Web教材一覧経営と情報

物理モデル、論理モデル、現状モデル、理想モデル


本章での「モデル」

情報戦略の目的は、経営戦略の方針により、現状業務をITにより改革・改善すること、現状の情報システムを抜本的に見直すことにあります。
 それには関係者が誤解なく理解するために可視化することが必要です。その手段として適切な図表化をすることが効果的です。ここではそれをモデルといいます。
 代表的な図表化手法にはUML、E-R図、DFDなどがありますが、それらは別章で取扱います。本章では、情報化計画において、どのようなモデルを作成するかをテーマにします。

モデルの区分

物理モデル
実務に即した表現です。「顧客から営業部に電話で注文があると、営業部は受注伝票を起票するとともに受注システムに入力する」ことを図化してモデルにします。
情報システムに限定したときには、システムへの実装レベル、業務での利用レベルのことを物理モデルとすることもあります。
論理モデル
「注文が発生すると、情報システムに受注情報を入力する。その受注情報には得意先、商品、数量・・・などがある」というように、物理的な組織や伝達手段ではなく、情報の構成や入力・伝達・加工・参照・保管など論理的な観点からモデルにします。
情報システムでは、やや詳細なクラス図やアクティビティ図がある程度で、ハードウェアに関しては、サーバとクライアントの機能分担、ネットワークの概要程度で、具体的な機器構成までは対象にしないが通常です。
現状(As-Is)モデル
現状分析などにより、対象業務や情報システムの現状をモデルにしたものです。
理想(To-Be)モデル
将来の「あるべき姿」をモデルにしたものです。戦略や計画は、現状打破を目的としているのですから、目標とする状態があるはずです。それを明確にするのがこのモデルです。
あるべき姿は、関係者により違いがありましょう。このモデル化の検討過程でそれが明確になり調整することが大切なのです。
情報システム開発では、理想モデルが業務要件あるいはシステム要件を示したものだといえます。
ギャップ分析
現状(As-Is)モデルと理想(To-Be)モデルの差異(ギャップ)を分析して課題を明確にする分析手法をギャップ分析といいます。

モデル間の関係

大まかな流れは「現状物理モデル→現状論理モデル→理想論理モデル→理想物理モデル」になります。

理想モデルの実現には長期間かかる場合には、現在思っている「あるべき姿」と数年後のそれとは異なることも考えられます。そのため、理想モデルは状況に応じて改訂することが必要ですし、改訂に柔軟に対応できる構成にしておくべきです。この観点から理想論理モデルがいっそう重要なものになります。

次期モデル

現状物理モデルと理想物理モデルのギャップが問題になります。強力な指導力により、一挙に理想物理モデルに移行することができればよいのですが、かなりのリスクを伴います。また、理想モデルでは「できればいいな」の不確定要素が多いでしょう。
 このようにギャップが多いいときは、一挙に「理想」モデルの実現を求めるのではなく、その中間に実行可能な「次期モデル」を設定するのが現実的です。
この場合、まず理想モデルを策定した後で、可能性や費用・納期などを考慮して、引き算として次期モデルを策定することが重要です。現状モデルからの足し算で策定すると、理想モデルとは異なる方向に進んでしまい、あるべき姿を実現する妨げになるかもしれません。

EAとの関係

EA(Enterprise Architecture)は、「業務・システム最適化計画」と訳されています。国は、行政部門を対象にこの活用に力を入れており、民間での活用も広まっています。
 ここで述べた「モデル」は、EAでの政策・業務体系(BA:Business Architecture)の中核的な位置づけになっています。