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地域だからこそできるIT活用

(財)地方自治情報センター『LASDEC』2006年12月号掲載

木下敏之著『日本を二流IT国家にしないための十四ヵ条』
日経BP、2006年、ISBN-86120-213-7、1400円+税
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●自治体トップのリーダーシップ
 e-Japanに次ぐIT新改革戦略が本格化してきた。また、地方分権が大きな動向となっている。すなわち、地方自治体、地域社会が独自のIT推進をすることが求められる状況になってきたのである。  著者は1999年〜2005年に佐賀市長として同市の電子自治体化を先頭に立って推進してきた。その結果、日本経済新聞社の2005年電子自治体ランキングでは、佐賀市役所は全国で46位、九州では1位に評価されるなど注目すべき成果をあげた。
 本書は、著者が電子自治体化の重要性に気づいたいきさつやIT推進における多様な障害を克服した経緯を示し、その体験から、日本の電子自治体の遅れへの警鐘と、遅れを解消するための提言を「十四ヵ条」にまとめたものである。
 本書では、@韓国での電子自治体との比較により、自治体のトップが真剣に電子自治体のあるべき姿を考え、強力なリーダーシップを発揮することが重要なことを示している。A住民の満足、収入の増加、経費の削減などの効果が大きいIT化を推進し、その費用対効果を明確にすること。B有能な外部コンサルタントを活用することが重要だと主張する。  韓国を引合いに出すまでもなく、日本の民間企業と比較しても自治体のITへの認識はあまりにも遅れている。「二流IT国家にしないため」どころではなく、この状態では三流であり、せめて二流レベルにはなってほしいと思ったのが評者の感想である。

丸田 一著『地域情報化の最前線 −自前主義のすすめ−』
岩波書店、2004年、ISBN4-00-023827-2、2200円+税
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●地域住民のボトムアップでの創意工夫
 『日本を〜』が地方自治体でのトップダウンによるIT推進であるのに対して、本書は地域の住民たちが協力して地域のネットワーク環境を整備したり、IT活用を推進したりした事例である。ここで地域とは行政区分ではなく生活に密着した場所である。
 ここでの「自前主義」とは、自分たちだけでIT環境を整備することではない。自分たちが考え自分たちが主体になって推進しようということである。よく唱えられる「自立」よりもハードルが低く,経験もなく財源も持たない地域でも取り組みやすいアプローチだという。
 当然ながら地域住民、NPO、自治体職員が主要なメンバーであるが、他の地域からの応援者もいるし、通信業者も参加することもある。それらのメンバーが緩やかな結合で協力し、しかも楽しんで参加することが特徴である。著者はそれを「愉の世界」と表現している。
 この自前主義の成功例として、@情報過疎地域でのネットワーク環境整備、A地場産業振興への外部リソースの活用、BITを活用した地域での知識交流の3つの視点から10の事例を示している。  本書と『日本を〜』ではアプローチは異なるが目指す方向は同じであり、実現するための手段では同じことを指摘している。これら双方をうまく組み合わせることが、真の意味での「一流IT国家」になる秘訣であると思う。