4つの類型
大学で情報教育を行う目的は多様ですが、それを次の4類型にまとめました。この類型は説明の都合で私が仮につけたもので、情報教育の体系ではありません(図示)。
参考資料の情報収集、データの分析、レポート作成、研究発表、意見交換などにパソコンやインターネットを使いこなすことが重要なのはいうまでもありません。就職活動にも不可欠です。
パソコンやインターネット操作技術の基本は、高校で情報教科が正課になっただけでなく、日常生活ですでに習得しています。しかし、これらの技能は、大学での学習や研究に不可欠なため、さらに高度な技能が求められます。そのため、ほとんどの大学で「コンピュータ演習」のような科目を開講しています。
また、大学側では、学生へのサービス、学生確保対策としての広報活動、遠隔教育などの試みなどのためにITの活用が重要な課題になっています(図表)。
メディア教育開発センター(2009年に廃止、放送大学のICT活用・遠隔教育センターに移管)「全国高等教育機関におけるIT利用実態調査」は、大学でのIT利用状況と、IT利用での阻害要因を、次のように示しています。
ITを活用した授業では、プレゼンテーションソフト(パワーポイントなど)を用いたり、録画ビデオを用いたりする講義、学生にWebで資料を収集させる授業などが広く行われています。
多くの大学がシラバスや授業概要をWebに公開していますし、授業の教材一式をWebページで公開するOCW(オープンコースウェア)(例示)も広まっています。放送大学の利用による単位認定も広がっています。
学生へのサービスとしては、電子メールや電子掲示板による休講通知や事務連絡、宿題の提出、質問回答などが広く行われています。図書資料のデータベース化も普及してきました。
IT利用での阻害要因としては、機器設備の導入や維持の費用がかかることと、教員の負荷が増大することが指摘されています。また、まだ教員全体のリテラシーが低く、しかも、支援スタッフが不足しているため、特定の者に負担がかかる問題も指摘されています。
それに対して、「授業で利用する必要がない」や「利用による教育効果がない」という意見は少なく、IT利用の効果は広く認められているといえましょう。
ここでの(超)高度IT技術者とは、OSやプログラミング言語の開発、新しい概念の通信端末の開発など、IT分野にイノベーションをもたらすような技術者や研究者とします。未踏人材ともいいます。
ソフトウェアの輸出入では、日本はあまりにも輸入超過です。(参照:「ソフトウェアの輸入超過とオフショア開発」)。
ITの発展、国家経済の観点から最も重要なのはこのような技術者ですが、絶対数が少ないのでここでは対象外にします。
類型Cは、主に情報サービス業などに所属するベンダ技術者を育成するための教育です。次節以降の主な対象が類型Cです。
企業では大部分の業務がITを利用しています。しかも、実際に企業の収益改善に影響するのは、ハードウェアやソフトウェアではなく、どのような分野にどのようにITを活用するかなのです。そして、その巧拙が企業の存亡にまで影響する時代になってきたのです。そのため、経営者や利用部門(営業部や経理部などIT以外の部門)の人たちがIT利用に関する知識を持つことが必要です。類型Dは、このような人を対象としたものです。
具体的には、経営戦略とIT戦略の関係、IT戦略から販売システムや会計システムなどの個別システムへの展開、IT投資の費用対効果、システム開発でのニーズの整理、プロジェクト管理のような知識が求められます。
なお、ユーザ企業でのIT部員は、社内においては提供側であり、ベンダへの発注者という面では利用者側ですので、類型Cと類型Dの両方の対象になります。