ビジネスモデルの3要素
ビジネスモデルは、組織がどのように価値を創造、提供、獲得するかの理論的根拠を説明したものです。
価値創造(Value Creation)
生産コストよりも顧客にとって価値のある製品(商品またはサービス)を生産すること、市場にとって生産コストよりも価値の低い製品の生産を防ぐことです。ビジネスモデルには、「安く買って高く売る」仕組みが求められます。
価値実現(Value Delivery)
価値とは顧客が製品から得る効用です。販売価格とは提供者が設定するものではなく、顧客がその製品に満足して払う代償です。ビジネスモデルには、顧客満足を継続的に提供する仕組みが求められます。
価値利益化(Value Capture)
単純には、顧客が支払う販売価格(単純販売利益)から、価値創造と価値提供に要した費用が提供者の利益(単純利益)だとなりますが、実際には、競合他社の動向、自社の信頼性(ブランド)向上などを考慮して、単純利益を提供者と顧客が分け合う(そのような販売価格にする)ようにしなければなりません。ビジネスモデルには、このような内外の環境を考慮しても成長できる仕組みが求められます。
BMC
BMCとは
BMC(Business Model Canvas)とは、ビジネスモデルの構造を9つの要素に整理し1枚の図表にして、ビジネスモデルの可視化により理解を深め、組織内で共通認識を持つビジネスモデルを策定する技法です。
新規事業の立ち上げでは、ビジネスアイディアをまとめてビジネスモデルにしますが、BMCの図表にすることにより、整合性のとれたビジネスモデルをわかりやすい図表にすることにより、社内や出資者への説得力のある説明ができます。
既存事業においても、現状確認を通じてビジネスモデルの優位性や弱点の発見をすることで、より強固なビジネスモデルにブラッシュアップすることができます。
BMCを構成する9つの要素
下図はBMCの体裁を示したものです。9つの要素の位置関係は、各要素の位置づけや要素間の関連の大小に基づいています。右側は顧客と収益に関する要素、左側はそれを実現する企業活動と費用の要素になっています。上側は手段の選択、下側はそれによる財務の視点の要素です。
各要素の番号は、ビジネスモデルの検討順序を示しています。「誰にどのような価値を提供するのか」から「それを提供するにはどうするか」の流れになっています。顧客満足を重視したビジネスモデルになります。
- 1 顧客セグメント(CS、Customer Segments)
- ビジネスモデル検討の最初は、対象とする顧客の選定です。
・マス市場を対象にするのか、ニッチな市場を創出するのか、顧客層を細分化してその一部に限定するのか
・対象は個人なのか法人なのか。個人ならば主なニーズは何か。法人ならば相手のビジネスモデルは何か
- 2 価値提案(VP、Value Propositions)
- 対象に選定した顧客に、どんな価値を提供するのか、どういったニーズを満たすのかを検討します。自社の事業が顧客にとって特別な価値(USP)を与えるかを顧客の観点から考えることが必要です。
自社の製品やサービスと顧客のニーズとのギャップを把握する技法に、後述のVPCがあります。
- 3 チャネル(CH、Channels)
- 顧客に価値を提供するための、販売形態、広告媒体などの検討です。
実店舗販売か、ネット販売か、その組合せか、あるいは、新しい形態にするかなどを、対象とする顧客の特性と製品やサービスの特性から検討します。
販売促進では、AIDMAなど、顧客購買行動を検討することも必要です。
- 4 顧客との関係(CR、Customer Relationships)
- ビジネスモデルの成功は顧客満足の獲得・向上にあります。顧客との関係をどのように構築し維持、展開していくのかの検討です。
顧客満足獲得手段は、ここまでの対象顧客、製品・サービス、提供手段により大きく異なります。
また、この検討により、新規顧客獲得を目指すのか、既存顧客の固定客化・ファン化を目指すのか、事業の方向性も決まってきます。
- 5 収益の流れ(RS、Revenue Streams)
- そもそも顧客はどのような価値にお金を払うのか、何にお金を払っているかを再認識し、それに応じて、どのような支払方法(買取、従量課金、利用権購入など)が受け入れられやいのかなどを検討します。それにより、自社の初期投資費用や資金繰りなどに影響します。
- 6 主要リソース(KR、Key Resources)
- ここからは、主に価値(製品・サービス)を生産する分野になります。
ヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源(リソース)の何がどのように必要になるかを検討します。この事業への配分が他の事業に及ぼす影響も考慮する必要があります。自社資源で不足するものがあるときはアウトソーシングの検討も必要です(後述の「主要パートナー」)。
- 7 主要活動(KA、Key Activities)
- 価値を提供するのに必要な主要活動の検討です。価値連鎖の考え方が基本になりますが、このビジネスモデル実現のために価値提案の差別化の最重要要因となる活動にフォーカスすることが大切です。
- 8 主要パートナー(KP、Key Resources)
- 代替のきかない協業相手の選定と交渉のプロセスです。主要リソースのアウトソーシング先、サプライチェーンを構成する協業相手、Web販売ならe-マーケットなどがあります。
- 9 コスト構造(CS、Cost Structure)
- ビジネスモデルを運営するにあたり発生するコストを固定費と変動費に分けて検討します。この検討結果により、主要リソースや主要活動など、前のプロセスに戻り変更することもあります。
関連手法
BMCと他の手法と組み合わせることにより、よりブラッシュアップしたビジネスモデルにすることができます。
リーンキャンバス(LC)やバリュープロポジションキャンバス(VPC)など、顧客によりフォーカスしたフレームワークを利用することにより、顧客イメージをより詳細につかむことで、自社の製品やサービスが提供する価値が、顧客セグメントと合っているのかを検証していきます。
リーンキャンパス
leanは「軽い」の意味。BMCと比較して、検討順序を変更して、検討するケースを絞り込むことにより、後工程の作業を簡素化しています。全体として顧客に何を提供できるかという独自の価値提案を中心にしています。
- 課題:顧客が解決する必要のある課題(ニーズ)を数個想定します。これを最初に行うことにより、検討するビジネスモデルを絞り込む効果があります。
- 顧客セグメント:BMCとほぼ同じです。課題が先行しているので対象を想定しやすくなります。
- 独自の価値提案:「独自の」を重視します。後述のVPCを活用します。
- ソリューション:課題の解決策の検討ですが、一度に完璧な解決策を見つけるのは困難です。「構築―計測―学習」プロセスを繰り返します。
- 圧倒的な優位性:自社のコアコンピタンスを洗い出し、それを活用するソリューションとの連携を考えます。
- 収益の流れ、コスト構造:BMCと同じですが、主要指標やチャネルなど価値提供の検討以前に行うことにより、モデルの検討というより、使えるコストの上限を検討することになります。前工程への戻りが少なくできます。
- 主要指標:コスト構造で大まかな損益分岐点が得られますが、それをベースにしてKPI(重要業績評価指標)を設定します。
- チャネル:BMCとほぼ同じですが、主要指標達成のために絞り込みます。また、リーンスタートアップの「学習」プロセスと似たようなものになります。
VPC(Value Proposition Canvas)
自社の製品やサービスと顧客のニーズとの関係を図化して、そのギャップを把握し、解消するためのフレームワークです。
右側に「顧客の情報」を、左側に「バリュープロポジションを構成する要素」を記載し、双方を一枚の紙上で比較することで、バリューがニーズに合致するかを確認します。