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グループウェア,情報共有化,組織文化

情報共有化と部門事情による限界

日本セキュリティ・マネジメント学会全国大会(1996.5.25)に発表
「セキュリティ・マネジメント」第10号、1997.3, pp51-57

 情報の共有化が重視されている。しかし現実には部門や担当者の事情により、積極的な情報発信が行われないことが多い。ここでは、「公開ファイル」「報告」「意見公表」の3つの形態について、その原因を考察した。また、情報共有化の評価をするには共有化尺度が必要になるが、そのチェックポイントを考察した。


はじめに
1 情報共有化に関する問題意識
1・1 考察対象の限定
1・2 共有化評価の必要性
2 情報共有化の局面
2・1 3つの形態
2・2 「公開ファイル」の考察
2・3 「報告」の考察
2・4 「意見公表」の考察
3 情報公開の決定方法
3・1 問題の整理
3・2 公開・守秘の決定
4 情報共有度の測定
4・1 対象の考え方
4・2 チェックポイント
おわりに
引用文献

はじめに

 意思決定の迅速化、ビジネスチャンスの獲得、ホワイトカラーの生産性の向上などのために、情報の共有化が重視されている。また最近は、グループウェアやデータウェアハウスが注目されているが、それらの主目的は情報共有化の推進にある。すなわち、企業にとって、情報共有化は重要な課題なのである。
 情報共有化の観点では、より多くの情報をより多くの人に公開することが望ましい。ところが現実には、情報提供者の思惑で公開の可否が決められていることが多い。なおここでは、企業機密やプライバシに関する情報の公開や社内機密の社外漏洩などは対象にしない。全社的な観点では社内一般的に公開すべき情報が、担当部門や担当者の事情により公開されない状況を対象にして、そのような状況が発生する理由を考察する。
 また、情報システム監査の観点からは、グループウェアやデータウェアハウスなどの有効性評価のために、共有化の尺度を測定することが必要になるが、その尺度についての考察を行った。


1 情報共有化に関する問題意識

1・1 考察対象の限定

 まず、ここでの考察対象を限定する。企業機密やプライバシに関するような当然公開をしないと思われるものは対象にしない。また、社外の人からのアクセスについても対象にしない。すなわちここでは、全社的な観点では社内一般に公開しても問題はないと思われるような情報を、社内の誰にまで公開するかを対象にする。
 情報共有化は、顧客満足への対処、ビジネスチャンスの獲得、リエンジニアリングの実現、組織のフラット化、活性化、意思決定の迅速化などのために必須である。情報共有化の重要性については、いまさらいうまでもない。これらの目的を実現するには、より多くの情報をより多くの社員に公開することが望まれる。
 しかし現実には、利用部門の個人的組織的な都合による公開反対が情報共有化を阻害していることが多い。自分に都合の悪い情報は他人に見せたくないし、見せる人を極力制限したのは当然である。樋口(1994)は、非定型業務の情報化を阻む4つの壁として、@日本的ビジネス慣習、Aマネジメントの姿勢、Bセクショナリズム、C個人の意識を挙げている[1]が、ここではとくにBとCについて考察する。

1・2 共有化評価の必要性

@ 情報共有化での期待と現実
 日本情報システム・ユーザ協会(1993)が実施したアンケート調査[2]では、「情報システム部門と利用部門の連携方法のうち、最も重要」なものを求めたところ、1位は「情報共有の必要さの認識」であり、フリー回答では「公開DBの抵抗を排除する必要」「フェアな情報収集・整理・公開の方法を確立する」「情報の私有が創造性育成にマイナスなことを知らせる」など、暗に公開への抵抗がが多いことを示している。
 また、「日経情報ストラテジー」誌(1996.6)では、1部上場企業2000社にパソコン導入の理由を調査したところ、50%が「全員で情報共有したいため」と答えたが、「ところが現実を見ると、肝心のデータベースの中身は非常に乏しく、情報共有による情報活用を成功させた企業は極めて少ない。」という。[3]
 1993年から1996年までの間に、グループウェアやデータウェアハウスなどの情報共有のための環境はかなり普及した。それなのに、実際の共有化はあまり実現していないようである。

