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ユビキタスとは何か

(財)地方自治情報センター『LASDEC』2005年4月号掲載

志賀嘉津士著『「入門」ユビキタス・コンピューティング』
NTT出版(生活人新書),2004年,680円+税,ISBN4-14-088094-5
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ユビキタスとは,「遍在」の意味であり,ユビキタスコンピューティングとは,どこでも情報機器が存在し,意識せずに情報活用が行われる環境である。政府は,e-Japanの次のステップとして2010年の社会像を示した「u-Japan構想」を2004年5月に発表し,12月には「u−Japan政策」として具体化した。また,民間のユビキタスコンピューティングへの関心も高い。
 本書は,ユビキタスコンピューティングとは何かを理解するのに適した図書である。携帯電話やネットワークの発展を示し,コンピュータが「あまねく在る」状態を家庭や街での生活場面を例とした説明や新製品研究の動向の紹介などをしている。デジタルデバイドの低減が重要だと指摘している。
 電子政府や住基ネットにも言及しており,最先端の技術を紹介しているが,あくまでも利用者の立場での説明なのでわかりやすい。「その仕組みさえわかれば安心して,逆に大いなる興味を持ってユビキタス社会を迎えることができるはずだ」と著者は主張している。

次世代オフィスシナリオ委員会編
『知識創造のワークスタイル』
東洋経済新報社,2004年,2000円+税,ISBN4-492-76153-5
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知識の共有化や組織の創造性を向上させるナレッジマネジメント,それを円滑に行うコラボレーションの重要性は以前からいわれてきた。ユビキタス社会になると,その重要性がますます高くなる。
 本書の編者である「次世代オフィスシナリオ委員会」は,(社)ビジネス機械・情報システム産業協会が事務局になり,多様な分野の第一線で活躍する専門家で構成している。著名な識者の講演やメンバでの議論により,ビジネスやオフィス業務の変化や,ユビキタス環境の活用について,ビジネスシーンのドキュメントタッチも交えて示している。また,講演者4名の特別寄稿や欧米での事例や研究の報告があり,ユビキタス社会の全体像を理解できる。

坂村 健著『ユビキタス,TRONに出会う』
NTT出版,2004年,1300円+税,ISBN4-7571-0136-8
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日本は,携帯電話や情報家電などユビキタスの分野では先進的な存在である。1980年代に産学官協同で国産のリアルタイムOSを開発すべく「TRONプロジェクト」が行われた。著者は,その提唱者でありリーダーである。このTRONこそ「どこでもコンピュータ」の実現を目標としたものであり,いうなればユビキタスの先駆的な取組みであった。
 TRONは,組み込みシステムOSとして情報家電や携帯電話などに広く使われており,1989年の「TRONハウス」はユビキタスの典型的である。
 本書では,TRONを通して,先駆的研究の考えかた,産学官の連携のしかたなど,日本の技術戦略についても提唱をしている。