LANやインターネットの基本は通信です。ここでは,
通信回線の種類と通信機器(アナログ/デジタル回線,モデムなど)
交換方式(パケット交換,多重化方式など)
伝送制御手順(フレーム同期,HDLCなど)
誤り制御(パリティチェック,CRCなど)
などを取り扱います。
LANやインターネットなどの構成やプロトコルなどに関しては、本章では扱いません。無線通信での特有な事項に関しても、本章では扱いません。むしろ、これらとあまり関係のない分野をここに集めたといえます。しかし、LANやインターネットなどでの説明は、ここで学習した知識(用語や概念)をベースにしています。
また、本章では、現在は使われなくなった過去の技術も含んでいます。現在の技術を理解するには、それ以前の技術との対比をするのが適切だと思ったからです。
LAN、WAN、アナログ回線,デジタル回線,モデム,半二重,全二重,回線交換方式,パケット交換方式,TDM,同期制御,フレーム同期,基本形データ伝送制御手順,コンテンション方式,ポーリング/セレクティング方式,HDLC伝送制御手順,フレームリレー,ATM、誤り制御,パリティチェック,CRC方式(巡回符号検査方式),ハミング符号
インターネットが普及し始めたころ、LANやWANをインターネット技術(TCP/IP、ブラウザなど)により再構築する動向が進みました。
近年はあまり使われませんが、次の用語がありました。
アナログ回線とは、電話のように情報(音声)を電流の波形に変換して通信する方式です。
その変換方式は多様ですがAM(振幅変調)方式だと図のようになります。基になる一定の周波数をもつ搬送波を、音声の振幅(強さ)に変えた変調波が、回線を流れる電気信号になるのです。
変調波の波は連続的(アナログ的)ですので,このような通信回線をアナログ回線といいます。
デジタル回線とは、通信する情報を0/1のビットとして通信する方式です。近年は、データ通信だけでなく、音声通話もデジタル化して通信するようになってきました。
現在、アナログ回線を廃止してデジタル回線に統合する動向が進んいます。
アナログ/デジタルの区分は、これらは回線を流れる情報の区分で、ケーブルの種類による区分ではありません(光ケーブルなどケーブルの特質によりデジタル回線に限定していることもありますが)。それなのに区分しているのは、回線を流れる情報がアナログかデジタルかで、ケーブルを流れる間に減衰するのを復元したり、他の回線に渡したりする方式や設備が異なるからです。
方式や設備は、利用者が変更することはできません。デジタル情報をアナログ回線に流したり、デジタル情報をアナログ回線に流すことはできないのです。
昔は、インターネットに接続するのに、アナログの電話回線していました。パソコンの内部はデジタル情報ですから、アナログ回線でインターネットに接続するには、デジタル情報をアナログ情報に変換(AD変換)する機器(モデム)が必要でした。
現在主流になっている光回線などのブロードバンド回線はデジタル回線ですので、このような変換は必要ありません。
通信分野では、8ビットのことをバイトではなくオクテットという単位を用いています。
現在では1バイト=8ビットが標準になっていますが、昔は6ビットや9ビットを1バイトとするコンピュータがありました。通信ではその曖昧さを排除するために、オクテットという単位を導入したのです。
実務上は、オクテットとバイトは同意語だとして差し支えありません。
宅内配線と事業者回線との責任上の境界は、通常は引込線の取付口にある保安器になります。
さらに、パソコン(宅内配線)から、ISP(インターネットサービスプロバイダ、事業者回線)に接続するときは、宅内配線の出口にDTE/DCEが必要になります。実際には一つの装置になっています。
変調(modulation)とは元の信号(音声やデジタルデータ)を伝送する際に最適な電気信号に変換すること、復調(demodulation)とは変調した電気信号から元の信号を取り出すことです。
元の信号をベースバンド、変調に用いる情報を乗せる波を搬送波(carrier wave、キャリア)、変調後の波を変調波(Modulated wave)といいます。搬送波は、交流の高周波数の単純な正弦波です(注)。
変調とは、ある時刻のベースバンドの強弱(波形の高さ)を搬送波の波形に反映して変調波にすることです。その基本的な反映方法として、振幅変調、周波数変調、位相変調の3つがあります。また、ベースバンドがアナログの場合をアナログ変調(analog modulation)、デジタルである場合をデジタル変調(digital modulation)といいます。
(注)搬送波として矩形波(パルス)を用いることもあります。それによる変調をパルス変調(pulse modulation)といいます。
