スタートページ主張・講演経営者・利用部門のためのIT入門第3章 個別システムの調達(1)

非情報系活動の情報システム開発に及ぼす影響


プログラミングなどの作業はベンダが請負ますので、ベンダ内部でプロジェクト管理をしていますが、そのプロジェクトに遅れが出ると困るのは発注者です。また、発注者が担当している作業もあります。それで、双方が出席する進捗会議を頻繁に開催する必要があります。それには、発注者側でもプロジェクトを管理する必要があります。
 ここでは、ケーススタディにより、発注者、特に経営者や利用部門がプロジェクトマネジメントの重要性を認識する必要があることを示します。

ケーススタディ(自社カード発行のケース)

  1. A社は、顧客情報の把握、顧客の固定化が戦略的に重要だと認識して、自社カードを発行することを決定し、顧客や小売店に○○年○月からサービスを開始することを公表しました。
     自社カード発行システムの開発が承認され、ベンダを決定し、費用、納期などの契約をして、A社とベンダによるプロジェクトチームが編成されました。
  2. ところが、A社の企画部門や営業部門などの意見がなかなかまとまりません。このままではサービス開始に間に合わないので、ベンダはここまでにあげられた要件を基にして、見切り発車でシステム開発を開始しました。
  3. 営業部門では加入者や取扱店の獲得活動を開始したのですが、思ったように進みません。顧客が申込書での個人情報記入欄の記入や、魅力的な特典がないことに不満を持っていることが原因だとされ、クレジットに不可欠な項目だけにして、多様な特典オプションをつけることにしました。取扱店には多様な情報提供をするとか、仕切価格を下げるなどのサービスをすることにしました。
  4. しかも、それらの交渉にあたった営業部員が、ベンダの担当者に直接依頼して、両社の責任者がそれを知らないこともありました。ベンダはスケジュールがやや遅れていたが、内部努力でカバーできると思いA社に伝えませんでした。A社は請負契約をしたのだから、ベンダに任せておけばよいと思い、進捗会議を開きませんでした。
  5. そのうちに、スケジュールの遅れは深刻な状態になりました。ベンダは、納期延期を提案したのですが、公表したものを変更するのは信用に関わると却下されました。それで、やむを得ずテスト不十分なままに実施に踏み切ったのですが、実施後トラブルが頻発し、大きな問題になりました。しかも、申込書の簡素化により当初計画した顧客情報は得られませんでした。
  6. この間に費用も問題になりました。責任者の知らない仕様変更が大きな金額になっていたのです。営業部員やベンダ担当者は、費用のことには関心を持っていませんでしたし、まして文書にはしていません。「いった/いわなかった」の水かけ論になってしまいました。
  7. システム開発の予算をはるかにオーバーしてしまいました。悪い品質のまま実施して大きなトラブルを起こしました。・・・

プロジェクトマネジメントの重要性

このケースを分析すると、次の欠点・対策があげられます。このようなことを解決するのがプロジェクトマネジメントなのです。

ベンダは、このようなプロジェクトを多く経験している専門家なのですから、これらのトラブルが起こらないようにする責任があります。しかし、ここでのトラブルの主原因は、システム構築そのものの問題ではなく、発注側、特に非情報系活動を行う部門がプロジェクトマネジメントを理解していないことにあります。
 プロジェクトマネジメントは関係者が共通する認識があって成立するのですから、経営者や利用部門がプロジェクトマネジメントの知識を持つことが望まれます。
 プロジェクトマネジメントの進め方やそれに必要な知識体系に関する国際標準に、PMBOK(The guide to the Project Management Body of Knowledge:プロジェクトマネジメントの基礎知識体系)があります(「プロジェクトマネジメントとPMBOK」)。PMBOKは、ベンダやITではよく知られていますが、経営者や利用部門では名前すら知られていないのではないでしょうか。