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前章で作成したPERTのアローダイヤグラムから,プロジェクト全体の完了を最短にするには,どの作業をいつから開始していつまでに完了すればよいかを計算します。プロジェクトの完成を遅らさないためには遅らせてはならない作業の組をクリティカル・パスといいますが,どの作業がクリティカルになるかを求めます。これに関連して重点管理の考え方を理解します。
作業時間,最早結合点時刻,最遅結合点時刻,最短完了時刻,クリティカル・パス,重点管理
次のアローダイヤグラムを例にして,このプロジェクトを最短で完了させるには,どの作業をいつから開始していつまでに完了するかを求めます。
右図のように,各イベントに二つの空欄を持つボックスを作ります。
作業i-jの所要時間をTijで表します。
イベントiから流出するアクティビティ(作業)のすべてが最も早く開始できる時刻を最早結合点時刻といいETiで表します。
そして,プロジェクトの最初のほうから(アローダイヤグラムの左のほうから)順にETiを計算して,イベントiのボックスの上段に記入していきます。
プロジェクトの開始時点を0日とします。それでET1を0とします。
すると,作業1-2の所要時間T12が6ですので,イベント2から始まる作業は最も早くても6日になります。すなわち,イベント2の最早結合点時刻(ET2)は6日になります。同様にイベント3では,ET3=ET1+T13=0+7=7日になります。
イベント4には3つのアクティビティが流入しています。
作業1-4の完了日:ET1+T14=0+5= 5日
作業2-4の完了日:ET2+T24=6+4=10日
作業3-4の完了日:ET3+T34=7+0= 7日
になりますが,イベント4以降の作業ができるのは,これらの作業がすべて完了した後ですから,ET4はこれらの最大値である10日になります。
これらをまとめると,次の数式になります。
ET1=0
ETj=max{ETh+Thj}
(hはイベントiに流入する作業の開始イベント)
例えばイベント5では,
ET5=max{(ET3+T35),(ET4+T45)}
=max{(7+3),(10+8)}
=max{10,18}
=18
となります。
このようにすべてのイベントについてETiを計算すると下図になります。最後のET6から,このプロジェクトの最短完了時刻は27日であることがわかります。
最遅結合点時刻とは,プロジェクトを最短完了時刻で完了させるためには,イベントjに流入するすべての作業が遅くてもこの時刻までに完了していなければならない時刻のことで,LTjで示します。それをプロジェクトの最後から(アローダイヤグラムの右側から)計算してイベントのボックスの下段に記入していきます。
最終イベント6の最遅結合点時刻はプロジェクトの最短完了時刻ですから,最終イベントの最早結合点時刻(27日)を最遅結合点時刻にコピーします。
イベント5から流出しているのは作業5-6だけです。それを27日に完了させるためには,遅くともLT5=LT6-T56=27-9=18日に開始する必要があります。
イベント4からは,作業4-6と作業4-5が流出しています。
作業4-6:LT4=LT6-T46=27-10=17日
作業4-5:LT5=LT5-T45=18- 8=10日
ですが,これらのすべてを満足するには最小値10日になります。
これらをまとめると次の数式になります。
LTn=ETn (n:最終イベント)
LTi=min{LTk-Tik} (k:iから流出する作業のイベント)
例えばイベント3では,
LT3=min{(LT5-T35),(LT4-T34)}
=min{(18-3),(10-0)}=10
となります。
同様にしてすべてのイベントについて最遅結合点時刻を記入すると,次のようになります。ここで,
すべてのイベントでET(上枠)≦LT(下枠)になること
最初のイベント1でLT1=0になること
に注意してください。そうならないときは,それまでの計算のどこかにミスがあったことになります。
上のアローダイヤグラムで,LT=ETとなるイベントに印をつけ,それを引き起こした(最大値,最小値にした)作業を太線(図では赤線)にすると,次のようになります。
この太線にした作業の組をクリティカル・パスといいます。これらの作業は,その作業が遅れるとプロジェクト全体の納期(27日)が遅れてしまいます。言い換えれば,プロジェクトを最短完了時刻で完了させるためには,遅らせてはならない余裕のない作業であり,プロジェクトの工程管理で特に厳重に管理しなければならない作業です。
それに対して,クリティカル・パスではない作業には余裕があります。作業1-3では所要時間は7日であり,それを0日から10日までの間に完了させればプロジェクト全体に影響しないのですから3日間の余裕があります。3日間の範囲であれば開始日を遅らせても作業日数が延びてもよいのですから,管理レベルを比較的緩やかにすることができます。
現実のプロジェクトでは,多数の作業が複雑に関係しており,個々の作業で多様なトラブルが発生します。プロジェクト管理者がすべての作業を平等に管理したのでは,かえって重要なクリティカルな作業の管理がおろそかになる危険があります。重点管理をするためには,どの作業がクリティカルになるのかを把握しておくことが必要なのです。
また,プロジェクト全体の納期を短縮するには,クリティカルな作業を短縮する必要があります。もし,人員を増加すれば短縮できるのであれば,余裕のある作業の人員を減らしてクリティカルな作業に応援させることができます。
これは工程管理だけでなく,業務全般にもいえることです。「全社一丸となってがんばろう」などのスローガンがありますが,余裕のある業務がムキになってがんばると,そこだけの効率を上げることに必死になってしまい,場合によってはクリティカルな業務の足を引っ張るようなことになる危険もあります。むしろ,余裕のある業務にはあまり力をいれず,クリティカルな業務に人や資金を重点的につぎ込むほうが全体としての最適化に効果があるのです。
過去問題: 「PERT」