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地域に根ざしたIT戦略

(財)地方自治情報センター『LASDEC』2005年11月号掲載

中野雅至著『ローカルIT革命と地方自治体』
日本評論社、2005年、ISBN4-535-58413-3、2,800円+税
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○地方自治体IT戦略の本質を考える
 e-Japan計画の最終時期になった。地方公共団体は、これまでに費用や人材など多くのエネルギーをIT政策に費やしてきたが、実際に住民や地域に利益をもたらしているのかが問われる段階になった。本書では、ITによる地域社会発展実現へのIT政策はいかにあるべきかという本質的な問題を対象にしている。著者は、地方公共団体のIT政策の課題として、地方分権の時代においてもIT分野では中央官庁のコントロール下にあること、IT政策の二本柱である行政情報化政策と地域情報化政策の理念が合致していないことを重視し、これを打破することが「ローカルIT革命」だと主張する。
 そして、ローカルIT革命に向けて、IT政策への地域・住民参加、地元IT企業育成のための調達・契約方式の検討、地域特徴を活かしたネットワーク推進の持続的体制などが必要であり、それには、擬似自治体間競争を作り出す意識改革の必要性、そのための体制と権限の確立、IT政策立案環境の整備を図るべきだとして、情報通信行政の地方分権や道州制の導入へと展開している。

河井孝仁、細田大造著『自治体モバイル戦略』
信山社、2004年、ISBN4-7972-5440-8、1,200円+税
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○ケータイは電子自治体を変える
 ケータイ(携帯電話)の普及、高機能化はめざましい。本書では、ケータイへの災害情報のメールサービスや、ケータイで参加できる住民意見交換サイトの運営など、地方公共団体での多様なケータイ活用の事例を紹介している。
 著者らは、「市民及びNPO、企業、議会・行政がそれぞれに協働しつつ、創造的、自発的に活動することによって成立する自治」形態として創発型地域自治を提案する。市民が行政によりあらかじめデザインされた枠組みへの参加だけではなく、デザインそのものの創成に参加することが必要だと主張する。そして、その形成や運営にケータイの活用が効果的なことを示している。

宮崎正康、地域研究会編著
『IT活用で地域が変る 地域活性化・危機管理』
ぎょうせい、2005年、ISBN4-324-07589-1、2,286円+税
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○広い観点からの7つの論文集
 地域活性研究会とは、大学教員・公務員・在野の研究者が集まって発足したグループで、本書はその研究成果をまとめたものである。地域活性化の分野では、「地域産業の振興とIT」、「IT化による住民参加の促進」、「コミュニティ・ビジネスと地域活性化」、「IT導入の評価システム」の4編、危機管理の分野では「外交におけるIT−地方からの国際交渉−」、「ITによる首都機能の分散」「有事に備えるITネットワーク−自衛隊からの視点−」の3編を収めている。地域でのIT活用というと、行政と住民の間の情報交流などに話題が限定されがちだが、本書では、広い観点から地域とITについて考察しているのが特徴である。