には大きく二つの意味があります。
- フリー=無料
インターネットからのダウンロードや雑誌の付録にあるフリーソフトウェアは,無料で利用できるという意味で,著作権を放棄したということではありません。これを利用して有償のソフトウェアを作成して販売する行為は認められません。また,無断でのコピーを禁止している場合もあります。
- 著作権からの自由(=フリー)
著作権を英語ではコピーライトといいますが、それに対してコピーレフトという考え方があります。それによるソフトウェアをオープンソースソフトウェア(OSS:Open Source Software)といいます。
サブスクリプション
ソフトウェアの買取(利用権の永久許諾)ではなく、一定期間あるいは一定使用量に対して課金する方法で、期限付きの利用権許諾契約だといえます。例えば、マイクロソフトのOffice 365やアドビのCreative Cloudなどがあります。
また、シェアウェアなどで、一定期間あるいは試用版を無料で提供し、その後有料版に切り替えるよう勧誘する方法もサブスクリプションだといえます。
サブスクリプションの場合、期間が経過したとき、継続・解約の連絡があるのか自動延長になるのか、解約後にもパソコンに残存するソフトウェアがある場合の措置など、契約書をよく理解しておくことが大切です。
PDS(Public Domain Software)
著作権(著作財産権)を完全に放棄あるいは消滅した著作物をパブリックドメインといいます。PDSは著作権を放棄したソフトウェアです。著作権による制限なしにソフトウェアを利用できるし、ソースコードが入手できる場合は、改変したり改変後のものを頒布できます。
ソフトウェア作成者が、その公共性を重視してPDSにすることもありますし、それまでフリーウェアとして提供していたものを、自分で維持改良ができなくなったのでPDSにすることもあります。
シェアウェア
ソフトウェアの配布・利用許諾方式の一つ。いくつかの方式があるが、一般的には取得と初期の使用は無償だが、利用期間や機能に一定の制約があり、これを解除して継続的に使用したい場合に料金の支払いを求める方式です。
著作権の視点では、購入ソフトウェアとほぼ同じだといえます。
多くはWebサイトからダウンロードするのですが、フル機能をもつ版をシェアウェア、一部の機能に絞った版をフリーソフトとして提供していることもあります。
OSS(オープンソースソフトウェア)ライセンス
OSSは、「多くの人が使うソフトウェアは、独占すべきではなく、著作権を保持した上で公開し、誰もが利用できるようにしよう、また、そのソフトウェアの改良や二次的な発展に協力してもらおう、それにより優れたソフトウェアが万人の共有財産になる。」という考え方に基づいています。
(OSSの具体的な例は、「代表的なOSS」に掲げてあります)
OSD(Open Source Definition):OSSの定義
OSI(Open Source Initiative)が策定しました。OSDは、OSSの定義として、OSSと称するための条件を10項目掲げています。
- 再頒布の自由
第三者が、無料あるいは有料で頒布することを制限してはなりません。
(他人が作成したOSSであっても、有料で頒布したり、有料で指導したりできます。)
- ソースコード
ソースコードを含んでいなければならず 、コンパイル済形式と同様にソースコードでの頒布も許可されていなければなりません。
方法として好ましいのはインターネッ トを通じての無料ダウンロードです。ソースコードは、プログラマがプログラム を変更しやすい形態でなければなりません。
- 派生ソフトウェア(二次著作物)
OSSを変更したり派生ソフトウェアを作成することを許可しています。それら二次著作物は、元のOSSと同じ条件で再頒布することができます。すなわち、「OSSの著作権者は再頒布を認めよ」ということです。
- 作者のソースコードの完全性
改変した派生ソフトウェアの再頒布において、元のソフトウェア とは異なる名前やバージョン番号をつけるよう義務付けるのは構いません。
(元ソフトウェア、派生ソフトウェアの作者を明確にするためです)
- 個人やグループに対する差別の禁止
- 利用する分野(fields of endeavor)に対する差別の禁止
特定の個人やグループ、特定の利用分野に対して差別してはなりません。
(「会員限定」や「非営利目的に限定」などの条件は付けられません。)
- ライセンスの分配
プログラムに付随する権利はそのプログラムが再頒布された者全てに等しく認められなければならず、彼らが何らかの追加的ライセンスに同意することを必要としてはなりません。
- 特定製品でのみ有効なライセンスの禁止
- 他のソフトウェアを制限するライセンスの禁止
追加的ライセンスに同意すること、特定製品でのみライセンスを有効にすること、共に頒布される他のソフトウェアに制限をつけることなどを禁止しています。
(これにより、Linuxで開発されたOSSをWindowsに移植するなど、移植性が高まります。)
- ライセンスは技術的に中立であること
ライセンス中に、特定の技術やインターフェースの様式に強く依存するような規定があってはなりません。
主なOSSライセンス
いくつかの団体が、OSSのルールを定めています。OSSを利用するにあたって、OSSが示すルールに従うことが必要です。
コピーレフト型 準コピーレフト型 非コピーレフト型
ライセンステキストの添付が必要 〇 〇 〇
改変したソースコードの開示 〇 〇
組合わせた場合、対応部分の開示 〇
