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「月刊LASDEC」2004年10月号掲載

廉 宗淳著『電子政府実現へのシナリオ』

時事通信社,2004年,ISBN4-7887-9452-8,1,680円+税


「2005年までに世界最先端のIT国家になる」ことを目指す電子政府構想は,その仕上げの時期に近づいてきた。しかし,他国と比較したとき,急速に普及してきたインターネットの活用の分野でも,韓国との遅れが指摘されているし,2003年11月の国連が発表した電子政府世界ランキングでは,日本は総合18位であり,韓国(13位)にかなり差がついている。電子政府の重要分野の一つに電子調達システムがあるが,韓国政府電子調達システム(GePS)は2003年には国連の「公共サービス賞」を受賞している。
 このように,社会体制や文化が似ているお隣りの国が電子政府の先進国になっている。韓国の電子政府の状況,その発展の原動力を学習することは,わが国の電子政府の推進に重要なことである。

本書は,韓国の情報化政策を分析している。行政業務革新事業(G4C:行政業務の統合窓口),四大保険情報連携システム,教育行政情報システム(NEIS),国家財政情報システム,公務員人事政策支援システム(PPSS),総合国税サービス(HTS),オンライン申請処理システム,電子調達システム(GePS)などの政策を紹介している。そして,新しい政策基本方針である「U−KOREA基本計画」を付章に納め,電子自治体の先進事例としてはソウル特別市港南区の事例がある。
 しかし,本書は単なる表面的な電子政府機能の紹介が目的ではない。むしろ国家レベルでのITガバナンスとしての電子政策をテーマにして,韓国がIT先進国になった理由を検討し,それを日本の電子政府推進への提案としているのが本書の特徴である。

著者が繰り返し強調しているのは,トップの強力なリーダーシップと社会全体の対応である。 ・韓国は1996年の「IMF危機」で経済が崩壊したが,それを立て直すために極端ともいえるIT推進政策を打ち出し,IT国家として発展させただけでなく,急速に経済を立ち直らせた。

日本と韓国とは,多くの面で共通した環境を持っているので,参考事例として最適である。しかも本書の記述が具体的なので,現実的な検討がしやすい。インフラ整備から実際の効果実現に差し掛かっている現時点で,本書は多くのサゼスションに富んだ図書であり,中央官庁だけでなく地方公共団体の職員,さらには住民にもお薦めしたい図書である。