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C.ワイズマン著、土屋 守章、辻 新六 訳
『戦略的情報システム―競争戦略の武器としての情報技術』
ダイヤモンド社、1989年、ISBN4-478-37043-5、4,500E
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原著:Charles Wiseman, "Strategic Information Systems", 1988

SIS(Strategic Information System:戦略的情報システム)という概念は、ワイズマンが、『戦略とコンピュータ−競争手段としての情報システム』で提唱した。本書は、同書を「拡張し、再進化し、また改訂したものである」。特に、実践的な面を重視しており、新しくCIOの役割について述べている。SISの概念を理解するには、本書が最も適切である。
 コロンビア大学ビジネススクールで示した事例が豊富に収められており、初期のSISの事例として有名なアメリカン航空の座席予約の事例もその一つである。

本書は3部からなっている。第1部「別のレンズを通して」は、SISの概念の説明であり、それまでの情報システムが、人間の活動を支援する慣習的パースペクティブであったのに対して、ITが経営戦略を実現する手段である戦略的パースペクティブに質的に変化してきたことを示す。
 第2部「戦略スラスト」では、競争優位の立場から差別化や企業提携などの重要性と、それを実現するためのITの活用について述べている。
 第3部「実施」では、IT部門の任務の変化やCIOの必要性について示唆している(初期の段階であり、現在いわれている状況までにはなっていないが)。

以下は評者の意見である。
 現在では、SISという用語はあまり使われなくなった。しかし、SISの概念は、ワイズマンの指摘のように、経営とITの関係を根本的に変化させたものである。IT部門の戦略部門化やアウトソーシング、ERPパッケージやSaaSの利用などは、SISから必然的に求められるものである。また、日本では米国と比較して戦略的なIT活用が遅れており、それが日本企業の国際競争力が低い原因だといわれているが、これは、日本企業がSIS以前の状況なのだといえる。本書は、現在でも読むべき名著である。