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(財)地方自治情報センター『LASDEC』2004年6月号掲載

石田晴久編・著,青山幹雄,安達 淳,塩田紳二,山田伸一郎共著
『コンピュータの名著・古典』
インプレス,2003年、ISBN4-8443-1828-4 \1500
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「コンピュータ分野に興味を持つ若いエンジニアや大学生・大学院生,さらには高校生に読書をするときの指針になるように,100冊の良書を選」んだとある。情報技術が主に米国で発展したために,ここでの選書では日本人の著作が20%に満たないが,若い情報技術者が本書により刺激されて,オリジナリティの高い研究を行い,将来の「100冊」ではもっと比率を高めたいというのが本書の目的であろう。
 「コンピュータ分野」といっているが,目次分類では,数学/アルゴリズム,コンピュータサイエンス,アーキテクチャ/OS,コンパイラ/言語,プログラミング,ソフトウェア開発,データベース/ネットワークの情報技術だけではなく,歴史,人物・企業,ドキュメンタリー,思想といった関連分野を広範囲にとり,それぞれに,平均10冊が取り上げられている。時代的には,ポリアの『いかにして問題をとくか』("How to Solve It",1940)から青山幹雄らの『オブジェクト指向に強くなる』(2003)まで,古典だけでなく最近のものも対象にしている。
 このコラムで紹介したものでは,ブルックスの『人月の神話』があり,ワインバークは対象が多いとの理由で,コラムでの紹介とは別の『スーパーエンジニアへの道』が選ばれている。

編著者をはじめ共著者は,有名な研究者や出版者であり,選択した100冊は評者のような浅学者がみても同感できる。選者の専門分野のためか経営分野での図書が少ないこと,対象が単行本に限定され論文が対象になっていないことに不満はあるが。
 本書は単なる図書紹介ではない。むしろ,その図書がその時代にどのようなインパクトを与えたか,類書と比較して良書とされる理由は何かを説明している。また,選者がその時代に何をしており(現在何をしていて),その図書で何を得たか(得ているか)が重点になっている。各章末に選者や識者のエッセイ風のコラムがある。選択にもれた図書を強く推薦したり,自分と選書との係わり合いや良書のすすめなどをしたりしているが,それがなかなか個性的である。
 さらに,本書の編集にあたり,インターネットで募集した500通以上の読者コメントがあったというが,そのコメントも結構面白い。読者コメントの第1位と第3位が選考からもれたとして読者コメントを紹介するなど,かなり個性豊かな図書である。

このように,本書はブックガイドとしてだけでなく,本書そのものが情報技術者の発想や価値観を多角的に理解するための図書だということもできる。当然ながら,情報技術用語の知識がないと十分な理解はできないが,それを無視しても興味の持てる図書である。
 また,本書は著者の主張する「若い人」に限定することはない。評者のような数十年前の若者にも役立つブックガイドである。これまでの情報技術のパラダイム変革時にむさぼり読んだ古典に出会って当時の自分を思い出したり,最近の本をあわてて購入したり,かなり評者の余暇を消費させた。このコラムの読者の余暇も消費させたい。