スタートページ主張・講演雑誌投稿等

積極的なインフラ投資を基盤に
好スパイラル投資を加速する成功企業

紙面写真

日本経済新聞2003年9月26日夕刊の広告欄「インターネット情報スクエア特集」でのインタービュー記事です。


経営者が情報化投資の費用対効果を考える場合、情報化投資の特殊性を理解することが重要である。企業成熟度の高い成功事例や、経営と情報の理念などによる「かくあるべし」的な規範論では、現実とのギャップに違和感を持つのも事実である。そこで、民間企業の情報システムに関して、提供側、利用側、経営者としての立場での豊富な経験が有り、また研究者として、企業の情報化を外部から考察されてきた木暮仁氏に、情報化投資についての提言を頂いた。


木暮 情報化投資の採算性の把握は、生産設備や店舗展開と比較して分かりにくい面があり、情報化投資の特殊性を理解することが重要で、経営者の基本的リテラシーでもあります。
情報化投資は、インフラ投資と個別システム投資に区別することができます。インフラ投資には、パソコンやネットワーク等の整備だけではなく、データベースの整備、システム開発方法論の確立、情報リテラシーの涵養も含まれます。個別システムは、販売システムや会計システムといった、目的が明確な情報システムです。

インフラが整備されていると、その上に載る個別システムの構築も、比較的低コストで可能ですし、経営者や利用部門も情報化の方法に慣れているので、成功する確率も高くなります。その結果収益が向上し、さらにインフラが強化でき、その後の個別システムはさらに低コストで構築でき、成功するといった好スパイラルの状況になっています。
一方、インフラ投資を怠った企業では、個別システム構築に、インフラ不足を補う費用が加算され、経営者や利用部門の関心も低く、提案が却下されたり、承認されても成功しないケースがあります。個別システムも機能せず、インフラも整備できないという悪スパイラル状況になります。

悪スパイラルを好スパイラルに好転させることが必要で、そのきっかけがインフラ投資です。ただし、インフラ投資は不況時には困難で、景気が上昇基調にある時機をとらえ、好スパイラルへの舵取りを行うことが必要です。

木暮 私は必ずしも情報化が経営に役立つとは思いません。あくまでも利益を上げたり、業務を改革するのは、そのためのプロジェクトであり、情報化はそのプロジェクトを効果的に実現するための手段の一つであると考えます。プロジェクトの実現にはITも必要ですが、それにもまして非情報系の活動も必要です。
 例えば、CS(顧客満足度)志向マーケティングのために、顧客動向を把握することを考えましょう。それには多様なアプローチがあるはずですが、とかくカードシステムのような情報システムを構築することが唯一の手段となりがちです。また、カードシステムを構築するにも、会員の拡大や取扱店の確保等、非情報系活動がプロジェクトの成否に大きくかかわってきます。

木暮 情報システム構築では、経営戦略の実現を常に意識しなければなりません。例えばERPパッケージによる情報システムの構築では、あくまでもBPR(業務改革)の実現が目的のはずです。
 それなのに、いつのまにかERPパッケージによる情報システム構築自体が目的になり、システムは完成しても、肝心の業務改革が立ち遅れているケースが多くあります。このような、手段が目的と混同されやすいことも、情報システム構築での落とし穴と言えるでしょう。


横浜商科大学 新島学園女子短期大学 非常勤講師
  木暮 仁 氏

(プロフィール)
こぐれ・ひとし/1962年東京工業大学機械工学科卒業。大協石油(現コスモ石油)入社、87年情報子会社コスモコンピュータセンター発足とともに同社取締役教育部長として就任、その後、システム部長、技術部長、技術調査部長を歴任、94年常務取締役。98年東京経営短期大学経営情報学科教授。2003年3月同大学退職。2003年4月より現職。経営と情報に関する著書・講演多数。技術士(情報部門)、中小企業診断士、システム監査技術者、ITコーディネータ。