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CIOの役割と地域密着のIT推進

(財)地方自治情報センター『LASDEC』2006年2月号掲載

小尾敏夫監修、早稲田大学大学院CIO-ITコース/電子政府・自治体研究所編
『CIO−IT経営戦略の最高情報統括責任者−行政CIO、企業CIOの新展開、新領域、国際比較』
電気通信学会、2005年、ISBN4-88549-712-4、1,900円+税
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○CIOとは何かを多角的に理解
 IT活用の中心になるのがCIO(Chief Information Officer:最高情報統括責任者)である。電子政府・電子自治体の推進、EA(業務・システムの最適化計画)の導入に伴い、CIOを置く中央官庁や地方公共団体が増大してきた。国連による電子政府ランキング調査での日本の順位は、この数年次第に上がってきてはいるが、2004年では未だ18位である。最先端のIT国家になるためにもCIOの活躍が期待されるところである。ところが、CIOは従来の縦割り的な職制と異なるので、その位置づけや人選などに関する認識は未だ不十分な状況である。
 早稲田大学大学院では、2004年に「CIO-ITコース」を設立した。次世代のCIOとなる人材を育成するために、社会人を優先して入学させ、各界の一流講師陣による実践的な教育を行っている。本書は、早稲田大学が主催した国際会議や公開講座の講演内容を中心に、オリジナル論文を加えたものである。
 行政CIO、ビジネスCIO、新分野CIO、外国のCIO、CIOの新展開の5つの章で、実に36編の論文を掲げている。それだけに、全体としてのまとまりに欠けるが、多様な観点からのCIO論が展開されており、かえってCIOの全体像を把握するのに適した図書である。特に海外を含めた行政関係が過半数を占めており、地方公共団体職員の参考になろう。

佃 均著『ルポ 電子自治体構築』
自治日報社、2005年、ISBN4-915211-67-3、2100円+税
→購入サイト(アマゾン・コム)

○地域密着型IT推進工夫の宝庫
 では、地方公共団体のCIOは、どのような観点でIT推進を行うべきか。中央省庁のお膳立てしたメニューに従えばよいというものではない。地域の特色に立脚した独自の工夫が必要だし、一部の職員だけでの推進はなく、住民の積極的な参加を得て官民が共通の目標に向かって協力する体制が必要になる。その環境作りがCIOの大きな役割である。
 本書の題名から気づかれたように、本誌の連載(2005年8月号までの17回)が公刊されたものである。それで内容の紹介は不要と思うので、愛読者の一人である書評子の個人的な感想を述べる。
本書(連載)は単なるIT推進の紹介記事ではない。思わず読ませる見出し、洒脱な文体、ユーモアのあるトピックスなど、楽しんで読まされてしまう。そして、独自の工夫に達した背景や実現での住民参加などの工夫など、参考にするべきポイントが明確に示されている。
 毎月読んだつもりであるが、1冊にして通読すると、地域IT推進には実に多様なアプローチがあるものだ、逆風を順風に変えるアイデアもいろいろとあるのだと改めて認識できる。読者は、これらを模倣するのではなく、それらをヒントとして、さらに独自の工夫をしてほしいものである。やや先走りであるが、続編を期待する。