- GPL(General Public License)
- FSF(Free Software Foundation)が策定しました。OSDとほぼ同じですが、二次著作物の扱いが異なります。OSDは、二次著作者に元の条件で「頒布を許可する」としているのに対して、GPLでは同じ条件での「頒布を要求」しています。
すなわち、GPLのOSSを基にした二次加工物は著作者の意図に無関係にGPLになり、OSSとして公開することが義務付けられています。GPLのほうが厳しいルールになっています。そのため、FSFソフトウェアの機能を拡充して企業の機密的な処理をするソフトウェアを開発するときには注意が必要です。
- LGPL(Lesser GPL)
- GPLの制約を少し緩めた方式です。著作権の保持と品質の無保証は同じですが、複製・改変・再配布・販売等は自由にやってよく、中に組み込んで使うなら、再配布する物もLGPLライセンスにする(単にくっつけて使うだけなら好きにして良い)ことになっています。
- BSDL(BSD License)
- BSD(Berkeley Software Distribution)は米カリフォルニア大学バークレー校で開発したUNIXおよび関連ソフトウェアの頒布のために策定されたルールが基本になっています。
A 再配布時には著作権表示や許諾表示を残す。
B 無保証である。
C 書面による特別の許可なしに、組織-著作権者の名前と貢献者の名前を使わない。
この3条件さえ満足すれば、そのOSSや二次著作物を自由に頒布してよいという非常に緩やかなルールです。
上の表示さえすれば二次著作物は、再頒布を禁止することもできますし、公開の義務すらありません。
- MITL(MIT License, X License)
- BSDLを緩めて、AとBの2条件でよいとしたものです。
- MPL(Mozilla Public License)
- Mozilla Foundationが策定しました。Mozilla Firefox、Mozilla Thunderbirdなどに適用されています。
GPLが派生物すべてをGPLでライセンスすることを求めているのに対して、MPLは、プロプライエタリなモジュールはプロプライエタリなままで著作権を維持できます。
- Apache License
- ASP(Apache Software Foundation)が策定しました。二次的著作物は、ソースコードを公開せずに販売・配布したり、独自のライセンスで提供することができます。
組織でのソフトウェア管理
学校や企業などの組織では,個人以上に違法コピー対策を講じる必要があります。
ボリュームライセンスとサイトライセンス
利用権の範囲は,個人利用の場合では,1台のコンピュータだけ(3台まで認めるような場合もあります)にインストールできるのが通常ですが,学校や企業を対象とした契約には,大口割引として,ボリュームライセンスやサイトライセンスがあります。
このような契約の場合、会社がライセンス購入をしたソフトウェアを、個人所有のPCにインストールすることは、原則として違法コピーになります。
- ボリュームライセンス
- 大量の利用権を一括して契約することにより,割引制度を適用する契約です。ソフトウェアそのものは1セットが提供され,それを契約で定めた多数のパソコンにインストールできます。この場合,インストールした台数が契約数を超えないように管理することが必要です。また,管理することにより,実際にそのソフトウェアを利用するパソコンが少ないときは,契約を変更してコストダウンを図ることも大切です。
- CAL(Client Access License)
- サーバ側にあるソフトウェアを、クライアント(パソコン)からサーバに接続して利用することを前提とした契約方式です。同時にサーバに接続して利用するクライアント(パソコン、利用者)の数を制限します。例えばCALの上限が5個のとき、どのパソコンから利用してもよいが、同時に6台は利用できないという方式です。
- サイトライセンス
- 会社などの利用場所を限定したもので,その場所のなかであれば台数や人数に制限なく使用できます。ボリュームライセンスのような管理は不要になりますが,この「サイト」とは,企業の組織を指すのか,事業所などの場所を指すのか,サーバを指すのかなど多様です。また,利用者の数により価格が異なることがありますが,その数はパソコンの数なのか,ユーザIDの数なのか,同時に利用できるジョブの数なのか多様です。これらをよく検討して,適切な契約を行う必要があります。
組織での違法コピー
違法コピーが発覚したとき,著作権者は,民法(第709条)により損害賠償を請求することができます。違法コピーが校内で行われていることを知りながら,適切な措置をとらなかったとみなされると,学校が使用者責任を問われることがあります(第715条)。
また,ボリュームライセンスなどで,契約を超えたインストールを行うと,組織ぐるみの犯罪だとされて,多額の追徴金を請求されることもあります。
経済産業省は,「ソフトウェア管理ガイドライン」(http://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/downloadfiles/softkanri-guide.htm)を策定しています。これは,組織内のパソコンにインストールしているソフトウェアが,契約を満足しているか,過剰な契約になっていないかを管理したり,利用者が違法コピーを行ったり、組織が認めていないソフトウェアをインストールしたりしないように管理するための基準を示したものです。