スタートページ主張・講演経営者・利用部門のためのIT入門第2章 IT投資の費用対効果

インフラ投資の重要性


成功企業にはインフラがある

どのような分野にITを活用すべきかに「気づく」ためには、IT活用動向や他社の成功事例を収集・分析することが必要です。
 しかし、成功事例を自社でも応用するときには、他社と自社のIT活用能力を認識する必要があります。成功企業は、その事例だけが成功したのではありません。成功できるインフラがあるのです。

インフラ投資と個別アプリ投資

ここでのインフラとは、次のようなものです。特に、人・組織の面でのインフラが重要です。成熟度といってもよいでしょう。

SISでの成功事例でも、Web活用の成功事例でも、同一企業の例が紹介される傾向があります。マスコミの記者がその企業をウオッチしていることが理由かもしれませんが、成功する企業は、成功するDNAがあるのです。
 成功事例を読むと「経営者が英断をもって指示し、信念をもつプロモータが活躍し、利用部門が積極的に参加して成功した」ような内容です。自社の状況とは、あまりにも格差があります。
 記事にするには、スッキリした文脈にしなければなりません。実際には、ドロドロとした紆余曲折もあったと思われます。成功企業の人から「『マスコミに追いつけ』が当社IT部門の合言葉だ」(この記事のような状況にしたい)と聞いたことがあります。
 また、彼らは、凡社が思うほど苦労していないのです。それまでにインフラ基盤ができているので、比較的容易に合意が得られ、低コストで構築できるのです。
 さらに、マスコミが成功事例と紹介するので、社内でも評価が高くなり、活動しやすくなるのだそうです。

インフラ投資の効果

インフラ整備が進んでいる成功企業をA社、インフラ整備に消極的な企業をB社とします。販売システムが提案され、その効果が5千万円だとします。
 A社では,既にインフラが整備されているので、このシステムが3千万円で構築できるとすれば,この投資は承認されます。そして,2千万円の利益が出ると共に,インフラの整備も進みます。それに対してB社では,このシステムのために、パソコン・ネットワークの整備やユーザ教育など費用3千万円の追加が必要になります。合計6千万円になるので、この投資は却下されます。
 次に流通システムが提案されたとき,A社では先のインフラがあることにより2千万円ですむのでこれも実施され,さらに3千万円の利益が得られます。B社ではまた6千万円になるので却下されます。このようにして,A社では多くの情報化投資が実施されてその利益を早期に得ることができるのに,B社では最初のハードルを越えることができないために,いつになっても投資をすることができない状態で留まります。これが繰り返されればA社とB社の差は歴然になるでしょう。

あるいは、販売システムのときに、必要な機能だけに絞り開発費用を5千万以下で構築したとします。しかしこれでは、標準化などの工夫はできないのでインフラ整備はあまり進みません。それで流通システムの場合にも同じようなことになります。しかも販売システムと流通システムがばらばらな縦割りシステムになり、将来に課題を残します。

インフラ投資の効果

インフラ投資は戦略的投資

インフラ投資は、それだけで利益は得られません。その上に載る販売システムや流通システムにより利益が得られるのです。しかも、インフラ投資は個別アプリ以前に投資する必要があります。その時点では、未だ個別アプリの費用対効果がわからないのですから、インフラ投資の費用対効果を求めるのは困難です。それで、B社のような凡社ではインフラ投資がなかなかできません。

インフラ投資は情報システム全体の基盤になるものですから,その変更はかなり困難です。ところが,情報技術の発展は急激であり,しかも予見できない変化が起こります。先走って導入した技術とは全く異なる技術が業界標準となることもあります。導入した技術があるために,かえって新しい技術を導入できないなどということがよく起こります(蛇足)。すなわち、インフラ投資はハイリスク・ハイリターンの戦略的投資なのです。

ある企業では、レガシー時代に現在のグループウェアやデータウェアハウスのようなサービスを構築していました。しかも、処理を日常用語で指示すると、不明確な個所をシステムから質問して、自動的にプログラムを生成したり、そのようにして作ったプログラムをひな型にして、他の類似する処理をしたい場合には、特定の記号の個所だけを修正すればよいという方法を自動的に行うなどの工夫をしていました。現在の画面操作はできませんが、実質的にはオープン系ツールよりも使いやすかったのです。
 それが、オープン系に移行するのを遅らせてしまいました。利用者からみれば、従来のサービスを継続することが移行への条件だと主張したのです。

ある企業では、高い費用をかけてERPパッケージを導入し、何年もかけて、多くの業務をERPパッケージに移行しました。ERPパッケージの機能をうまく活用し、ERPパッケージ活用の優等生だといわれました。それが、SaaSが注目され、そのほうが運用コストが安そうだと思っても、これだけの活用をすることはできないので、当分は移行できない状況です。

むしろ、高度活用をサボっていた企業のほうが、結果として小回りができる場合もあるのです。「一周遅れている走者は、トップを走っているように見える」だけかもしれませんが・・・。

インフラ投資はタイミングが必要です。いかにインフラ投資が重要だとはいっても、収支状況が悪いときに効果がすぐに得られない投資をすることはできません。好況のときに投資することを考えるべきです。また、不況のときには、あまり費用のかからないインフラ、例えば経営者や利用部門とIT部門とのコミュニケーションの向上、システム開発での標準化の構想(実施には費用がかかる)などを行うことが大切です。