論文・雑誌投稿一覧月刊LASDEC書評

「月刊LASDEC」2003年1月号掲載

島田達巳編著
『情報技術を活かす自治体戦略−電子政府に向けて』

ぎょうせい 2002年 ISDN4-324-06602-7 \3238


電子自治体に関する図書は多数出版されているが,本書は,実際に電子自治体の推進に従事している当事者が自ら執筆していることが大きな特色である。
 内容は2部から構成されている。第1部は,電子自治体を実現するための構想・方法・展開について,電子自治体の必要性,自治体の情報化の現状,電子自治体の阻害要因,実現の条件などを,各種資料および独自の「電子自治体アンケート調査」により多角的に分析している。
 電子自治体の実現条件として,情報技術ガバナンスの確立,情報化推進組織の編成,情報技術インフラの確立,BPR(業務改革)の実施,情報技術セキュリティの確立,情報教育・研修,組織文化の変革をあげている。これらは民間企業にもほぼ共通することであるが,その内容やアプローチには自治体特有のものがあり,それについての分析がなされている。

第2部は,13の先進自治体の事例と編著者の総括である。各自治体での情報政策室長(名称はまちまちであるが)など情報化推進責任者自身による報告である。単なる推進状況報告ではなく,どのような「想い」で推進してきたか,どのような創意工夫をしたか,実現での障害をどう解決したかなどが,通常のインタビュー等では得られない生の言葉で記述されている。
 13自治体のアプローチは実に多様であるが,すべてに共通しているのは地域の特色をよく認識していること,顧客である住民の立場で発想していること,情報化とともに自治体内部での発想の転換,業務の改革を行っていることが注目される。すなわち,第1部での実現条件が揃っている。しかし,これらの条件は与えられたものではない。情報化推進をこれらの条件整備とともに行ってきたことに注目する必要がある。

編著者の島田教授は,経営情報分野での権威であると共に,長年中央官庁や地方自治体の行政情報化に関する委員などの活動をされ,特に自治体と民間企業との情報化比較に関心を持たれている。そして,自治体を住民に対して行政情報サービスを行う情報サービス業だととらえ,独自の創意ある情報技術活用により成果志向の自治体経営を行うことが電子自治体の目的なのだと主張されている。本書でのアンケートや自治体報告の結果もそれが適切であることを裏付けている。

島田教授による電子自治体に関する図書に,『自治体の情報システム−民間企業との比較分析』(編著 白桃書房,1989年)や『地方自治体における情報化の研究』(単著 文眞堂,1999年)などがある。前者は10年以上前のものであるが,民間企業の情報活用技術を自治体に移転することの必要性を提唱した時代を先取りするものであり,現在でもそのまま通用する指摘である。後者は電子自治体への取り組みと実現へのアプローチを示したものであり,多くの自治体が同書の示した方向で成功していることが,本書での結果からも理解できる。本書とともに読むことをお薦めする。