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「月刊LASDEC」2005年2月号掲載

外川洋子編『トップリーダーたちの経営構想力』

学文社,2004年,ISBN4-7620-1321-8,\1500+税


今回は,ITから離れて経営者のリーダーシップを取り上げた。読者のなかには経営者論やリーダーシップ論には食傷気味だという人もあろう。でも,本書はちょっと違う。必ずしも有名企業ではないが,「知る人ぞ知る」とでもいうべき16人の経営者たちが,セゾン総合研究所の機関誌『生活起点』に寄稿したものを編者がまとめたものである。
 編者は「良い企業(グッドカンパニー)とは何だろうか」という問題意識で編集したという。ユニークな経営で実績を上げている経営者が,その経営哲学を自ら率直に語っている内容は,目からうろこが落ちるというか,感動的ですらある。いくつかの例をあげる。

伊那食品工業寒天のトップメーカーであり,「かんてんぱぱ」のホームページでも有名である。社是は「「いい会社をつくりましょう」であり,「いい会社」とは,「単に経営上の数字が良いというだけでなく,会社をとりまく総ての人々が、日常会話の中で「いい会社だね」と言ってくださるような会社の事です。さらに、社員自身が会社に所属する幸せをかみしめられるような会社をいいます」とある。塚越寛社長は,「ビジネスのため」という資本主義倫理観に疑問を投げ,「成長の数値目標を掲げることはしない」とか「年功序列の原則を崩さない」などという。「モラールが高まればモラルは上がる」「一芸に秀でた研究開発企業をめざす」ことにより「働く人が幸せになる企業」の実現をしている。

セイコーマートは北海道を中心として,独自のポジションを持つたコンビニエンスストアのフランチャイズチェーンである。1971年に日本で最初の本格的コンビニエンスストアを北海道に誕生させ,現在では店舗数1000店を超えるコンビニエンスストアチェーンに成長した。同社の赤尾昭彦副社長は,とかくコンビニエンス業界では,セブンイレブンのビジネスモデルが業界スタンダードとされていることに対して,「地産地消型ネットワーク化」を提唱する。ローカルな流通業が地域で生き続けるには,中央集権化・画一化の仕組みではなく,ローカルな仕組みが必要である。地場で供給できるものはできるだけ地場で調達し,生産と流通,販売を一貫化することが重要だと主張する。

彼らの多くはかって何らかの形で苦境に直面した。壁にぶち当たり乗り越えて現在の成功を勝ち得たのである。その苦境の状況や脱却手段はそれぞれ異なるので,その経営哲学も多様である。しかし,共通点も多い。状況に対してチャレンジをし,クリエイティブな方法で対処してきたこと,しかも現状に満足せず常にクリエイティブであろうとしている点である。これが21世紀型の「良い企業」であると編者は結論している。
 行政においては,地方自治の強化がいわれている。それは地方公共団体にいっそうの経営責任を求めるものである。また職員は,マスとしての地方公務員ではなく,地域に密着した生活人である。地域生活人としての職員が幸せにする職場を創り,地域ニーズに合致した行政経営を行うという観点からも,一読を薦めたい。