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CIOに読んでもらいたい本

(財)地方自治情報センター『LASDEC』2006年3月号掲載

野村総合研究所システムコンサルティング事業本部著
『最新図解CIOハンドブック』
野村総合研究所,2005年,ISBN4-88990-117-5,1,800円+税
→購入サイト(アマゾン・コム)

○CIOが持つべき知識体系
 前回で「CIOとは何か」を示したが,本書は「CIOにはどのような知識が必要か」を体系的に示したものである。「IT活用の全体最適化」「RFIとRFP」「アウトソーシング」「プロジェクトの運営」「要求定義と品質保証」「人材の育成」「IT投資の費用対効果」「セキュリティ」「ITガバナンス」など,経営とITに関してCIOが取り組むべき局面,現在注目されている概念や標準的な手法のほぼすべてを網羅している。執筆者は,14名の野村総合研究所のコンサルタントであるが,自社の方法論に偏らず,客観的な立場で記述しているのは好感がもてる。
 これらを1冊にまとめたものであるから,本書だけで個々の事項を詳しく理解するには無理があるが,全体を総合的に把握するには適している(それだけに,参考文献がないのが残念である)。個々の事項を断片的に理解している人にとって,それらを体系的に再整理するにも役立つ。現在CIOの職にある人へのハンドブックとしてではなく,将来CIOになろうとする人へのガイドブックでもあり,一般職員に健全なIT観を示す図書でもある。
 なお,本書は2000年発行の『図解CIOハンドブック』の全面改訂版で,両書を読み比べると,この間にIT環境が大きく変化したことを改めて痛感させられる。

日経システム構築編『さらば! 失敗プロジェクト』
日経BP社、2005年、ISBN4-8222-2974-2、1,600円+税
→購入サイト(アマゾン・コム)

○CIOのケーススタディ演習書
 本書はCIO研修の演習書とでもいうべきものである。月刊誌『日経システム構築』の連載記事や特集記事をまとめたもので、プロジェクトが直面する多様な局面でのトラブル事例(40事例)を体系的に整理している。失敗事例の紹介というよりも、失敗の原因分析,それを回避する対策,失敗から生還する手段を重視している。事例は民間企業であるが,地方公共団体にも共通点が多いであろう。本書をベースに勉強会をもてば,自組織でも似たような危険があることに気づくし,それを事前に回避する対策の検討につながるであろう。

ニコラス・G・カー著、清川幸美訳
『ITにお金を使うのはもうおやめなさい』
ランダムハウス講談社、2005年、ISBN4-270=00062-7、1,700円+税
→購入サイト(アマゾン・コム)

○IT投資礼賛論に惑わされるな
 著書の論文、"IT doesn't Matter"をご存知だろうか? 「ITはコモディティ化した。ITによる競争優位は、短期間で追従され長期的な優位確立にはならない。ITへの積極的投資よりも、コストやリスクの管理が重要だ」という論旨である。本書は、著者がこの論文や、反論、再反論などをふまえて発展させたものである。未だ多くの地方公共団体では、ITがコモディティの段階に達していないので、IT投資も必要ではある。しかし、重要なのはITに関する健全な認識のコモディティ化である。CIOは真の目的を見失ってはならない。