論文・雑誌投稿一覧月刊LASDEC書評

「月刊LASDEC」2004年5月号掲載

市町村自治研究会編,『電子自治体への取組み − 地方自治体IT施策 事例集』

日本加除出版,2003年,ISBN4-8178-2345-3


e-Japanに基づく電子自治体への取組みも終盤にさしかかり,既にネットワークなどの基盤は整備され,電子申請もかなりの分野で実現されてきた。そして,所期の計画実施だけでなく,さらなる住民サービス向上への継続的な取組みに向けての検討が行われる段階になってきた。
 本誌でも多くの事例が紹介されてきた。本書は,市町村自治研究会の機関誌『住民行政の窓』で紹介した事例から12例を選んで紹介している。
 また,平成15年度には,電子政府・電子自治体に関する指針やガイドラインなどが多く策定された。本書ではそのうち「電子政府構築計画」,「電子自治体推進指針」,「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を収録している。
 すなわち,本書は平成15年度における電子自治体の状況をまとめたものだといえる。

12事例は,県1例,市8例,村2例であり,住民サービスを中心に広い分野から選んでいる。事例には有名な事例もあるし,あまり知られていない事例もあるが,すべて地域の特徴に合致した独自の取組工夫をしている。しかし,その工夫は特殊なものではなく,他の地方公共団体でも応用しやすいベストプラクティスな事例になっている。

以下は評者の感想である。
 既に先行した地方公共団体では,実施施策の効果も測定できる状況になってきた。ここでの事例をみると,実施開始からほぼ3年目で利用状況が安定するようである。それには,事前の適切な計画があるとともに,この間の関係者の努力が重要なことが読み取れる。  当然のことではあるが,成功事例は公表されるが失敗事例は公表されない。日経コンピュータ誌の調査によれば,民間企業では費用・納期・機能が計画内で実現できた情報プロジェクトは3割以下だというが,電子自治体でも失敗することは多くあろう。
 その失敗例を積極的に公表することは,納税者への説明責任としても重要だし,地方公共団体は対象業務が類似しているので他山の石として重要である。そもそも情報公開は電子自治体の目的の一つでもある。逆説的な表現ではあるが,多くの失敗例が公表されるようになったときが,電子自治体が健全な状態になったときだといえよう。