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(財)地方自治情報センター『LASDEC』2003年8月号掲載

増岡直二郎著『IT導入は企業を危うくする』
洋泉社、2002年、ISBN4-89691-674-3、\1600+税
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先月号の『動かないコンピュータ』に続けて類似分野の図書を取り上げた。地方公共団体では急速にIT化が進んでいるが,なかにはIT化すること自体が目的となり,推進者と利用者の間にトラブルが生じていることも仄聞する。
 本書の紹介をする前に,評者個人の意見を述べる。IT化は適切に運営すれば経営に大いに役立つが,運営を誤ると期待した効果が得られないばかりか,期待とは逆の結果をもたらす危険もある。また,IT化が真理であるかのように喧伝されるために,タテマエではIT化重視をいうものの,ホンネではそれとは異なる行動を取ることもあり,それが危険の原因になることが多い。IT化の推進には,このような副作用を回避することが必要である。
 本書は,著者の直接の体験・見聞や文献等から,多様な例をあげて説明している。部分的には賛成できない主張もあるが,全体的には評者の主張を実例で示していることに強い同感を覚えた。それが本書を紹介した理由である。
 しかし,本書を読むときには注意が必要である。著者は決してIT化を否定しているのではなく,上記のような危険を回避することが重要だと主張しているのだが,表面的にはIT化批判ともいえる表現が強い。情報システムに素人の上位者が本書を読むと,間違った認識を持たせる危険もある。著者が逆説的な主張をしていることを理解して読む必要である。

第1章では,IT導入企業での失敗例をかなり具体的に示す。手段であるべきIT化が目的化してしまい,同じ情報システムが人により成功/失敗の評価が大きく異なることなど,多くの組織でも経験することである。
 第2章では,IT化に期待する経営上の位置づけを歴史的に検討する。それがますます高度になるに伴い,IT化を成功させるための条件がますます複雑になってきたことを示す。また,ERPパッケージ導入における危険について実例で示している。
 第3章では,ITへの幻想を徹底的に攻撃する。ITは必ずしも生産性を向上させるものではないし,いわゆる日本的経営が悪いというものでもない。IT社会だから企業もIT化すべきだというような風潮が経営者の焦りを生み,かえって失敗する危険が多いのだと指摘する。
 第4章では,IT導入失敗の法則を経験面と理論面から列挙している。経験面からの法則では,@トップの無関心,A目標を定義表示しない,B人材の質を無視したプロジェクトチーム編成,C手つかずの社内意識の変革,D導入教育の欠如,E無視されるユーザーの意見,F遅れる業務改革をあげている。理論面では,ERPパッケージ,SCM,CRMなど最近注目されている技法のそれぞれについて列挙している。
 第5章は「まとめ」であり,上記の条件が一つでも欠けたら絶対に導入するな,導入済みでも稼動していないなら思い切って捨てろと言い切っている。
 情報化推進者には,副作用回避のためのチェックリストとしても,一読するべき図書である。