A 共有化測定の尺度
 システム監査の観点では、投資と効果を評価したい。グループウェアやデータウェアハウスの評価では、情報共有化の程度を知る必要がある。
 ここでは公開が善で秘匿が悪だというような価値判断はしない。また、部門や個人の公開反対を回避したり解決することを目的にはしない。反対の理由を明確にすること、情報共有度を測定するためのチェックポイントを示すことを目的にする。しかも、監査人の立場上、情報の内部にまで立ち入って情報の価値を評価することはせず、外部から統計的に情報共有度を測定する尺度を見つけることを目的とする。


2 情報共有化の局面

2・1 3つの形態

 情報を共有化する情報システムの形態として、次の3つを取り上げる。

@ 公開ファイル
 情報共有化は、グループウェアだけの問題ではない。情報系システムにおける「公開ファイル」も情報共有化の大きな手段である。公開ファイルとは、販売システムや購買システムなどの基幹系システムで収集蓄積したデータを、ユーザが利用しやすい形式に加工して提供し、自由な切り口で検索加工させるものである。これは従来から、エンドユーザコンピューティングや情報系システムとして発展してきた分野である。最近ではデータウェアハウスの概念が普及し、あらためて公開ファイルの整備が重視されている。

A 報告
 最近はクライアントザーバシステムが普及し、グループウェアの利用が進んできた。そのなかでも電子メールと並んで電子掲示板が広く利用されている。ここで「報告」とは、たとえば商談報告は従来から紙の形式で上司に報告していたが、それを電子掲示板に書き込むことにより、関係者に広く周知しようとするものである。

B 意見公表
 これも電子掲示板機能の利用である。業務上の提案や質問をしたり、それに答えたりすることである。電子掲示板の利用を「報告」と「意見公表」に分けたのは、前者は書き込むことを義務づけることができるのに対して、後者では書き込みはあくまでも当事者の自由意思によるものであり、情報提供の観点では本質的に異なるからである。

2・2 「公開ファイル」の考察

 販売システムで収集した各支店の売上データを公開ファイルとして公開することを例にする。

@ 共有の利点
 売上データが公開ファイルになっており、購買部門がそれを見ることができるならば、購買部門が仕入先への自社売上を知ることにより、仕入先への自社製品売込みに協力したり、仕入先を選別することができる。このように、直接関係のない部門に情報を提供することは意義がある。
 マーケティング部門は、顧客動向の分析に利用するであろう。その目的にはサマリした情報ではなく、ディテールなデータが利用できないと、よい分析ができない。すなわち、直接には関係のない部門でもディテールデータをアクセスできるようになっているのが効果的である。

A 公開への反発
 それに対して、この売上ファイルを公開することに販売部門は反対することがある。
・誤解を恐れる
 売上処理には、通常の売上以外にも返品やサンプル出荷などもあり、複雑になっている。この売上ファイルを単純に集計しただけでは、全体の売上にはならない。販売部門の関係者はその事情を知っているし、現在の業務ではそれで困っていない。しかし事情を知らない購買部門などの部外者がそのデータを利用して誤解したら困る。とくにトップが誤解すると、面倒なことになる。
 この誤解には、社内用語の不統一に起因することもある。ダベンポート(1994)[4]は、これについて多様な例をあげ、情報の複合的な意味が情報共有化で混乱を招いているといっている。
 販売部門はこのような誤解を恐れる。それで他部門から依頼があれば自部門で帳票を出力して提供するので、勝手な利用はしないでほしいという。これももっともな理由であるが、現実には他部門にクローズする結果になる。
・不都合な情報は出したくない
 この企業では、値引販売を厳しく統制しているとする。ところがA支店では、ある事情のために本社も了承の上で値引をしたとする。A支店は、値引事実を他部門に公表したくない。本社は、他の支店へ値引申請が波及するのを恐れる。そのため、同一部門内ですら公表したくない。
 また、このような環境では、公開ファイルにはするものの、個々の売上での金額の入った売上ファイルの公開には抵抗があるので、数量はよいが単価や金額は入れないとか、サマリした結果なら公表してよいがディテールデータは困るといった主張になる。

2・3 「報告」の考察

 商談報告を例にする。営業部員の新規顧客の訪問報告や既存顧客との折衝報告などは、直接の上司に口頭や文書で報告することが義務づけられていることが多い。

@ 共有の利点
 これをグループウェアでの「商談報告」の電子掲示板に書き込むことにより、次のような効果が期待できる。
 電子掲示板に蓄積された情報を、多角的な分類検索をすることにより、特定顧客の商談過程を時系列的に把握することもできるし、類似事例を整理して組織のノウハウにすることもできる。
 A部門の商談報告をB部門が見ることにより、A部門では関心のないことが、B部門では大きなビジネスチャンスにつながることもある。これらの効果は、情報をより多くの人に見られるようにするのが効果的である。事前に誰が反応するかは不明なので、電子メールでは効果が少ない。

