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「月刊LASDEC」2003年3月号掲載

松島桂樹著
『戦略的IT投資マネジメント−情報システム投資の経済性評価』

白桃書房 1999年 ISBN4-561-23321-0 \2200


一般的に投資をするにはその費用対効果を明確にすることが必要である。特に情報化投資は,その絶対額も投資全体に占める割合も増加しているのにもかかわらず,経営者にとっては情報化投資は生産設備や店舗などの投資と異なり,わかりにくい側面がある。しかし,IT革命といわれるように,情報化投資が企業の存亡にまで影響するとなると,わからないままですますことはできない。情報化投資の費用対効果の把握する方法を理解することは経営者の基本的な知識であるともいえる。
 著者は,日本IBM社にて関連システムの研究・開発に従事し,その後大学でABM(製造業における活動基準管理)やSCM(サプライチェーン・マネジメント)などの研究をしている。本書も理論と実務の両面から考察した好著である。

第1部では,経済性評価の一般的な方法の解説をしている。次に第2部では,情報システムの発展が手作業の機械化から意思決定支援,企業間ネットワークによる企業間連携,業務改革のインフラへと経営戦略に深く関係するようになるとともに,その効果が定量的効果から次第に定性的・戦略的なものになってきたことを示す。

本書で最も注目するべき部分は第3部である。情報化投資が一般的な投資と比較して経済性評価が困難な理由を示して,それらを考慮した評価方法を検討している。費用対効果を明確にするには効果を貨幣価値で評価することが望まれるが,情報化投資では定性的効果や戦略的効果が大きく,それを計量化することが困難である。それへの対処として,期待される重点項目を列挙してそれぞれに主観的な評価点を与える方法がとられるが,客観性の面での限界がある。
 しかも,情報化投資では因果関係が複雑である。各情報システム間には相互作用があり,2つの情報システムの個々の効果は2+2が3になることもあれば5になることもある。また,情報化投資による業務改善が新しい情報化投資を促すなどの因果関係がある。これらを評価するには,因果関係をモデル化して相互関係を把握することが必要である。

そして第4部では,新しいフレームワークの動向を示している。利害関係者間の合意モデルや著者の専門であるABMなどを応用した方法を示す。また,インフラ整備の投資と個別システム開発の投資の評価の違いなども示している。

地方公共団体では電子自治体化の最中にあり,既に多大な情報化投資が既に行われており,さらに大きな投資が計画されている。地方公共団体の情報化投資では,いわゆる縦割り行政での部分最適化の回避,関係者の立場による効果評価の相違,セキュリティやリスクの評価など,情報化投資の費用対効果を把握するのに困難なことが多い。  このように地方公共団体では民間企業とは異なる側面があるにせよ,税金を投資して住民満足を得るための情報化投資であるから,その費用対効果への説明責任は民間企業と同様あるいはそれ以上に求められる。本書は特に地方公共団体を対象にしたものではないが,ここで示した課題の整理や対処方法は地方公共団体にも役立つことが多いと思われる。