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「月刊LASDEC」2004年8月号掲載

齋藤 孝著『あのプロジェクト成功の法則』

中経出版,2004年,ISBN4-8061-1902-4,\1,200


著者はベストセラー『声に出して読みたい日本語』の著者である。明治大学文学部教授であり,ビジネス界では『会議革命』や『質問力』など,コミュニケーションに関する専門家として有名である。

題名からは,最近話題になっているPMBOKなどのプロジェクト・マネジメント関連のように早とちりしかねないが,本書は関係者にプロジェクトの企画提案を認めさせ,実現に積極的な意識を持たせるための方法を取り扱った本である。すなわちプロジェクト成功のためのアイデアを取扱っており,コミュニケーションや説得のノウハウを示したものである(PMBOKでも「コミュニケーション・マネジメント」を知識エリアの一つにしている)。

このようなテーマの図書は多いが,本書は次の特徴を持っている。
 「宅急便」「スターウォーズ」「新幹線」「ディズニーランド」という読者がよく知っている4つのプロジェクト例を題材にしている。読者は,それらの裏側話を知るという興味をそそられながら読んでしまう。
 副題が「ビジネス問題集」であるように,本文のうちに「あなたはどうする?」と質問を投げつける。その答として,これらのプロジェクトのリーダーがどのような工夫をして成功したかを具体的に示して,それから得られる教訓をポイントとして読者の知識にしている。

ストーリの展開や表現が非常にわかりやすい。「プロジェクト」に関する知識や関心がなくても,著者のペースに乗せられて読めるし,興味本位で考えながら読むうちに,多くのノウハウを知ることができる。しかも,このような形で得た知識は,教科書的な図書で得た知識よりも,具体的に記憶に残るであろう。

本書からいくつかの例を紹介する。答やそれからの教訓は省略するが,あなたは次の質問(歴史から答は知っていても)に興味を持たないでいられるだろうか?

すなわち,本書そのものが説得のアイデアを示したものだといえる(本書を「声を出して読む」のが適切かどうかは不明だが)。

本書では,日本人はオカミに逆らえない体質であり,規制の厳しい環境のなかで,ヤマト運輸や鉄道技術研究所が,当時の運輸省からどのようにして承認を取り付けたかなど,行政の硬直性を批判した表現があちこちで出てくる。最近はかなり改善されてはきたが,その内部にいる地方公共団体職員としては,上司や関連部署との関係との共通点を感じるかもしれない。
 いずれにせよ,本書は手軽に読めて得ることが多い図書である。