A 担当者の思惑
 担当者は、自分に都合の悪い事項は公表したくないのは当然である。たとえば交渉に失敗したときには、直接の上司にはしかたなしに報告するが、同じ課の仲間にも秘密にしたい。まして誰が見るかわからない電子掲示板に入れるのには抵抗がある。
 逆に、価値のある情報は他人に知らせたくないこともある。それで、担当者としては、掲示板を見る資格は極力制限したいと考える。その結果、部内限定公開が課内、グループ内限定公開になり、結局は直接の上司しか見せないことになり、電子メールと同じような状況になってしまう。
 商談報告を掲示板に入力することを強制することはできる。商談に行った事実は上司は知っている。上司が「報告は口頭や文書では受けない。電子掲示板にあげよ」と指示すると、表面的には実施されペーパーレスになる。しかし、その内容、まして関連情報までは強制することはできない。それを強制すれば、電子掲示板の内容は義務的な最小限の内容になってしまい、従来よりも情報の共有度が悪くなってしまう危険も発生する。

2・4 「意見公表」の考察

 いろいろな提案や質問を掲示板にあげて、それを読んだ人がさらに提案したり回答するという利用を「意見公表」とする。

@ 組織文化との関係
 この利用は、組織の創造性の向上や活性化につながるものである。これは前述の商談報告とは異なり、他人からは誰がどのような意見をもっているかわからないで、強制することはできない。入力者の自由意思で行うものである。そのため、個人の行動により活発にもなるし沈滞もする。個人の行動は組織の非公式な雰囲気に左右される。このような利用では、組織文化が大きな影響を与える。
 オープンな文化を持つ組織では、従来から意見交換が活発である。そこにグループウェアが導入されれば、便利な道具が与えられたので、自動的によく利用されるであろう。実際にグループウェアでの成功事例を見ると、グループウェア導入前からオープンな文化を持った企業が多い。
 ところが、上司がその上の上司や他部門に直接意見をいうことを好まないとか、「不言実行」「沈黙は金」が支配的なクローズな文化を持つ組織では、グループウェアのようなツールは入れても効果がないものになってしまう。クローズな組織では、電子メールや少数な者にしか公開しない電子掲示板でないと、意義のある意見は出てこない。一般の掲示板には、当たり障りのない会議の開催通知や決定事項の報告などだけが入力されることになりがちである。
 それでも「連絡や報告はすべて電子掲示板を使い、オフィスから紙の文書はなくなった」状況にはなるので、表面的には成功しているかのように見える。しかし、それで組織の創造性が向上したのでもないし、活性化したのでもない。

A 担当者の思惑
 遠山(1996)は、電子的ネットワークに関するトップの評価は、本来情報技術が持っている二面的効果(Watson,1989)のうち、期待している「参画の効果」よりも「従属と管理の効果」をあげていることが多いと指摘している[5]。すなわち、日本のトップは、電子メールや電子掲示板の効果を、自主的な情報交換のツールとしてではなく、上位者が下位者から報告をさせ、下位者を管理統制するためのツールとして認識している。
 このような環境においては、下位者が情報を入力するのは、入力させられているからであり、入力した情報により監視されていると考える。そうなると、自分に都合のよい情報は積極的に入力するが、不利なものは入力しなくなるのは当然である。


3 情報公開の決定方法

3・1 問題の整理

 情報公開の問題は、「全社的観点からは情報を公開するのが望ましいにもかかわらず、個別の情報については、個人や部門の事情により公開範囲が狭くなる」ことと、その逆に「一部の範囲だけで秘密にすべき事項を、社内全体あるいは社外にに公開してしまう」ことの2つに整理される。このうち、ここでは前者を対象にする。
 上記の3つの形態を入力の観点で比較すると、次のような違いがある。「公開ファイル」では、隠したい内容もすでに入力されており、これからも入力される。入力すること自体には反対はない。そのデータを公開したとしても、入力されなくなることはない。問題は、公開するかどうか、誰にまで見せるかである。
 それに対して「報告」では、形式としての入力は義務づけることができるが、内容については、その情報がどこまで公開されるのかにより、入力内容が当事者の思惑により左右される。さらに「意見公表」では、入力するかどうかまでが個人の思惑により決定される。入力すべきなのに入力しなかったという事実すら、外部からは知ることができない。「報告」と「意見公表」では、公開の範囲により入力が異なるのである。

