教員能力、情報Aが圧倒的多数、操作教育の偏重、未履修問題
健全な情報社会を構築し発展させるためには、初等中等教育で「情報」教育を重視することが必要です。2001年からのIT推進5カ年計画であるe-Japan戦略それに先行していたミレニアムプロジェクトなどで示された初等中等教育への情報教育計画の主要ポイントは次の通りでした(図表)。
・2002年度から小中学校で情報教育を取り入れる。
・2003年度から高校で情報教科を正課とし必履修にする。
・2005年度では,すべての教室でコンピュータを用いた授業ができるようにする。
さらに、2006年からのIT推進5カ年計画IT新改革戦略でも初等中等教育での情報教育が重視されました。
e-Japan IT新改革戦略
パソコン装備率 5.4人/台 3.6人/台
高速インターネット整備率 高速回線で概ね100% 光による超高速回線で概ね100%
校内LAN整備率 概ね100% 概ね100%
教員校務用パソコン整備率 教員1人1台
その結果、小中高校における情報教育の環境は急速に整備されてきました。特に高校での整備が進んでいます。しかし、目標達成にはさらなる推進が求められます(図表)。
物的な整備に対して、教員のIT能力向上が遅れています。文部科学省では、情報教育は全教科で行うことが必要であるとし、2010年度までに全教員がITを活用した授業ができる能力をもつことを目標にしてきました。
既に2005年頃には、高校教員のほとんどがパソコンやインターネットを使えるようになっています。
しかし、ITを用いて授業することに自信をもっていない教員が20%以上残っています(図表)。しかも、ここでの「できる」レベルは比較的低いのです
(チェックリスト)。情報、理科、数学などの科目を担当する教員は、授業できる割合が高いのですが、その他の科目担当では低い状況です。
「コンピュータを操作できる教員」とは、以下の操作例のうち、2以上の操作ができる場合に該当としているので、Web閲覧と電子メールができればよいので、ほぼ全員が操作できることになるのは当然でしょう。
「コンピュータを使って教科指導等ができる教員」とは、教育用ソフトウェア、インターネット等を使用してコンピュータを活用したり、大型教材提示装置(プロジェクタ等)によってコンピュータ画面上のネットワーク提供型コンテンツや電子教材などを提示しながら授業等ができる場合に該当します。ですから、自らコンテンツを作成できない教員も含まれます。
A1~E2は、自己チェックリストです。メディア教育開発センター『教員のICT活用指導力のチェックリスト(高等学校版)』に詳細の説明があります。
情報Aはパソコンやインターネットで日常的に利用していることが多いので,生徒も学びやすいし,教員も自信があるからでしょうか,ほとんどすべての学校が開講しています。それに対して,情報Bや情報Cの開講率はかなり低い状態です(図表)。
その理由の一つに、情報教科を正課にするための臨時措置として,2003年3月までに研修を行うだけで情報の免許を与えたことがあります。短期間の研修では、幅の広い情報教科全体を十分に研修することはできません。
2002年度からは大学で情報の教職課程を受けた学生が出てきましたが、少子化の影響で新規教員の募集が少ないこと,複数の教科免許を持つほうが有利になりやすいことなどから,課程修了者が教員となるのが厳しい状況になっています。
情報が正課になった頃は,未だパソコンに触ったことがない生徒が受講することもあると考えて,情報Aの指導内容を決定したのでしょうが,現在では状況が変ってきました。いまさら高校で習うことでもないと感じる生徒が増大していると思われます。また、パソコンの操作ができることは重要なことなのですが、それが中心になってしまい、「科学的な理解」(プログラミングやモデル化の基本)や「情報社会の進展」(社会や企業での情報化動向など)の分野が不十分だとの指摘もあります。
情報Aの授業を工夫するとか,情報B・情報Cの開講をするなどの対策が望まれます。
2009年の高等学校指導要領の改正により、主に情報Cの内容を「社会と情報」、情報Bを「情報の科学」とし、情報Aの内容は分割して両科目で吸収することになりました。2013年の入学生から適用されます。
英数国などの教科と比較して、情報教科は相対的に軽視されていることが多いようです。
2006年度では,多数の高校で情報教科を1科目も開講していない,あるいは開講していても数学などの他の授業をしていることが発覚しました。これでは卒業資格が得られないので社会問題にもなりました。
少数の大学・学部を除けば大学入試科目に入っていないのが理由ですが,その背後には情報教育の重要性が十分に認識されていないことにあります。