論文・雑誌投稿一覧月刊LASDEC書評

「月刊LASDEC」2002年10月号掲載

柴山慎一,正岡幸伸,森沢 徹,藤中英雄著
『実践バランス・スコアカード
ケースでわかる日本企業の戦略推進ツール』

日本経済新聞社,2001年2月 ISBN4-552-14894-4  \2600


米国では企業や部門の評価は,とかく短期的な収支である財務の視点のみを重視しがちであったが,その財務内容を改善するには,顧客満足度を得ること,業務のしかたを改革すること,さらに社員の能力を高めるなど,これらの先行する非会計的な要因の成果を評価することが必要である。また,日本ではこれらを含めた中期計画も重視されてはいたものの,全体をフレームワークとしてとらえること,具体的な数値目標としてマネジメントすることに欠けていた。

BSCとは,ロバート・S・カプランとデビッド・P・ノートンが1992年に発表した企業や部門の評価方法である。@財務の視点,A顧客の視点,B内部プロセスの視点,C学習と成長の視点の4つの視点から,具体的な経営目標を設定しその実現を評価する。BSCはその後,単なる評価ツールではなく,経営戦略の策定や実施のためのツールへと発展してきた。それで最近,経営戦略の分野でバランス・スコアカード(以下BSCという)の活用が注目されている。
 それに伴い,BSCに関する多くの図書が出版されているが,本書は次のような特徴を持っており,自治体職員に好適な図書である。
 カプランが「推薦の言葉」を寄せている。BSCの意義やその発展を豊富な資料でわかりやすく紹介している。BSCを正しく理解するのに適切な図書である。

著者たちは野村総合研究所のコンサルタントである。多数の実務指導や調査の実践を通して,経営革新にBSCを具体的にどう推進するかを重視している。多様なケーススタディにより,BSCが多くの分野で有効なツールであることを示し,それぞれのケースでBSCの目的,推進方法,推進体制,他の経営技法との連携,留意事項などを具体的に示している。

地方自治体など公共団体におけるBSCの適用に多くのページを割いている。公共団体では4つの視点の順序を変えて,@住民の視点(住民の満足を得るためのサービス),A財務の視点(そのサービスを提供するための財源の活用),B内部プロセス(住民満足および財源の有効活用のための業務プロセス),C学習と成長(それを継続発展させるための取り組み)とするのが適切だと指摘する。
 また,とかく縦割りになりやすい行政業務において情報の共有化を行うこと,PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを円滑に行うことが重要であり,それにBSCは有効であることを示している。

実例では,米国での公共部門におけるBSC活用動向を簡単に紹介し,千葉県と札幌市でのBSC導入について,背景,アプローチ,BSCの枠組み,推進方法や体制,対処するべき課題などについて詳しい紹介をしている。