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経営と情報
株式取引、合併・買収
学習のポイント
株式会社は株式発行による資金を資本として運営されるので、株式取引に関する基本的な理解が必要です。さらに、企業では活発な合併・買収が行われていますが、それは株式の保有により実現されます。本章では、それらの概要を学習します。
キーワード
M&A, 事業譲渡, アライアンス, TOB, LBO, MBO, EBO, 普通株, 優先株, 株券電子化, 株価時価総額, PER, インサイダー取引
出資比率と経営支配
会社の最高意思決定機関は株主総会であり、経営に重要な事項は株主総会で決議されます(参照:「会社法と株式会社組織」)。原則として株主総会は、議決権を行使可能な株主の議決権の過半数を定足数とし、出席株主の議決権の過半数により決議します(特別決議-会社解散、定款変更、株式発行など-は2/3以上)。
そのため、経営の支配力を高めるには、多くの株式を取得する必要があります。総株数(議決権のある株式)に占める出資元の所有株式数を出資比率といいます。出資比率と経営支配の関係は、次のようになります。
- 20%以上:連結決算
連結決算上、出資先会社は関連会社となり、取締役などを派遣できるようになります(例外もある)。
- 33.33%超:拒否権
特別決議は2/3以上が必要ですから1/3以上で拒否権を持つことになり、経営上の重要事項を拒否することができます。
- 50%超:事実上の経営支配
通常の議案は多数決で決議されます。取締役などの人事権をもつことになり、通常は社長をおこりこむことができ、出資元の方針に沿った経営が行われることになります。
- 66.66%超:安定支配
拒否権をもつ他者が存在しないので、特別決議すら出資元の自由になります。
- 100%:完全支配
株主全員の同意を要する事項すら決議でき、完全子会社になります。
関係会社
関係会社とは、「財務諸表提出会社の親会社、子会社及び関連会社並びに財務諸表提出会社が他の会社等の関連会社である場合における当該他の会社等をいう」と定義されています。
- 親会社・子会社
- 次の関係があるとき、A社を親会社、B社を子会社といいます。親会社は、実質的に子会社の経営の支配力をもっています。
・A社がB社の議決権の50%超を所有している場合
・A社がB社の議決権の40%以上を所有している場合であって、一定の要件に該当する場合
・A社及び特定の者がB社の議決権の50%超を所有している場合であって、一定の要件に該当する場合
- 関連会社
- B社が子会社ではなく、次の関係があるとき、B社をA社の関連会社といいます。A社はB社への出資だけでなく、人事、技術、取引等の関係を通じて、B社の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができます。
・A社がB社の議決権の20%以上を所有している場合
・A社がB社の議決権の15%以上を所有している場合であって、一定の要件に該当する場合
・A社及び特定の者がB社の議決権の20%以上を所有している場合であって、一定の要件に該当する場合
- その他の関係会社
- 関連会社での議決権に満たないが、その他の関係を通して、重要な影響を与えている場合です。
持株会社
投資目的ではなく、子会社の経営や事業を支配することを目的に株式を保有し、グループ全体の経営戦略や事業計画などに携わる会社のことです。ホールディングカンパニーとかグループ本社などとよばれます。
他の株式会社を支配する目的で、その会社の株式を保有することもありますが、大きな企業が事業をわけて子会社に分割し、本体が持株会社になることもあります。
持株会社が、株を保有する以外に事業を行っている場合には「事業持株会社」といい、株を保有するのみで事業を行っていない場合は「純粋持株会社」といいます。
子会社化の理由
ここでは、会社組織の一部を分離して子会社にする理由を列挙します。
- 新規事業
社内カンパニーを独立させる場合です。事業の立上げ・運用において、親会社の従来の組織体制や文化が馴染まないときなどです。
