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災害と情報

キーワード

防災行政無線、緊急地震速報、災害用伝言ダイヤル、東日本大震災、通信規制、事業継続計画(BCP)


日本は地震、津波、台風、豪雪など自然災害の多い国です。特に2011年3月11日に発生した東日本大震災は深刻な被害を起こしました。ここでは、大規模自然災害へのITによる対策をテーマにします。

従来からの情報関連対策

防災行政無線

災害発生時に、災害の規模や状況などの情報を地域住民に迅速に正確に伝達する手段を確保するため、国及び地方公共団体が防災用無線システムが構築されています。
 組織的な区分では、中央防災無線(中央省庁、公共機関等)、消防防災無線、都道府県防災行政無線、市町村防災行政無線があります。住民に防災情報を周知するのは市町村防災行政無線で、2010年では、同報系では76.3%、移動系では83.2%の市町村が整備しています。
参照:総務省「市町村防災無線等整備状況」

緊急地震速報

気象庁からの地震の予報・警報をTVなどで速報する仕組みです。地震の初期振動をキャッチして、大きな揺れがくる前にTVのテロップで流し、速報番組に切り替えて震源地と規模、各地の震度、津波発生の程度などを速報します。現在では、パソコン、携帯電話でも受信できます。
 交通機関の運行、水門の閉鎖の迅速化、避難誘導・指示、家庭や職場などでの安全確保、電話などの通信回線の制御、電力系統・水道・ガスなどの制御など多くの分野で活用されています。

災害用伝言ダイヤル

被災地の住民は、電話番号171に電話し、自宅の電話番号などをキーにしてメッセージを登録し、被災地以外の関係者はやはり電話番号171に電話し、被災地宅の電話番号を入力してメッセージを再生する仕組みです。

東日本大震災での教訓

上述のような災害時対策がとられていたのに、東日本大災害では大きな被害が発生しました。その状況を検討し、将来に向けて対策を練り直す必要があります。
参照:総務省「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」(2011年4月発足) 中間取りまとめ(2011年7月公表)

災害時の電話回線とインターネット

災害発生時、安否確認や情報入手のため被災地への電話が急増します。すると、電話回線や交換機の処理能力を超えてつながりにくくなります。それを輻輳(ふくそう)といいます。
 それを放置しておくと、連鎖的に他の地域の回線に輻輳が伝播して、広域で電話が使えない状態になります。それを防ぐために、電話局は通話が極度に集中する回線への一般電話の接続を制限しています。それを通信規制といいます。
 東日本大震災発生直後には、音声通話に関して最大70%~95%の通信規制が実施されました。

携帯電話ではメールだけでなく音声もデジタル化されパケット通信になっています。回線が多重化され柔軟な迂回ルートがとれるため、一部を除き、通信規制は行われませんでした。

インターネットは、そもそも米軍が核攻撃から通信網を確保する手段として開発したものです。通信経路が柔軟なため、極端にいえば、受信側に到達する通信路(無線でもよい)が一つでもあれば交信できます。東日本大震災でもインターネットを介してSNSなどの情報伝達・情報確認が役立ちました。
 プロバイダの支援が注目されました。震災直後に、被災者に道路や避難場所などの情報サービス、携帯電話機や無料充電場所の提供などの支援が行われました。
参照: ITpro[大地震から2週間、IT企業の支援表明が続く」

基地局や中継局の被災、避難所の設備不足

NTT東日本によれば、東日本大震災により、次のような被害があったとのことです。このような大規模損害の復旧には、復旧作業員の確保だけでなく、資材や機器の輸送が必要ですが、道路の破損や混雑により遅延が発生しました。
 ・通信ビル(NTT東日本)は385ビルが機能停止
 ・携帯電話・PHSの基地局は合計2万9千局が機能停止
 ・沿岸部の電柱が6.5万本流出・折損
 ・中継伝送路が90ルート切断

避難場所での通信確保の設備が不十分なことが問題になりました。

自治体情報の流失

市役所などが津波に襲われ、住民台帳が流失したり、コンピュータの記録が使えなくなるなど、住民対策に支障を招きました。
 住民基本台帳などは、住基ネットワークによりデータセンターにデータが保管されており、かなり復旧できました(その利用に関する規制により復旧に手間取るケースがあり問題になりましたが)。しかし、自治体独自に保管していた情報が失われ、自治体運営に大きな障害を招きました。

今後の対策

防災行政無線、緊急地震速報、災害用伝言ダイヤルなどこれまでに講じてきた対策、インターネットの普及は大いに役立ちました。1995年の阪神・淡路大震災当時と比べて、大きな効果がありました。
 しかし、このような大規模災害に対して機能が発揮できなかったことも多く、また、首都圏大地震など、さらに大規模災害も想定されることから、根本的に見直すことが必要だと反省させられました。
 総務省「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」中間取りまとめ(2011年7月公表)では、多くの改善対策を指摘しています。

東日本大震災のビジネスへの影響

ここでは、経済的な問題ではなく、ITに関する事項に限定します。

企業間連携による波及

企業間分業が発展しているため、工場が被災すると、その企業の活動ができなくなるだけでなく、そこと取引している多数の企業の活動に影響します。特に電子分野は、素材、部品、組立てなどの工程の企業間分業、国際分業が進んでいるので、地域的な被災が世界的に影響します。
 例えば、カーナビ半導体工場は福島に集中しており、その被害によりカーナビの生産が急減しました。
 2011年10月にタイで大洪水が発生し、工業地帯が浸水、稼働できなくなりました。HDDの生産はタイに集中しているため、一時的に消費者向けのHDD価格が2~3倍になりました。

事業継続計画(BCP)重要性の再認識

一工場、一企業の操業停止が広範囲に波及することから、災害時に操業を継続すること、復旧を迅速に行うことが、企業の社会的責任であると以前から認識されていました。その対策を講じることをBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)といいます。
参照:「事業継続計画(BCP/BCM)の概要」

東日本大震災は、ほとんどの企業に何らかの被害を与えましたが、BCPを行っていた企業は被害を少なく抑えることができたといわれています。


東日本大震災におけるBCPの効果
出典: PConline「災害対策・BCP策定 BCPの策定企業は3割強にとどまる」

BCPが重要なことは、2000年代中頃からいわれていたのですが、実際に策定している企業は3割強の状況でした。大震災の教訓から普及が進むと思われます。

IT機能のバックアップ、クラウド化

IT分野のBCPの基本は、自社のIT環境が使えないときに、他の環境で使えるようにすることです。