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(財)地方自治情報センター『LASDEC』2004年2月号掲載

Mint(経営情報研究会)著『図解でわかるソフトウェア開発の実践』
日本実業出版社,2003年、ISBN4-534-03510-1 \2800
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システム開発は利用部門,情報システム部門,ベンダからなるプロジェクトチームを編成して行われることが多い。チームの活動を円滑にするには,利用部門からのメンバーも,システム開発における基本的な知識が求められる。
 システム開発での必要な知識体系は,先に紹介した『SWEBOK』があるが,一般の人にはかなり難解であったと思う。それで,今回はわかりやすい図書を紹介する。
 わかりやすいということはレベルが低いということではない。従来からの開発体系を踏襲しつつ,最新の各種標準の考え方を取り入れ,しかも実際の開発現場において体験される重要項目を組み込んでいる。内容はしっかりしており,診断士や情報技術者の受験参考書としても活用できる。

内容は6章からなる。第1章「チームの構築とスケジュールの立案」では,プロジェクトの運営全般に関する事項である。特にプロジェクトチームの編成,チーム内外のコミュニケーションの方法を重視している。
 第2章〜第4章は,伝統的なシステム開発のライフサイクルに従い,各プロセスでの作業内容と留意事項を説明している。第2章「要求定義から設計へ」では,要求定義の工程で「要求定義の課題を管理して遅延を防止すること」を重視している。遅延の多くは責任部門が不明確だとか課題の影響度の大小が認識されていないのが原因である。本書では,このような実務経験からの指摘が多い。
 第3章「プログラミング工程」では,プログラミングそのものの工程の記述よりも知識の共有や標準化などに多くの紙面を取っている。このような管理の観点を重視しているのも本書の特徴である。
 その特徴は,第4章「テストから稼動まで」で顕著である。これに第3章の1.5倍の分量を費やしている。テストとは業務のテストをすることであり,利用部門が主役になるべきこと,移行時の計画が重要なことなど,実務に即した記述をしている。
 第5章「ソフトウェア開発最近の話題から」では,オブジェクト指向,CMMI,ITスキル標準など最近の話題を取り上げているが,あまりにも多くの話題を取り込んだために,中途半端になっているのが残念である。
 第6章「SEへの期待」では,顧客満足のためにSEはいかにあるべきかを論じている。ベンダ側での視点であるが,発注側の期待だともいえる。

本書の別な特徴は,43個にもおよぶ「コラム」にある。その大部分は本文の補足説明であるが,「システム開発と徹夜の蜜月」とか「顧客にとって当たり前の要件とは」など,実体験者が苦笑いをするような記事もある。
 著者のMintとは,中小企業診断士や情報処理技術者の資格を持つ実務者9名である。それだけに,実際の体験から本書全体を通してコミュニケーションの重要性を強調していることが注目される。なお,本書は同著者らによる『図解でわかるソフトウェア開発のすべて』の姉妹編である。併読するとよいであろう。