変調波は、高周波数の交流です。交流にするのは、直流よりも伝送効率がよいからです。そのため、ベースバンドが直流であっても、交流にして伝送するのです。
個々のベースバンドは低い周波数から高い周波数を含んでいるので、無線通信では混信が起こります。有線通信でも、多数の発信源からの通信を一つの回線で伝送する多重伝送では混信が起こります。それを避けるために、各ベースバンドに周波数帯の異なる搬送波に乗せるのです。さらに高周波帯を用いることにより、多くの周波数帯を設定することができます。特に無線通信では、利用できる周波数帯が電波法で限定されています。
また、理由は省略しますが、変調を行なうことにより、雑音にも強くなるうえ、誤り訂正技術などを組み込むことでエラーに強い、信頼性の高い伝送を行なうことができます。
代表的な変調形式と変調波の波形を示します。
アナログの場合の振幅の幅とは、-2~3の範囲での波ならば、3-(-2)=5のような解釈をします。
この図ではデジタルのベースバンドの同時伝送ビット列は1ビットとしています。このベースバンドは、アナログ的には0と1の値をとる(振幅の大きさが1の)極端な波と解釈できます。ビット列が2ビットならば、0、1、2、3の高さをもつ波になります。
AMでは、ベースバンドの振幅に応じて変調波の振幅を変化させます。
ベースバンドの振幅を、最小値が0になるようにシフトし、それを上下対象にした波(側帯波)を搬送波の幅にしたのが変調波になります。
低速から数kbpsの中速通信で使われています。帯域が狭くても通信が可能なため、主に数十kHz~数十MHzの低い周波数帯で使われています。AMラジオや短波放送に用いられています。
ASKではベースバンドのビット列に対応して搬送波の振幅を変化させることで送信データを送る方式です。例えばビット列が1バイトで0~255までの種類があれば、変調波の振幅は、255では搬送波の振幅、0のときは断続した状態になります。送信データが1ビットで0か1だけのときのASKをOOK(On Off Keying)といいます。上の図はOOKです。
ベースバンドの強弱(高さ)に応じて搬送波の周波数を変化させます。振幅変化がないので、電力効率がよくフェージングにも強い利点があります。しかし、周波数の変化が激しいので、周波数帯を広く設定する欠点があります。 FMは、FM放送、コミュニティ放送に用いられています。
位相に情報を与えて伝送する方式です。
上図ではFMなどとの違いが不明確ですが、単純にいえば搬送波を sin(θ) としたとき、ベースバンドの強弱を何らかの計算で角度αに変換し、sin(θ+α)にするのです。アナログ変換のPMはほとんど用いられません。PSKでビット列が1ビット(0と1)ならば、sin(θ) と、sin(θ+π) の2つの位相だけになります。これをBPSK(Binary PSK)といいます。
PSKは、振幅は一定ですし、周波数も2つたけです。そのため、ASK、FSKの欠点がカバーできます。
この発展として、4つの位相を利用するQPSK(Quadrature PSK)、8つの位相を利用する8PSKなどがあり、1回の変調で2ビット、3ビットの変換ができます。
BPSKやQPSKは、GPS、携帯電話、アマチュア無線、業務用無線などで利用されています。
通信回線は多数の人が利用しています。そのとき,送信者Aと受信者Bの間で回線を確保することを交換といいます。それには次の方式があります。このうち,データ通信で重要なのはパケット交換方式です。
パケット交換方式では,電文をオクテット(=8ビット)の単位で、一定の範囲の長さ(固定長方式と非固定長方式がある)に分割して,それぞれに宛先や番号などのヘッダをつけたパケット(小包の意味)にします。一定の形式に従ったパケットをフレームといいます。
そして,複数のパソコンからきたフレームを1本の通信回線に混載して送り、フレームの宛先を見て各宛先に送ります。
インターネットでは,通信経路が一定していないので,送信した順序と受信した順序が異なることもありますが,受取側は,パケットの番号を調べて正しく復元します。
パケット交換方式により,回線が占有されることがなくなり、通信回線を効率良く利用することができますし,柔軟に経路選択が行なえるため、一部に障害が出ても他の回線で代替できるという利点もあります。それでインターネットに利用されているのです。
回線交換方式 パケット交換方式
通信路確保 通信中一つの通信路を確保 通信路の共有。パケットによる多重通信
通信信号 アナログ・デジタル デジタル情報のみ
有線・無線 どちらも使える どちらも使える
用途 連続的通信(電話) 断続的通信(データ通信) →注
