スタートページ主張一覧書評

暗号技術を理解する

(財)地方自治情報センター『LASDEC』2006年5月号掲載

ルドルフ キッペンハーン著, 赤根 洋子訳
『暗号攻防史』
文芸春秋(文春文庫)、2001年、ISBN4-16-765102-5、800円+税
→購入サイト(アマゾン・コム)

○暗号にも興味を持とう
 電子政府の進展に伴ない、「電子政府の情報セキュリティ確保のためのアクションプラン」(平成13年)や「各府省の情報システム調達における暗号の利用方針」(平成15年)などが示され、行政間あるいは行政と民間の間での通信の暗号化が重視されるようになってきた。
 暗号化や復号化などの処理はシステムが自動的に行うので、一般職員が暗号技術そのものについての知識を持つ必要はない。しかし、情報セキュリティが重視されている現在、暗号とはどのような仕組みなのか、どのような問題があるのかについて、常識的な理解は持っておきたい。
 本書は、ゾルゲ事件をイントロにして、シーザーの暗号、ホームズの踊る人形、第二次世界大戦でのエニグマ暗号機など、歴史的なポピュラーな話題をテーマに、暗号技術や解読技術の発展を述べている。当然ながら数学も数字の羅列もなく、歴史の裏話やサスペンスドラマのように読むことができる。読み進むうちに、暗号技術の特徴や、公開鍵暗号方式・キャッシュカードの仕組みなど現在の暗号方式についての基本的な概念が得られる。
 多くの人は、暗号などには興味はないし、高度な数学は苦手であろう。そのような人に、暗号への関心を持ってもらう目的で本書を推薦する。

結城 浩著『暗号技術入門-秘密の国のアリス』
ソフトバンクパブリッシング、2003年、ISBN4-7973-2297-7、3,000円+税
→購入サイト(アマゾン・コム)

○もっと暗号について知りたい人に
 『暗号攻防史』などにより、暗号技術について知的好奇心を持った人に本書を推薦する。本書は、初歩的な数学とコンピュータの知識が必要となるが、数式は少ないし詳細な解説があるので、読むのにそれほど苦労はしないだろう。
 公開鍵暗号方式、電子署名、認証など現在よく使われている暗号技術の記述も多く、その原理や弱点にも言及しており、どのように使うべきか、運用をどうするかが解説されている。随所にクイズがある。暗号技術の本質をつく問題や実際に暗号化・復号化する演習があり、理解を深めることができる。

若林 宏著
『図解入門よくわかる最新暗号技術の基本と仕組み』
秀和システム、2005年、ISBN4-7980-0999-7、1,500円+税
→購入サイト(アマゾン・コム)

○実践的な知識を得るために
 『暗号技術入門』が理論を重視しているのにくらべて、本書は実務的な理解を目的としている。また、図解とあるように数値例が多く、わかりやすいともいえるが、かえって読みにくいところもある。
 本書の特徴は、現在広く使われている最新の暗号方式、デジタル署名、認証の仕組みに重点を置いていること、実際のコンピュータ画面の操作により内部でどのような処理が行われているかを実例で解説していることである。実務で無意識に使っていることが、どのような仕組みになっているのかを理解するのに適した図書である。