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「月刊LASDEC」2003年5月号掲載

淡路富雄編,(財)社会経済生産性本部自治体マネジメントセンター監修
『「行政経営品質」とか何か』

生産性出版 2001年 ISBN4-8201-1699-1 1,700円


経営品質とは,経営活動の目標設定,実施および成果に関する成熟度のことである。経営組織自体が自ら改善の目標を定め,自己評価し,継続的な改善努力を進める経営改革である。
 米国では1978年に,優れた経営品質を公表して表彰するマルコム・ボトルリッジ国家品質賞(以下「MB賞」という)を制定し,その後の経済発展に大きな影響を与えた。わが国でも(財)社会経済生産性本部がMB賞を参考にして1995年に日本経営品質賞を制定した。当初は日本経営品質賞の対象は企業だけであったが,2001年度からその枠が取り払われ,行政機関や医療機関も表彰対象にすることが検討されている。

本書の監訳者である自治体マネジメントセンターは行政の経営品質向上運動を進めている機関であり,編者は同センターの主席コンサルタントで,日本経営品質賞の審査員も務め,自治体行政改革の推進を担当している。本書は,「行政経営品質」を検討するのに最適な図書である。
 第1章では,行政とは住民を顧客とするサービス産業であると位置づけ,行政サービスを抜本的に改革するには行政経営品質活動が重要であることを,先進自治体や米国の事例をあげて指摘する。
 第2章では,行政経営品質の概念を示す。行政経営品質の評価基準は,3つの概念と8つのコンセプトにより住民本位の行政経営を実現する。そして,その結果を評価するのに8つのカテゴリーを示している。
 第3章では,この行政経営品質の8つのカテゴリーについて,それぞれを構成する具体的な評価基準を掲げ解説している。
 第4章では,行政経営品質の推進によりどのように行政改革をするのかの手順を示す。特に,住民本位の行政モデルを構築すること,アセスメント体制を確立すること,アセスメントの結果報告を明確にすることなどが重要であることを示す。

第5章は,先進自治体の事例紹介である。岩手県での行政経営品質の外部診断を行った。第2章と第3章で示した行政経営品質の評価基準は,それまでの日本経営品質賞の審査基準をもとに自治体マネジメントセンターが岩手県と一緒に作成したものがベースになっている。その他,三重県「エクセレント・ガバナンス」,高知県「行政経営品質向上プログラム」,三鷹市「21世紀型自治体」,滝沢村「村民本位の行政モデル構築」の事例を紹介している。

以下は書評子の感想である。
 民間企業では1990年代中頃にビジネスプロセス・リエンジニアリングの概念が普及した。それでは,顧客満足の向上のために業務のしかたを抜本的に見直すことが重要だとされ,情報技術はそれを実現するための手段だとされた。本書で示された行政経営品質を実現するためにも,情報技術の活用が効果的であることは間違いない。行政では現在,電子自治体が推進されているが,ややもすると情報技術の導入に矮小化されがちであるが,この行政経営品質の向上が真の目標であることを見失ってはならないと思う。