(注)当初、電話でのパケット交換方式は、安価になるが音質が悪いといわれていましたが、現在では遜色ない状態になっています。携帯電話での電話は、例外を除きパケット交換方式です。スマートフォンでは、回線交換方式とパケット交換方式の両方に対応しています。固定電話は原則として回線交換方式ですがIP電話はパケット交換方式です。
多重化とは,1本の高速回線を用いて,複数の通信を同時に行う技術です。多重化方式には次の方式およびこれを組み合わせた方式があります。
キャリア(搬送波)をアグリゲート(結合)する技術です。FDMと同様に複数の異なる周波数帯の電波を束ねて、1つの通信回線として多重化する技術ですが、アナログ回線ではなく、搬送波の周波数により多重化します。主にスマートフォンでのLTEや5Gでの回線多重化の意味で用いられています。
伝送制御は,次の手順で行います。
回線接続 受話器をとる
↓ データリンクの確立 電話番号をかけて相手を確認する
↓ ↓ データの送受信 用件を話す
↓ データリンクの解放 さようならをいう
回線切断 受話器を置く
データリンクの確立~解放をデータリンク制御といいます。
ここでのデータリンクとは論理的な伝送路のことで、OSI基本参照モデルでのデータリンク層とは違います。インターネットで相手と回線接続するのはネットワーク層(IP)で、データリンクの確立はトランスポート層(TCP)です。
データリンク制御には次の2つの機能があります。トランスポート層の機能の一部でもあります。
このようなデータリンク制御を行うものをコネクション方式(TCP)といいます。それに対して、映像配信のように、少々エラーがあっても高速に伝送したい場合、データリンク制御をしないものをうものをコネクションレス方式(UDP)といいます。
通信をするには,送信側と受信側でタイミングを合わせる必要があります。それを同期制御といいます。現在はフレーム同期が一般に用いられています。
基本形 HDLC
伝送制御 コネクション方式 コネクション方式
信頼性 データの重複発生を防げない データの抜け、重複が発生しない
同期方式 キャラクタ同期方式 フレーム同期方式
伝送速度 中速 高速
伝送効率 1ブロックごとの送信確認 複数フレーム連続して送る
誤り制御 パリティチェック CRC
伝送路容量は、理論的な伝送能力です。実際の伝送では多様な環境による低下があります。
遅延とは、「あるデータのパケットが、クライントとサーバ間のネットワークを、往復するのにかかった時間」のことで、RTT(Round Trip Time:往復遅延時間)が尺度になります。
RTT = アプリケーション遅延 + 伝送遅延 + 伝搬遅延 + 輻輳遅延
データ送信経路で、パケットが消失してしまうことです。
電波干渉
中継装置の故障
のほかに、輻輳遅延も原因になります。
輻輳遅延があまりに長いことがあります。輻輳時に迂回経路を通ることにより到着パケットが送信順序と異なることもあります。
このようなとき、サーバはパケットロスだとして再送信を要求します。パケットロス率が高いと、送信のやり直しが何回も行われるので、データ通信の速度が遅くなります。
通信回線に一時的に多数のトラフィックが殺到し、想定容量(帯域幅)を超過する事態を輻輳といいます。
輻輳が発生すると
通信ができない(つながらない)
通信設備の負荷が増大し機能停止する
輻輳した回線に接続している回線に輻輳が伝播し広域化する
などの被害が起こります。
輻輳を防ぐには、一時的にはトラフィックを
通信事業者による発信規制
迂回回線により負荷分散を図る
優先順位を設定する
などの輻輳制御(congestion control)をします。
また、根本的には
回線の容量を大きくする
回線の有効利用を図る。パケット交換方式や多重化など
送信データを圧縮してトラフィック量を小さくする
ことが重要で、多様な方法がとられています。
伝送手段の信頼性が向上したため,実務的には,フレーム送信時の順序番号の付与やチェック,再送機能などの重要性が少なくなりました。それで,X.25の誤り訂正手順を簡略化し高速化を図ったものがフレームリレーです。
専用回線に広く利用されていましたが、イーサーネットをベースとした回線の普及に伴い現在はサービスを終了しています。
ATMは,非同期方式、固定長のTDM(時分割多重化)による伝送プロトコルです(フレームリレーには固定長と可変長のものもあります)。
ATMでは,低速回線から来たデータを,到着順に,固定長のセルに分割し,それに低速回線の番号などのあるヘッダを付けて高速回線で送信します。高速回線の反対側にあるATMは,そのヘッダにより,どの通信かを識別して,セルに分割したものを元通りに復元します。
このような方式をセルリレーといいます。
通常のパケット交換方式のパケットと異なり、ATMのセルは固定長で48バイト+ヘッダ5バイトになっています。それではデータ部分があまりにも細切れになってしまいますので,AAL(ATM Adaptation Layer)という上位層と合わせて用い,連続して最大192個のセルを送ることができます。