3・2 公開・守秘の決定

 「公開ファイル」では、誰がその公開や守秘の決定をするのかが問題になる。多くの企業はなんらかの守秘規程は持っているし、コンピュータに関するセキュリティ規程を持っている企業も多い。しかし、一般的には「隠す」ことが目的であり、積極的に「公開する」ことを明文化した規程持っている企業は稀であろう(当然、これらについても明確な体制を整えている企業もある[6])。
 実際には、個々の情報の公開については、個別に関係部門が相談して決めることが多い。情報システム部門と対象業務の担当部門(たとえば売上データならば営業部門など)が、その関係部門になる。企業により事情は異なるが、情報システム部門は物理的なデータは管理するが、その内容の管理や公開すべきかどうかの決定権限までは持っておらず、担当部門の意見で決まるのが通常であろう。他部門から情報を見たいとの要望があるときに、担当部門から「必要な情報があれば、当方で出して渡す」といわれれば、公開ファイルとして常時アクセスさせろとはいいにくい。すなわち、公開の是非は利用する側ではなく提供する側の都合で決まることが多い。
 「報告」や「意見公表」では、情報の所属が企業にあるのか個人にあるのかが問題になる。これについては、島田・本山が社内電子メールを対象にしたシステム監査について論じており[7]、それから類推すると企業に属するとみてよさそうである。しかし、自分の好まないことを報告させるとか、善意である意見公表を強制するのは、それとは別次元のことだといえる。
 情報を共有することを重視してオープンにすれば、多くの人が情報に接する機会が増えるが、内容が貧弱になる危険があるし、クローズにしてフランクな発言を歓迎すると、情報共有化からは遠ざかってしまう。このトレードオフの関係のなかで、効果の最大化を図る問題になる。


4 情報共有度の測定

4・1 対象の考え方

(1)対象の絞り込み

 情報共有化を重視するかセキュリティが重要かは企業によって異なるので、ここでは価値評価はしない。また、クローズな文化をオープンな文化に変えるためにグループウェアを推進するのだという目的論もここでの対象にしない。当初は公開範囲をせばめて公開や発言を積極的にさせ、それが根づいた時点で公開範囲を広げるのがよいといった推進戦略もここでの対象にはしない。
 情報共有はかならずしも公開ファイルやグループウェアを必要とはしないし、それだけでは十分な情報共有ができるわけでもない。コンピュータシステム以外での情報共有のほうが圧倒的に多いであろう。しかしここでは、コンピュータの利用に絞って考察する。すなわち、ある企業でのグループウェアや公開ファイルが、どの程度の情報共有化状態にあるかを知りたいのである。

(2)従来の指標の問題点

 情報共有度を測定する尺度として、公開データベースの有無や電子メール・電子掲示板の利用状況がよく用いられる。公開ファイルもなければ電子メールもない状態では、情報共有度は低いとみてよいから、これらはよい尺度ではある。しかし、これでは、ハードウエアとしての共有可能度はわかるが、情報としての共有度まではわからない。
 また、共有情報量の把握方法としては、電子メールや電子掲示板での入力情報量や出力情報量を測定することもよく行われる。とくに、グループウェアを導入・普及したときには、時系列で情報量の推移をグラフにして示すことが多い。また、規模の差異を取り除くために、一人当たりの情報量にする場合もある。しかし、これは多数の人に公開したのか、特定の限られた人の間だけでの公開なのか不明である。利用度の指標にはなるが、共有度の指標にはならない。

(3)グループウェア利用の二面性

 そもそも電子メールは、情報の伝達には役立つものであるが、情報の共有化とは反対の性格を持つものである。電話では応対が隣の人に聞こえる危険があり、FAXでは配達する人に見られる危険がある。面談では誰が話をしたことが知られてしまう。電子メールではこれらの危険がない。すなわち、電子メールは秘密保護のツールだともいえるのである。
 その観点では、電子掲示板は共有性が高い。しかし、それをアクセスできる人を絞れば、アクセスできない人に対して秘密性を強固にしたともいえる。電子掲示板の利用を推進するために、ペーパレスや会議レスを図ることが多いが、それによりかえって情報共有化が後退することもある。

