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「月刊LASDEC」2002年12月号掲載

上山信一著『日本の行政評価 −総括と展望−』

第一法規出版 2002年 ISBN4-474-01681-5 2000円


行政とは住民満足を目的とした経営である。経営の質を高めるには評価することが重要であり,それを「行政評価」という。日本でも1990年代の中頃から急速に導入されるようになり,2002年には行政評価法が施行されるまでになった。なお,これらの実施においては情報技術の活用が不可欠であることはいうまでもない。

著者は,プリンストン大学院で公共経営学修士を得て,運輸省,外務省からマッキンゼーの共同経営者を経て,現在は米国ジョージタウン大学研究教授,日米の行政機関で各種の経営評価委員を務めている。これまでにも『行政評価の時代』『行政経営の時代』(ともにNTT出版)などにより,行政評価の普及に努めてきた。本書の姉妹書に『行政の経営改革』(第一法規出版,2002年)があり,Webサイト「行政経営フォーラム」(http://www.pm-forum.org/)を主宰している。

本書は,現在は行政評価の実践段階であるとして,実践方法を理論的かつ具体的に示したものであり,次の独立した8章からなっている。「第1章 行政評価とガバナンス改革」「第2章 再考:日本の行政評価−本格的な実践と理論化のために−」「第3章 自治体行政評価のバージョンアップ−事務事業評価から戦略計画へ−」「第4章 行政評価と予算制度改革−成果ベース予算(PB)の仕組み−」「第5章 住民参加の行政評価−政策マーケティングの考え方−」「第6章 自治体の行政経営格付け−米国50州の分析事例−」「第7章 中央省庁の政策評価制度−国土交通賞の事例をもとに−」「第8章 特殊法人と行政評価」

第2章と第3章について,著者の主張を要約する。
 ややもすると行政評価を導入するのにあたり,自己点検活動と混同すると目的が矮小化する危険,行政は執行部門であるのに政策評価と混同すると政策立案を行政に任せる危険,ことさらに実施上の困難を理由にして実施に消極的になるなどの危険が発生しがちである。それを回避するためには,まずパイロットプロジェクトから着手すること,情報公開を先行させること,手法や指標の使い分けをすることなど7つの勘所を示している。
 行政評価にはその成熟度により,レベル1(有効性や効率性の実態を数値的に把握する),レベル2(効率やサービス水準を民間と比較してベンチマーキングする),レベル3(レベル1を目的管理へと発展させる),レベル4(レベル2を戦略計画や業績測定に結びつける)の4段階がある。当初は低いレベルから着手して,より高度なレベルへとバージョンアップさせることが肝要である。

第4章の(PB)とは,Performance Based Program Budgetingの略であり,プログラム(戦略)とパフォーマンス(成果)をベースとした予算作成と実績評価のシステムである。米国ではこのような管理手法は以前からあったのであるが,近年の成果志向・顧客志向の行政経営や行政評価の浸透により急速に実用化されてきた。本書では,その理論と意義,アリゾナ州での適用事例,導入での留意点などを示している。