ATMは、音声電話を高度化して高速なデータ通信に対応させるB-ISDN構想から生まれた技術です。スター状にホストと接続したり、ATMをカスケード接続したりして、広域の高速伝送ができ、通信事業者の基幹回線網などに利用されていました。しかしその後、広域イーサネットへと移行しました。
現在では、身近な例として、ADSLでインターネットを利用するとき、ISPへの接続のプロトコルに用いられます。
データは伝送やコピーなどの操作により、ビット単位での誤りが発生することがあります。それを検出できれば訂正することが重要です。それを誤り制御といいます。
誤り発生は伝送中に発生することが多いので、ここで取り上げました。
キャラクタ単位に、誤りがないかチェックする方式です。送信時にキャラクタ内の1の個数がすべて偶数個(偶数パリティといいます。すべて奇数にするなら奇数パリティです)になるように,1ビットのパリティビットを付加して送信します。受信側で1のビット数を数えることにより誤りの検出ができます。簡単な方法であり,奇数個の誤りは検出できますが,偶数個の誤り時には検出できません。また訂正はできません。
ブロックについて,キャラクタの各ビット桁の1の数が偶数になるようにBCC(Block Check Character)を付加して、誤りを検出する方式です。一般に垂直パリティ方式と併せて使用されます。受信側で垂直・水平パリティチェックをすることにより,誤りの訂正もできます。しかし,検出できない場合もあります。
巡回符号検査方式ともいいます。送信データをビット列を多項式として,それを決められた生成多項式(16ビットの生成多項式はX16+X12+X5+1)で割り,その余りのビット列を付加します。受信側ではその逆算を行って誤りを検出します。非常に高い精度で の誤り検出が可能です。特に通信では連続的にビット誤りが発生します。それをバースト誤りといいますが,その検出に効果的です。CRCはHDLCでの誤り制御に採用されているので,LANやインターネットで広く用いられている方法です。
CRCの説明はかなり面倒ですので,簡単な例題で説明します。
例えば,送信するべきビット列を1111,生成多項式をG(X)=X3+X+1とします。すると, X3 X2 X 1 X6 X5 X4 X3 X2 X 1 1 1 1 . 1 0 1 1 ) 1 1 1 1 1 0 1 1 . 1 1 0 1 1 . 1 1 1 0 1 1 1 1 1 となります(ここで0-1が-1ではなく,+1になっていますが,気にしないでください)。
余りがX2+X+1ですので,付加するビットは111になり,これを検査ビット(FCS)といいます。
受信側にデータ1111とFCS111が送られてきたときは, X3 X2 X 1 X6 X5 X4 X3 X2 X 1 1 1 1 . 1 0 1 1 ) 1 1 1 1 1 1 1 1 0 1 1 . 1 0 0 1 1 1 1 0 1 1 . 1 0 1 1 1 0 1 1 0 となり,割り切れますので,誤りがなかったことがわかります。 1101111が送られてきたときは, X3 X2 X 1 X6 X5 X4 X3 X2 X 1 1 1 1 1 . 1 0 1 1 ) 1 1 0 1 1 1 1 1 0 1 1 . 1 1 0 1 1 1 1 0 1 1 . 1 1 0 1 1 1 0 1 1 . 1 1 0 1 1 0 1 1 1 1 0 となり,割り切れないので,誤りがあることがわかります。
ハミング符号とは,情報ビットに冗長ビットを付加して,2ビットの誤り検出と1ビットの誤り訂正機能をできるようにしたものです。自動訂正機能に採用されています。
4ビットX1,X2,X3,X4を送りたいとします。そのとき,冗長ビットとして,
X1 +X3+X4+P1 =偶数 X1+X2 +X4 +P2 =偶数 X1+X2+X3 +P3=偶数
となるようなP1,P2,P3の3ビットを付加して,X1X2X3X4P1P2P3を送るのです。
たとえば,1011を送るのであれば,
1 +1+1+P1 =偶数 1+0 +1 +P2 =偶数 1+0+1 +P3=偶数
から,P1=1,P2=0,P3=0ですので,1011100として送ります。
もし,1110011を受け取ったとします。
X1 X2 X3 X4 P1 P2 P3 1 1 0 0 1 1 1 1 +0 +0 +1 =偶数 (a) 1 +1 +0 +1 =奇数 (b) 1 +1 +0 +1 =奇数 (c)
なので,bとcの両方にあってaにない変数X2が誤りで,1を0にする必要があること,すなわち,送信元は1010を送ったのだということがわかります。