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個別アプリケーション投資とインフラ投資


例えば販売システムとか生産システムというような、具体的な目的を持ったシステムをアプリケーションといいます。アプリケーション投資は、それによる効果は比較的わかりやすいし、開発費用をどの程度まではよいか判断しやすいといえます(かなり困難ではありますが)。
 それにたいして、
  パソコンやネットワークなどのハードウェアの整備
  データベースやERPパッケージなどのソフトウェアの整備
  システム開発の方法論、標準化、部品化など開発環境の整備
  経営者や利用部門のIT活用に関する成熟度の向上
などへの投資をインフラ投資といいます。

インフラ整備が不十分な場合は、アプリケーションを構築するときに、それに必要なインフラ投資の一部も必要になります。その分だけ費用が余計にかかります。
 また、標準化が進んでいないので、いくつかのアプリケーションが、ばらばらな基準で構築されてしまいます。そのため、アプリケーション間をつなぐ利用がしにくい状況になってしまいます。
 それに対して、インフラ整備が進んでいる場合は、すでにハードウェアやネットワークなどのインフラがあるので、アプリケーションに必要な投資だけで構築できます。関係者の認識も高いので、成功する確率が高くなります。複数のアプリケーションが標準化したインフラの上に構築されるので、共通する部品を利用できるし、アプリケーション間の連携もやりやすくなります(図示)

インフラ整備が進んでいる企業をA社、そうでない企業をB社とする。その2社が、販売システムを検討し、その後、流通システムを検討するとし、それぞれのシステムによる効果を5千万であるとする。
 A社は、インフラ整備ができているので、販売システムの構築が3千万円でできる。2千万円の利益があるので、承認される。2千万円の利益のうち、いくらかはインフラ強化に向けられるので、さらにインフラが強化される。その後の流通システムも3千万円以下で構築でき、さらに利益を得ることができる。
 それに対してB社では、販売システム構築にインフラ部分の投資もかかるので、その費用は6千万円になる。1千万円の損失になるので、投資案は却下される。流通システムも同様である。すなわち、B社では、インフラ投資という壁を乗り越えられないので、いつになってもITによる利益を得ることができないのだ。

インフラ整備は、長期的に大きなメリットを生じます。ところが、インフラ投資は、それ自体が利益を生むのではなく、その上に構築されたアプリケーションが利益を生むのです。しかも、インフラ投資の段階では、その後、どのようなアプリケーションが構築されるのかが不明確なこともあり、その効果を検討するのは困難です。そのような視点から、アプリケーション投資は環境対応的投資であり、インフラ投資は体制強化のための戦略的投資だともいえます。そのため、異なった視点での評価が必要ですし、経営者の意思決定がいっそう重要になります(インフラ投資での留意事項)

当然ながら、収益が悪いときにインフラ投資はできません。資金に余裕があるときに、リスクの大きいインフラ投資を行ったかどうかが、将来を決定づけるのです。ところが、現在は余裕がないとして、インフラ投資をしないでいると、他社との競争に負けて、ますます余裕がなくなる状況に追い込まれるかもしれません。

インフラ投資のなかには、ハードウェアやソフトウェア購入のように直接費用がかかるものと、標準化や教育のように、直接の出費が比較的小さいものもあります。状況により、いつ何を重点にするかを検討することが必要です。

インフラ投資は、ハイリスク・ハイリターンです。ある時点でハードウェアやソフトウェアを整備したのに、その後、技術進歩あるいはIT市場動向により、整備したものとは異なる優れたものが発展することがあります。既に現行のもので多くのシステムが稼働しているので、優れたものに移行することが困難になります。しかも、ITの進歩は急速で流動的なので、専門家でも将来を正しく予測することは困難なのです。


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