4・2 チェックポイント

 上記のような観点から、情報共有度を測定するためのチェックポイントを考察した。このなかには、ハードウェアやソフトウェアなどの都合で共有したくてもできない場合もあるが、そのような事情は無視している。また、次のチェックポイントのなかには、逆な解釈をすることもある。たとえば、公開ファイルや掲示板が完全にフリーなときは、未だ情報活用が不十分でアクセスする人がいないので、そうなっているのかもしれない。

(1)公開ファイル

・ 個々の公開ファイルにアクセスできるユーザ識別子やパスワードを調べよ。これが厳しいときは共有度は低いといってよい。
・ 同じような内容で部門別に分けているとか、項目がちょっと違うだけのファイルが多いときは、利用者によりアクセスできるファイルを変 えているので、共有度は低いといえる。
・ ファイル自体を公開するのではなく、個別の処理プログラムを提供している場合は、共有度はかなり低いとみてよい。
・ 公開ファイルの正規化が進んでいるときは、一つのファイルを多様な角度から検索加工しようとしているので、多部門で共有していると思われる。とくに、それらのファイルや項目についての解説情報が整備されているならば、共有度はかなり高いとみてよい。
・ ダウンサイジングしているかどうかは、共有度の尺度にはなりにくい。そのサーバを使う人の間では共有度は高いが、他部門からのアクセスが困難かもしれない。

(2)電子メールと電子掲示板

・ 電子メールでは、その交信相手が公式ルートとどれだけ離れているかに注目すること。
・ 電子メールばかりが多くて掲示板が少ないとき、とくに、電子メールの同時送信人数が非常に大きいのは、本来掲示板に載せるべき事項を関係者以外に見せないようにしていると判断される。
・ 掲示板も公開ファイルと同じように、複雑な制約があったり、むやみに個数が多いときは、共有度が低いと思われる。
・ 掲示板の名称が機能名やトピックス名ではなく組織名になっているときは、アクセスを組織でコントロールしているので、共有度は低いと思われる。


おわりに

 情報共有化の重要性や普及方法については、多くの文献がある。そこでは、情報の共有化は善であり、その実現のためにグループウェアをどう適用するかという観点である。また、企業機密の漏洩防止やその対策に関しての文献も多い。そこでは情報公開するときの危険が重視され、そのための対策を強化することがいわれており、結果として情報共有化を制限をする論調になっている。
 ところが、ここで取り上げたように、実際に情報共有化で問題になるのは、情報共有の重要性の認識向上とかセキュリティ対策などよりも、「総論賛成・各論反対」や「部門間意見対立」の調整なのである。このようなことは、被対象組織の欠点にふれることにもなりアンケートも困難なためか、公表された資料を筆者は知らない。
 しかし、このようなことは多少の違いはあっても、ほとんどの企業で起こっている。このような問題をもっと直視する必要がある。できれば実証的な研究をしたいと思う。


引用文献

[1] 樋口泰行「非定型業務の情報化を阻む『3つの落とし穴』と『4つの壁』」『ダイヤモ ンド・ハーバード・ビジネス』, Aug.-Sep., 1994, pp.54-60。
[2] 『企業内情報化推進体制のありかた』日本情報システム・ユーザ協会調査委員会調査報告 書,1994.6, pp.79-82。
[3] 大山繁樹・安倍俊広「こんな会社はうまくいかない」『日経情報ストラテジー』, 1996.6, p.92。
[4] T.H.Davenport, "Saving IT's Soul: Human Information Technology", Harvard Business Review, Mar.-Apr., 1994, pp.122-123.八原忠彦訳「人間中心のマネジメント」 『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』, 1994, June-July, pp.84-85。
[5] 遠山 暁「電子ネットワークの日本的意思決定への影響」、日本学術会議経営情報研究 連絡委員会シンポジウム『電子ネットワークと日本的経営の変革』資料集、1996.7, p2。
[6] 柴田亮介「電通における情報活用とセキュリティ」 『セキュリティ・マネジメント』, No.8, 1995.8, pp.84-94。
[7] 島田裕次・本山得三「電子メールを対象にしたシステム監査」 『セキュリティ・マネジメント』, No.8, 1995.8, pp.22-29。