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「月刊LASDEC」2004年9月号掲載

ポール・R・ニーブン著,松原恭司郎訳
『ステップ・バイ・ステップ バランス・スコアカード』

中央経済社,2004年,ISBN4-502-22020-5  3,800円+税


バランス・スコアカードに関する図書は,そろそろ30冊に達するであろうが,ここで真打の一つとでもいうべき本書が翻訳された。
 バランス・スコアカード(以下BSC)は,当初は組織の実績評価のツールとして発表されたが,その後,経営戦略策定や実現のツールへと発展した。IT投資の評価やナレッジ・マネジメントの展開にも効果的だといわれるなど,魔法のランプのようにもいわれている。民間企業だけでなく,ノースカロライナのシャーロット市や札幌市など地方公共団体での適用例も報告されるようになってきた。反面,実際の普及では,「検討したが導入しなかった」とか「期待した効果が実現できていない」という統計もある。
 本書は,BSCの導入や展開に際してハードルになる課題をどう解決するかを示したものである。「ステップ・バイ・ステップ」とは,BSC導入・展開の各フェーズにおいて,ハードルになる課題をどう解決するか,どう高度化するかという意味である。

著者のニーブンは,コンサルタントとして数多いBSC活用の指導にあたっている。BSCはキャプランとノートンにより提唱されたが,キャプランはニーブンを「どうすれば組織がBSCをうまく使えるかについて豊富な知識に基づいて語り,記述することのできる数少ない人物の一人」であると評価し,ノーランは,ニーブンが指導したカナダのノバスコシア電力会社での成功に対し,自ら主管するBSC・コラボラティブ社のBSC殿堂賞を与えている。訳者の松原についてはいまさらいうまでもあるまい。日本におけるBSC推進の代表的人物である。

本書は,全14章のうち第13章を除いた(理由は後述)13章を,5部にまとめている。第1部「業績評価とBSC入門」では,BSCの解説であり,多様な分野でBSCが活用されることを述べ,BSCは不朽のマネジメントツールであるという。第2部「BSC開発のステップ・バイ・ステップ」では,明確な目標を作成すること,KPI(主要業績評価尺度)の設定が重要であることを述べている。第3部「BSCを組織のマネジメント・システムに組み込む」では,上位階層から下位階層への展開(カスケイドといっている)での留意事項,BSCと報酬制度について述べている。第4部「BSC成功の維持」では,BSCソフトについて言及しているがパッケージより自作するべきだといっているのが注目される。そして第5部「BSC成功のための最終的考察」では,まとめとしてBSC導入での課題トップ10を掲げているが,その上位課題は,エクゼクティブによるスポンサーシップの欠如,BSCに関する教育とトレーニングの欠如,戦略の欠如の順になっている。いずれも人に関する課題であることが興味深い。
 訳者が原書から除外した第13章は,それが「公共とNPOにおけるBSC」であり残念であるが,著者がその後 "Balanced Scorecard Step-by-step for Government and Nonprofit agencies" を出版したからだという。これの翻訳が待たれる。