子会社化の場合をスピンオフ、親会社との関係が切れる別会社化をスピンアウトともいいます。
- 経営スパンの短縮
事業部制をさらに進めた考えです。自主性・創造性の発揮、意思決定の迅速化など
- 節税対策
小規模な会社にすることにより、法人事業税の軽減税率適用、交際費の経費算入限度額増加、消費税の期間内免除などが適用
会社の合併・買収
企業が新技術や新市場を短期で獲得するには、それを既に持っている企業を買収するのが効果的です。また、買収されることは必ずしも敗北ではありません。高い買収金額を得ることは株主にとって大きな利益になります。従業員にとっても、より広い分野で能力発揮できる機会になります。
しかし、経営権が他社にわたるのですから、ハッピーな結果にならないことも多くあります。なかには、経営権を得るためでなく、買収・売却の過程で利益を得ることを目的とすることもあります。
コーポレートガバナンスの一環として、合併や買収は重要な事項なのです。
- M&A(Mergers and Acquisitions)企業の合併や買収の総称
・合併:法定手続により複数の会社が一つの会社になること
・買収:一方の会社が他社の株式を取得して、会社の一部門や子会社にすること
- 合併の種類
・吸収合併:合併当事者の一方を存続会社とし、他方の会社の権利義務を存続会社に承継させて消滅させる
・新設合併:合併各会社を解散し、新設立会社に承継させる
- 合併の会計措置
存続会社が被合併企業の資産を購入したと解釈して、存続会社の株式で清算する。その資産評価を時価で評価する方式をパーチェス法という。また、存続会社ではなく存続会社の親会社株式を用いることを三角合併という。
- 買収での株式の取得手段
発行済株式の譲受け、新株の引受け、公開買付けなどがある。
事業譲渡
M&Aをされる側の用語です。会社がその事業の全部あるいは一部を第三者に譲渡(売却)することです。
撤退戦略の一つで、対象業務の将来性、競争力の低下、財務環境の悪化、資金の獲得など、多様な理由があります。
ある事業部をそのまま譲渡する場合と分社化して譲渡する場合があります。後者の場合は、当初は分社を買い手と売り手が株を持ち、その後売り手が株を売却するケースが多いようです。
ジョイントベンチャ
複数の企業が共同出資して新会社を設立することです。出資比率により、新会社の経営支配力が決まります。
アライアンス(alliance:提携)
合併・買収やジョイントベンチャを伴わない共同事業です。資本出資を伴う資本提携とそれを伴わない業務提携があります。
資本提携
企業が、他の企業とお互いの株式を持ち合い、協力関係を強化することです。相互の持ち合いで平等の場合もありますが、一方の企業が他方の企業の株式を取得する資本参加もあります。M&Aや企業支配にまで至らない、低い出資比率で資本関係を築くことです。
業務提携
業務提携とは、資本の移動を伴わずに、複数の企業が経営資源を相互活用して協力することを指します。
連携先の類型による区分
・同業種提携
・水平的提携:製品や地域を拡大するための連携
・垂直的提携:原料→生産→物流→販売のような川上・川下業種の連携
・業際提携:業務内容は異なるが、市場が密接に関連している企業の連携
・業外提携:従来は接点がなかった業種企業の連携
連携内容・形態による区分
・共同化:共同受注、共同配送など
・フランチャイズ:チェーン店など
・共同開発:技術開発組合など
・特許提携:特許の相互提供など
株式買付けの用語
- TOB(Takeover Bid、株式公開買付け)
経営権の取得や資本参加を目的として,買い取りたい株数,価格,期限などを公告して不特定多数の株主から株式市場外で株式を買い集めること
・友好的TOB:被買収会社の協力を得て行うTOB
・敵対的TOB:被買収会社の同意を得ずに行われるTOB
- LBO(Leveraged Buyout、レバレッジバイアウト)
TOBの一方式。買収資金を手持ち資金ではなく、買収先の資産及びキャッシュフローを担保に調達する方法。買収後の資産売却や事業改善などよりキャッシュフローを増加させて返済する。
少ない自己資本で、大企業を買収できることから、梃の原理(レバレッジ)と呼ばれる。主としてファンドなどによる買収で採用される。
