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(財)地方自治情報センター『LASDEC』2003年6月号掲載

行政経営では,住民ニーズに合致した活動をすることが重要であり,住民ニーズを把握して活動方針を決定するには,アンケートなどによる統計データが利用される。自治体自身が調査をすることもあるし,調査機関の結果を利用することもある。為政者や住民への情報提供でも統計データが使われることが多い。
 統計データのとりかた,加工の方法,報告の表現が適切でないと,重大な失政を招く危険がある。調査や解釈の能力不足のために,知らずにある特定の結果が出るような調査方法をとったり,調査結果を吟味せずに不適切な解釈をしたりするのは困る。まして,自説に都合のよいように意図的にそれらを行って世論操作をするようなことがあれば大問題である。

ダレル・ハフ著,高木秀玄訳
『統計でウソをつく方法 数式を使わない統計学入門』
講談社、ブルーバックス、1963年、ISBN4-06-117720-6、880円+税
→購入サイト(アマゾン・コム)

訳者が原書 "How to Lie with Statistics" に出会ったのが1954年頃だそうだから,50年も前の本である。それなのに,現在でも増刷されている。古典的名著といってよいだろう。ともかく楽しい本である。通勤途上の電車内では絶対に読んではいけない。ユーモアを交えて本質を示す語り口は,とうてい書評子が読者に伝えることはできないので,終章の「統計のウソを見破る5つのカギ」を列挙するだけにする。
 1 誰がそういっているのか?
 2 どういう方法でわかったのか?
 3 足りないデータはないか?
 4 いっていることが違ってやしないか?
 5 意味があるかしら?

谷岡一郎著
『「社会調査」のウソ リサーチ・リテラシーのすすめ』
文藝春秋、文春新書、2000年、ISBN4-16-660110-5、690円+税
→購入サイト(アマゾン・コム)

『統計でウソをつく方法』では楽しめるが,この本では怖くなる。多くの統計を鵜呑みにできなくなるし,うかつに統計調査をするべきではないと反省させられる。
 本書では,新聞記事などから膨大な統計データ事例を示し,それぞれについて,問題点を列挙し原因を追究している。次はその一例である。
 事例:「『一番人気はカーター氏/歴代大統領/米紙が調査』との新聞記事。アンケート結果はカーター35%,レーガン22%,ニクソン20%,フォード10%。いくつかの回答者の意見を掲載」。
 著者は次のように指摘する。カーターだけが民主党で他の3人は共和党なので,民主党支持者はカーターに集中し,共和党支持者は3人に分散する。このように意識的に特定の結果を得ようとする質問もあるし,いくつもの回答が考えられるのに二者択一を強いる質問もある。また,質問の順序により特定の回答へ誘導する方法もある。このような調査は役に立たないゴミである。しかも,そのゴミを自分の主張に合わせて結果だけを引用すると,あたかも客観的なデータに立脚した主張のように見えるので,さらにタチが悪い。
 さらに著者は,ゴミ調査の氾濫により回答者が被調査疲れや被調査慣れになり,まっとうな調査がしにくくなっていることを指摘し,ゴミ調査をしないための正しい方法やゴミを見抜くための「リサーチ・リテラシー」の重要性を指摘している。