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「月刊LASDEC」2002年11月号掲載

中地 中著『営業部門のためのデータウェアハウス』

日刊工業新聞社 2002年 ISBN4-526-04909-3 \2200


民間企業では以前から経営戦略と情報戦略の統合化が重要課題とされてきた。今回はあえて民間企業の営業部門におけるデータウェアハウスに関する図書を取り上げたが、本書は民間企業がどのように情報システムを理解し活用しているかを的確に示しており、自治体情報化のガイドに適切だと思うからである。また本書では営業とは顧客満足を実現することだという思想に立脚してり、自治体にも通用する考え方である。

本書は、著者が常務取締役をしているピップトウキョウ(株)(以下P社という)において、著者が指導して実現したデータウェアハウスを事例にして、データウェアハウスの目的、構築の実際、その効果などを解説したものである。

P社では、営業支援にデータウェアハウスを駆使して、企業収益に多大の貢献をしただけでなく業務革新を実現した。このシステムは、日経BP社の情報システム大賞グランプリなど多くの受賞をしており、情報活用の代表的な成功例である。
 P社のデータウェアハウス導入で特に重視するべきことは、経営方針の再確認や営業活動のありかたまで遡って検討したことである。顧客満足、利益増加、社内活動の充実、サービスコンセプトなどを抜本的に改革するためには、営業ビジネスプロセスを再構築することが必要であり、それにはデータの多角的分析が必要であることを確認して、その実現にはデータウェアハウスが効果的であるというアプローチをしたのである。

導入検討に際しては、全社的な政策会議の下に利用部門を中心としたワーキンググループを設けて、データウェアハウスの経営全般にわたる効果、生産性の向上、情報活用の有効性などにつき、それぞれに経済的効果とその達成度合を検証する尺度を設定した。導入では、全体構想のもとに、最も重要である分野に絞り込んで開発し、その結果を見ながら拡張するという方式をとった。また、全社展開をする前にモデル店による実験により、使い勝手や有効性の検証を行い、問題点を確認して改善する方法をとった。それを通して、エンドユーザへの教育や相談を担当するインストラクタやキーマンの養成を行った。

これらは非常にオーソドックスなアプローチであるが、現実にはこれができる企業は少ない。P社では、著者が経営者である著者の強力なリーダーシップにより、それを成し遂げたのである。本書を情報化の進め方に関する実践的な教科書として活用することをお奨めする。

当然、本書をデータウェアハウスに限定した本来の目的で読むこともできる。データウェアハウスそのものの解説も要点をコンパクトにまとめてあるが、それよりも本書の真骨頂は、構築の進め方、モデルの内容、効果の把握などが具体的に実例を駆使して説明していることである。特に「データウェアハウス定着のための9か条」は著者の体験が滲み出ており説得力がある。データウェアハウスのベストプラクティスとして活用するべき図書である。