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「月刊LASDEC」2005年1月号掲載

茶谷達雄著『自治体情報化の開拓者たち』

自治日報社,2004年,ISBN4-915211-64-9, \1890E


本誌読者は著者をご存じであろう。東京都での情報化を推進したリーダーであり,地方公共団体の情報化推進・業務革新の指導者である。現在では都市情報システム研究所所長として,多数の公的審議会の会長として政策立案に貢献し,多くの地方公共団体で情報化のアドバイスをするなど,広い分野で活躍されている。
 本書は,本誌の連載「情報化社会を拓く」の第2弾として,2002年9月号から2004年3月号まで連載した「自治体情報化の開拓者たち」シリーズを再構成したものである。このシリーズを愛読された読者には,あえて書評を試みる必要はないと思うが,単行本としてまとめて読むと,また新しい発見をするものである。また,本誌の最近の読者もいると思うので,本書の内容と特徴について紹介する。

本書は,18の地方公共団体を対象に,それらの情報化の状況や推進者の努力をインタビューしたものである。しかし,通常の紹介記事ではない。題名のように,困難なプロジェクトに挑戦した開拓者に関する証言であり,この分野に従事する人への応援歌である。評者は,本誌でのシリーズを読みながら,NHKの番組「プロジェクトX」を連想した。

著者は,プロジェクトの苦難とそれを克服した喜びを十分に経験した,この分野の大先達である。本書の巻末「開拓者たちへのエピローグ」では,著者の東京都での情報化推進の経緯を述べているが,「夢を追い,夢に溺れず,苦闘のなかから情報化の機をとらえて道を拓」いた,開拓者としての著者の苦難と喜びの記録でもある。
 本書では,先達の視点から,それぞれの分野で挑戦している開拓者を暖かい眼で観察し,開拓者の想いに共感し,それを生々しく伝えている。また,対象とした地方公共団体は県・大都市から小さい町村まで及んでいるが,その地域の文化や環境の特徴を的確に示している。そして,これらのプロジェクトが地域の状況を的確にとらえ,開拓者たちが環境を巧みに活用して推進したことを述べている。これらのプロジェクトは,単に情報化の実現にとどまるのでなく,それを通して行政の改革,さらには地域社会との共感へとつながっていることを重視している。
 かなり高邁な内容であるのに,読みやすい筆致で,なかには「五色町の焼き鳥行政」とか「浜松の”やらまいか精神”」など,たくまざるユーモアのある表現で魅了する。著者の人柄がしのばれる文章になっている。

評者は,地方公共団体での経験はないが,長年民間企業での情報化に従事してきた。その間,困難なプロジェクトを克服してきた人たちを多く見てきた。地方公共団体と民間企業では環境の違いはあるものの,開拓者には共通した想いがあることを実感した。これは情報化だけでなく,多くの挑戦的改革に共通することである。
 繰り返しになるが,本書は困難に挑戦する開拓者への応援歌である。地方公共団体の職員はもとより,他の組織においても,多様な分野で挑戦している人に本書を推薦する。