- 敵対的TOBへの防衛策
・ポイズンピル(毒薬):協力的株主にTOBに対抗する低価格で株式を購入させる。
・ホワイトナイト(白馬の騎士):自社に友好的な企業に株式を購入してもらう。
・焦土作戦:買収企業が関心をもつ事業などを売却して、買収動機をそいでしまう。
・パックマン・ディフェンス:買収を仕掛けた企業に逆買収を仕掛ける。
- MBO(Management Buyout、経営陣買収)
会社の経営陣が株主より自社の株式を譲り受けることによりTOBに対抗すること。
子会社や事業部門の経営者が親会社の株式や営業資産を買い取ること。
- EBO(Employee Buy-Out、従業員買収)
会社の従業員がその会社の事業を買収して経営権を取得する。会社が解散する状況に存続をさせるため、現在の経営者を退けるために、従業員が共同してEBOを行うことが多い。
株式の種類
- 普通株
以下のような特権や限定をしない一般的な株式
- 優先株
配当や財産処分などは、全ての株主に平等であることが原則だが、他の種類の株式よりも優先権をもつ株式。一般的には、経営参加権はもたない。
- 劣後株
優先株の逆で、普通株よりも優先順位が低い。主に会社の発起人に対して発行される株式
- 議決権制限規定株式
株主総会での議決権の、全部又は一部を制限する株式
- 譲渡制限規定株式
株式は自由に譲渡できるのが原則であるが、これは会社の承認がないと譲渡できない。
取得請求権規定株式
株式を売れば現金で支払うのが原則だが、以前の償還株式や転換株式のように、その会社の別の種類株式を設定した株式
- 拒否権規定株式
俗に黄金株ともいう。買収関連の株主総会決議事項について拒否権を行使できる株式
特殊な株式であり、政府関連機関・公営企業などを民営化する際に、国等が所有することがある。
株式に関するトピックス
- 無額面株式、株券電子化
以前は、額面金額を表記した紙の株券が使われていました。1株50円(あるいは500円)で2000株と表示されていたのです。1株50円なのが実際には65円で取引されるというような考え方でした。現在では無額面株式(株数は表記されるが単価は表記されない)になりました。また株券電子化により、株を買っても株券はもらえません。証券会社のコンピュータ記録情報が変わるだけです。
- 株価への関心
・株価の上昇は株主資産の向上になるので、経営者の最大責任である。
・株価は現在の業績、将来発展の期待を反映する尺度になるので経営者の能力評価につながる。
・外部の評価が高いことから、銀行や取引先の信用が高まる。
・株価が高ければ、株の放出や新株発行により、多額の資金を得ることができる。
・合併時での株式交換比率、買収に応じるときの対価などで有利になる。
などのため、経営者は株価に大きな関心をもっています。
- 株価時価総額
「現在の株価×発行済株式数」で計算されます。会社の現在および将来を考慮した価値評価は株価で数値化できるという考え方に基づいています。証券市場における会社の価値だといえます。
・PER(Price earning ratio、株価収益率)株価と獲得利益の比率を表す指標。
株価をP、1株あたり純利益(次期予想)をEPSとすると、PER=P/EPSとなります。
しかし、バブルや投機的株取引により、実体とは異なる値になることもあります。実際には大した収益をあげていない会社なのに、株式取引で買いが多く株価が異常に高くなっているような場合です。
- 自社株(自己株式)
本来は株式は他者に発行して資金を得るのですが、自社株式を自社で保有することもあります。株価の維持や敵対的TOB対策として有効なメリットがありますが、不公平、不法行為を生じる原因になるので、その取得・処分の規制や公開義務などが定められています。
- インサイダー取引(insider trading、内部者取引)の禁止
株式取引には公平性が重要です。会社役員や関係者など、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼすような情報に接する立場にある者が、公表以前に証券取引を行うことはインサイダー取引だとして金融商品取引法で禁止されています。
理解度チェック:
正誤問題、
選択問題、
過去問題