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「月刊LASDEC」2005年3月号掲載

内山悟志著『名前だけのITコンサルなんていらない』

翔泳社,2004年,ISBN4-7981-0644-5, \1580+税


書名から,コンサルタントの選び方やコンサルタント批判のように思われるかもしれない。ところが,副題「生き残るSEが技術以外に持つべきスキル講座」とあるように,SE(システムエンジニア)にコンサルタントとしてのスキルを身につけさせることを目的としている。
 著者は,有名なITアナリストであり,経営における情報の活用についての研究者でもある。企業のために適切なコンサルタントを評価するサービスもしている。このようなテーマを語る第一人者である。

内容は11章からなっている。第1章は全体の要約であるが,著者は「企業のIT部門のスタッフは,企業でのコンサルタントであるべきだ」と主張する。ここでの「企業」は「地方公共団体」としても同様であろう。SEは,情報システムを構築するだけが任務ではなく,企業経営の観点から問題の解決をすることが求められている。それには,コンサルタントとしてのスキルが必要になる。
 第2章〜第10章は,SEが持つべきコンサルタントとしてのスキルの解説である。コミュニケーション・スキル(インタビュー,プレゼンテーション,ドキュメンテーション),プロジェクト管理スキル,コンサルティング・テクニック(調査/分析手法,問題のとらえ方と解決ステップ,問題解決手法,事象の構造化テクニック)など,話し方から問題の整理技術までを網羅する。IT分野を対象にしているが,それに限定されたものではない。IT特有の概念や用語も気にしないで読める。
 最後の11章は,「コンサルタントの仕事術」として,他人の知恵を借りるとか社外の人脈作りなど,さらなる成長を目指してのノウハウである。著者の実践から得られたものであり説得性が高い。昨年12月号で著名なコンサルタントであるワインバークの著書を紹介したが,視点や表現は異なるものの,同じような事項を重視していることが読取れて興味深い。
 このように,書名は「ITコンサル」であるが,ITに限定されたものではない。経営と密着した分野であれば一般に通じるものである。

地方公共団体職員が本書を読むには2つの視点があると思う。その一つは,自分のスキルアップである。地方公共団体職員は,日常業務でも企業への指導や相談などコンサルタント的な業務が多い。「名前だけのITコンサルなんていらない」といわれないように,本書が示すスキルを高めることが必要である。
 他の視点は,外部コンサルタントの評価に役立てることである。地方公共団体は多様な計画立案に外部のコンサルタントを利用することが多くなってきた。とかく著名なコンサルタント会社に頼る傾向があるが,コンサルティング業務は「人」によるバラツキが大きい。個人としてのコンサルタントのスキルを評価するのに,本書の示すスキルをどの程度持っているかを尺度にすることができる。「名前だけのITコンサルなんていらない」といえるようになることが必要である。