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(財)地方自治情報センター『LASDEC』2004年1月号掲載

島田達巳・遠山 暁 編
『21世紀経営学シリーズ5 情報技術と企業経営』
学文社,2003年,ISBN4-7620-1218-1 \2500
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一般の地方公共団体職員にとって必要な情報技術知識とは,情報技術そのものの知識ではなく,情報技術をいかに有効に活用するかの知識であろう。しかも,この分野は変化が激しいので,それを的確に理解するには,最近の状況に立脚しつつ,原理原則を重視して,しかも体系的に理解することが望まれる。
 本書は,現在の民間企業経営において,情報技術がどのように活用されているか,また活用するべきかをテーマとして,基本的な事項を体系的に示している。民間企業を対象としているとはいえ,情報活用の本質を解説したものであるから,地方公共団体でも十分に参考になる。
 また,本書は大学の教科書を想定している。それだけに,しっかりした内容を平易な記述で説明しており,社会人が個人で学習するのにも適している。さらに,各章末に学習に適した図書を解説をつけて紹介しており,グループでの討議に適した問題が掲げられている。職員がグループで学習するのに好適である。

内容は11章からなるが,大きく経営情報の基礎,経営戦略と組織,現代の情報活用動向,情報と社会の関係の4分野に区分することができる。
 「経営情報の基礎」では,経営における情報技術の位置づけを明確にする。なぜ,経営にとって情報技術が必要なのかを,歴史的な観点と企業活動の観点から説明し,これからの動向を考察する基礎としている。
 それを受けて「経営戦略と組織」では,経営戦略から情報化計画にいたるまでの考え方,情報化が社内組織に与える影響,企業間ネットワークによる企業間にまたがる組織の変化などを取扱う。情報技術を効果的に活用するには,人や組織の観点が重要であることを示している。それに関連して,組織としての知識の共有化,創造性の向上が重要であるとしてナレッジ・マネジメントの利用を解説している。
 「現代の情報活用動向」では,ネットワークとデータベースを中心とする情報技術の動向,情報システム開発での変化,データウェアハウス,グループウェア,サプライチェーン・マネジメントなど利用技術の動向などを,経営戦略実現への対処の観点から説明している。
 そして,「情報と社会の関係」では,健全な情報活用の基本であるITガバナンスや情報セキュリティについて解説する。さらにこれからの社会は共生社会であるとし,そのインフラとしての情報技術の将来展望や緊急の課題やなどをあげている。

地方公共団体職員を対象にした情報関連教育は多彩であるが,このような経営と情報に関した体系的な教育は比較的少ないようである。しかし,これを理解しておくことが,個々の分野の知識習得を容易にすると思われる。
 編者を含む6名の著者は,(一人−評者−を除いて?)大学での研究や企業での実務に通暁した,それぞれの分野でのオーソリティである。体系的な教育に安心して推薦できる図書である。