スタートページ> 主張・講演> 経営者・利用部門のためのIT入門> 第3章 個別システムの調達(1)
RFP(Request For Proposal:提案依頼書)とは、情報システムの調達をするのにあたり、複数のベンダに具体的な提案を依頼する文書です。調達する情報システムについて、対象業務、必要な機能、調達条件などを記述します。
情報システムは、ベンダ決定後に詳細な打ち合わせを行った後で作成されるシステム設計書に基づいて開発されるので、RFPがそのまま情報システムの仕様書になるのではありません。しかし、RFPにより提案が行われ、その提案によりベンダを選択し、開発作業に入るのですから、その提案が外部設計書と基本事項で大きなギャップがあると、多様なトラブルが生じます。さらには、RFPが不適切だと、もっと優れた提案があるのに、それが得られないかもしれません。しかも、複数ベンダの比較をするのですから「詳細は必要に応じて口頭説明する」のでは困ります。
すなわち、自社の期待が正確にベンダに伝わるRFPを作成する必要があるのです。
内部検討が不十分なままに「販売システム一式」的なRFPにしたのでは、ベンダはどのようなシステムにしてよいかわかりませんから、適切な提案は得られません。ベンダは、このようなずさんなRFPにする客先は成熟度が低いと判断します。開発途中で大きなリスクが発生することを危惧して、見積りを高くするかもしれませんし、甘く見てレベルの低い技術者をあてるかもしれません。
逆に、そのままシステム設計書となる程度まで検討しつくしたRFPを作成するには、自社に高い能力がないとできませんし、多大の作業になります。また、そこまで行うのであれば、RFPを作成する必要すらないでしょう。
一般には、RFPでは「何をしたいのか」(what)を示し、提案書は「どのように実現するか」(how)を答えることになります。このときに、現行の組織図、業務の流れ、データの量など、提案をするのに参考になる事項は、できるだけ示すことが、より適した提案を得るのに必要です。
自社が設定している方式や標準(ERPパッケージの利用、プログラム言語の指定、データベースの指定など)への準拠が必要なときは、それを明示する必要があります。しかし一般的には、RFPでhowまで指定するのは、専門家であるベンダの創意工夫を制約することになります。
また、RFPで「なぜ情報システムを必要とするのか」(why)も示すほうが、よりよい提案が受けられます。しかし、経営戦略の一端を伝えることになります。
複数のベンダによる提案を比較検討するためには、提案書の記載項目や形式を統一する必要があります。また、自社が提供する開発環境や自社が行う作業を明示することも必要です。
RFP作成のためのガイドブックやテンプレートなどが、図書やインターネットで提供されています(記述内容例)。それらを参考にして作成するのが適切です。しかし、自社の状況、情報システムの目的により重点となる事項が異なります。それに応じて取捨選択することが必要です。
RFPには通常次のような内容が記述されます(ITコーディネータ協会『RFP/SLA見本シリーズ(配布版)』より)。
●自社作成の場合
「きれいごと」な内容のRFPがよくあります。調達の目的や業務の流れなどを、現状と異なる洗練されたものにして記述するため、後で具体的な調査をすると、大きな違いが発見されることが多いのです。
RFPにまとめるときには、矛盾や例外が多いのは困りますが、実際と異なる記述や重要項目の記述がないのは致命的です。まず、重点となる基本的な事項を示し、矛盾や例外を注として示すような表現上の工夫が求められます。
●コンサルタント起用の場合
RFP作成には、業務の知識以外に、ITに関する知識や、適切な提案を得るためのテクニックも必要になります。そのような能力が自社にない場合には、RFP作成にも外部の利用が必要になります。
この分野を専門にしているコンサルタントがあります。大規模なコンサルタント会社から個人コンサルタントまで多様です。ここで重要なことは、自社の状況や対象業務をよく理解しているコンサルタントを選択することです。不適切なコンサルタントを起用すると、次のようなRFPになる危険があります。
いずれにせよ、コンサルタントに適切な説明ができなければなりません。あくまでも、発注側が、よりよいRFPを作成する努力をすることが大切なのです。
●ベンダ起用の場合
RFP作成作業が煩雑なことから、発注を予定しているベンダに依頼する傾向がありますが、ベンダに都合のよいRFPになるのは当然ですので、これは絶対に避けるべきです。RFP作成に携わったベンダには開発業務を発注しないことにしている企業もあります。
何らかの都合によりベンダに依頼せざるを得ない場合でも、基本事項は自社で決定し、形式的な文書化をする作業だけを依頼するようにしましょう。