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「月刊LASDEC」2003年7月号掲載

日経コンピュータ編
『動かないコンピュータ
−情報システムに見る失敗の研究−』

日経BP 2002年 ISDN4-8222-0784-6 \1500


「動かないコンピュータ」とは,情報システムに関する失敗やトラブルのことである(本書「はじめに」より)。最近では都市銀行合併に伴う情報システムのトラブルが問題になったが,これは氷山の一角である。米Standish社の調査(1994)によれば,情報システムでの成功率はわずか16.2%で,31.1%がキャンセルされ,52.7%が不成功であり,そのキャンセルおよび不成功の平均では予算超過189%,納期遅延222%,機能不足53%であったという。

情報システムの対象業務が社内から社外へと広がり,情報システムはますます巨大化・複雑化している。競争激化により短期開発が要求される。技術変化が激しく不安定な環境で使わざるをえない。そのためにトラブルの発生原因は多様化しているし,発生頻度も多くなる。しかも,情報システムが社会的に重要な分野に利用されており,トラブルが発生すると企業内だけでなく社会的にも大きな被害をもたらす。
 現在,地方公共団体の情報化は急速に進んでいる。そのシステムの多くは,インターネットや複雑なデータベースを利用した複雑なシステムであり,住民や企業に密接に関連したシステムである。しかも,そのシステムの費用は,不況にあえぐなかからの税金で賄われるのである。「動かないコンピュータ」を発生することが許されないどころか,発生する可能性を事前に防止する責任が問われよう。

「動くコンピュータ」を保証するためには,失敗事例を研究して,その原因を事前に回避することが効果的である。ところが,成功例が喧伝されるのに反して失敗例が外部に公表されることは稀である。
 『日経コンピュータ』誌は,情報関連雑誌で最大の発行部数を誇る隔週誌であるが,1981年の創刊当時から「動かないコンピュータ」という連載記事でトラブルの発生原因を追及してきた。この連載は一時中断されたが,現在また復活している。本書は,それら連載事例の主なものを再編集し,新規の事例も加えた46例について,現象別・原因別に整理したものである。地方公共団体での事例は1例だけであるが,金融機関や輸送機関など公共的な企業での例が豊富であり参考になろう。
 トラブルの原因は多様で複雑であるが,ユーザ企業が情報システム戦略に関して十分な知識や体制を整えないままにシステム導入に走ったこと,ユーザとベンダとの間での契約があいまいなこと,コミュニケーションが円滑でなかったことが真の原因であることが多い。すなわち,情報化に関するガバナンスが不在あるいは不明確なことが原因で発生したトラブルが多いのである。

前述のように,公表される失敗例は少ない。本書はそれを多く集めて整理した貴重な情報源である。これらを他山の石として研究することをお勧めする。
 また,社内組織体制やプロジェクト管理に起因するトラブルも多いが,『システム障害はなぜ起きたか〜みずほの教訓』(日経BP社,2002)がそれを生々しく伝えている。本書と併読することをお勧めする。